〜ストーリー〜
舞台はウィーン。最近法規がゆるくて市民の行動がたるんどるなぁと思っている公爵ヴィンセンシオ。
→でも、自分で法を厳しくすると市民の人気がなくなるからヤダなぁ…
→いいこと思いついた。公務で出張するフリをして、部下のアンジェロに公爵代理をやらせよう。ヤツなら謹直だから、ちゃんと法を執行するだろう。
→俺はその間変装してお忍びでウィーンを調査しよう。
→決ぃめたっと。
→アンジェロが公爵代理に就任。ヴィンセンシオ公爵は逐電。
→売春宿が営業停止になり、つまんないなぁと思っている遊び人のルーシオが歩いていると、友人であるクローディオの逮捕を目撃。
→なんとクローディオは婚約者のジュリエットを妊娠させたかどに死刑になる予定!
→ジュリエットとクローディオはカトリックの方式にのっとって婚姻契約をしていたものの、寡婦産の問題で家族に結婚を反対され、まだ式をあげていなかった。
→ウィーンには結婚前の性関係に死刑を科すという、今までほとんど執行されたことのない大昔の法律が…
→絶体絶命のクローディオ、妹のイザベラを呼んできてくれるようルーシオに頼む。
→一方、ヴィンセンシオ公爵は様子をうかがうため修道士に変装、ロドウィックと名乗る。
→イザベラは聖クララ修道会に入信しようとしている見習い修道女。
→ルーシオに兄の窮状をきき、あわててアンジェロのもとへ嘆願に。
→一方、アンジェロと長老エスカラスは裁判のため警官達と面談中。あまりに警察官が無能だったり、当事者がトンチンカンなことを言うので全然裁判が進まない。
→エスカラスはクローディオをかわいそうに思う。
→イザベラはルーシオとともにアンジェロのところへ行き、兄に対する慈悲を願う。
→謹直なはずだったのに、イザベラの美貌と才気に惚れてしまう(尼僧フェチ?)アンジェロ。
→修道士に変装したヴィンセンシオ公爵、ジュリエットを見舞う。端から見るとどうしようもない説教じみた慰め方だが、ジュリエットはお見舞いに来てくれただけで嬉しいらしい。
→トチ狂ったアンジェロ、イザベラに「俺と寝れば兄貴を助けてやる」と脅迫。
→途方に暮れるイザベラ。
→修道士に変装したヴィンセンシオ公爵、今度はクローディオを見舞って死の覚悟をするようさとす。これもろくでもないやり方であまり効果がなかったみたいだが、一応クローディオは口だけはヴィンセンシオ公爵に同意する。
→ところがイザベラがやってきて、「アンジェロが自分と寝ればクローディオを助けてやるという話をした」と話すと一転してイザベラに「お前の操なんかどうでもいいから俺を助けて!」。
→兄がこんなにひどい人だと思っていなかったイザベラ、怒って兄妹の縁を切ろうとする。
→修道士に変装したヴィンセンシオ公爵、そんなイザベラを見て、彼女に計画を打ち明ける。それによると…
→アンジェロには昔、マリアナという婚約者がいたが、持参金の問題で一方的にマリアナを捨てたという暗い過去が…
→しかもアンジェロは婚約不履行の理由を、マリアナの不行跡のせいにしているという(←昔から謹直なんかじゃなかったんじゃないの!)。
→ということで、ベッドトリック計画始動。その計画は…
→イザベラはアンジェロの意を受けたふりをして、夜陰に紛れてアンジェロのと密会する約束を取り付ける。
→実際はマリアナを行かせる。
→後でそのことを公表し、アンジェロにマリアナとの結婚を迫る。
→計画は以上の通り。
→ルーシオが登場し、修道士に変装したヴィンセンシオ公爵に向かって、公爵は実は女好きなんだと大ボラをふく。
→根も葉もないことを言われて憤懣やるかたないが、変装しているので怒れないヴィンセンシオ公爵(←とか言って本当は修道女見習いのイザベラに惚れているんだからたちが悪い。)
→ルーシオと入れ替わりに、逮捕された売春宿のおかみオーヴァーダン(「やりすぎ」「使いすぎ」の意)が登場。ルーシオが娼婦に子供を産ませたことをしゃべってしまう。
→しっかりこのことを覚えておくヴィンセンシオ公爵。
→マリアナ、イザベラ、修道士に変装したヴィンセンシオ公爵三人でベッドトリック計画を詰める。
→ベッドトリック計画はどうやら遂行された模様。
→ところがことがバレるのを恐れたアンジェロは、クローディオの処刑を命令!
→その命令を怪しいと思う典獄(←台詞からしてなかなか頭のいい役人であるらしい)。
→修道士に変装したヴィンセンシオ公爵、典獄を説得して、もう一人刑務所に入れられていた強盗殺人犯を先に処刑し、クローディオだと偽ることを提案。
→典獄はそれはまずいと言うが、修道士が「自分はヴィンセンシオ公爵の命を受けている」と言うのをきき、強盗殺人犯バーナーダインを処刑することに決める。
→ところがこのバーナーダイン、なんとこの芝居の中で一番おもしろい人で、「死刑にするぞ」と言っても、「俺は飲み過ぎて今日は死ぬ気分じゃない!」とごねまくり、周りの人は大弱り…
→バーナーダインを処刑できないので、典獄の機転で前日に熱病で死んだ囚人の首を届けることに。
→ところが修道士に変装したヴィンセンシオ公爵、イザベラには「兄は処刑された」と嘘をつく。
→嘆き悲しむイザベラ。
→イザベラとマリアナ、ヴィンセンシオ公爵の帰還にあわせてアンジェロの悪行を暴露することにする。
→元の服に戻ったヴィンセンシオ公爵の帰還。アンジェロをはじめとした役人達が出迎えに来る。
→アンジェロの悪行を訴えるイザベラ。
→知らぬフリをしてイザベラを気違い女扱いするヴィンセンシオ公爵(←このあたりが意味不明。)
→マリアナがアンジェロと「結婚」したことを暴露。
→またまたはねつけるヴィンセンシオ公爵(←ほんとこいつ、アホなんじゃないの?)。
→ヴィンセンシオ公爵、再びロドウィック修道士に変装して登場し、変装を脱ぎ捨てて自分がヴィンセンシオ公爵だと宣言。
→あっと驚く一同。
→ヴィンセンシオ公爵、マリアナとアンジェロを結婚させる。
→ヴィンセンシオ公爵、特権乱用と違法な理由によるクローディオ処刑の罪でアンジェロの処刑を宣言。
→助命嘆願するマリアナ。イザベラもアンジェロを許すと言う。
→典獄が登場、クローディオが生きていると明かす。
→ヴィンセンシオ公爵、アンジェロを特赦。
→ヴィンセンシオ公爵、ルーシオに孕ませた娼婦と結婚することを命じ、しかもその後ルーシオを処刑すると言う(←ふざけた野郎だ)。
→ヴィンセンシオ公爵、イザベラに求婚。
→答えないイザベラ。
→終わり。
〜分析〜
これが20世紀の批評家を悩ませた「シェイクスピア最大の問題劇」。見ての通り、結構複雑な話です。
ノースロップ・フライいわく、この話を読んでいると、主要な登場人物で正気なのはルーシオ(典獄とエスカラスもかな?)だけで、あとの人物は全員神経症にかかっているのではないかと疑わざるを得ないそうですが、たしかにそのとおりです。
まずヴィンセンシオ公爵が明らかに変人(クローディオが死んだことにしておくとか、こいつサディストなんじゃないの?)であること。この人物の行動があまりにも独善的であるため、単なる芝居機械のような存在であるととらえる人もいるほど。この人をイザベラを慈悲に導く「キリストの象徴」とみなす批評家もいるらしいが、私に言わせるとどこからそんな解釈が出てくるんだか、そんなことを言う批評家の目は節穴…(以下省略)。だってセクハラ殺人未遂犯アンジェロを生かしておいて、単なる軽薄な遊び人にすぎないルーシオを処刑するなんて、まるで貴族主義的ファシストです。セクハラ殺人犯と結婚したがるマリアナもなんだかおかしいし、妹の尊厳なんか何ともおもっていないらしいクローディオもまあ情けないことこの上ない人物だし、キャラクター設定は全体的に非常に変です。
この話の主人公はイザベラです。今までの批評史においては彼女は「独善的な理想主義者」ということになっていますが、フェミニズム批評からするとそういうのはかなり男性中心的な意見としか思えません。
まず、イザベラの性格の不可解な点として、クローディオが逮捕されたというのに修道院に入ろうとしているなんておかしいという話がありますが、そんなんイザベラが修道院に行った後でクローディオが逮捕されたので、イザベラは兄が今どうなってるかなんて全く知らなかったからに決まっていると思うのですが…
それから彼女がアンジェロの要求をつっぱね、兄にも同じ態度を求めるのが「独善的な理想主義者」ということになるらしいですが、この拒絶は女性としては当然のことだと思います。意に染まぬ男から関係を強制されたらきっぱりと断るのが当然です。兄を助けるために自分の尊厳を捨てないからイザベラは独善的な理想主義者だという主張は、全く男性中心的で、イザベラのプライドと尊厳という問題を全然考えていないと思います。とくにイザベラは処女の純潔が一番大事だったルネサンス期の女性(ただしルネサンス期でも、結婚後の浮気は横行していました。その点日本と逆です。)で、修道女を志しているんだから断らない方がおかしいです。イザベラだって自分の将来が一番大事なんだから、兄のために理不尽な要求をのんで身を捨てる必要はないと思います。
あと、イザベラがヴィンセンシオ公爵の求婚に対して無言であるという結末も問題です。イザベラが返事をしないのは当然肯定であるという推測もありますが、私はそんなのはセンチメンタルな憶測だと思います…ヤン・コットみたいに「政治的に」考えたらそうはならないでしょう。イザベラは物語の中で公爵(ロドウィック修道士)を愛するようになっているのだからイザベラはヴィンセンシオ公爵と結婚するはずだという推測もありますが、私は話の途中でイザベラがヴィンセンシオ公爵を愛するようになっているとはとても思えないし、イザベラは修道女なんだから結婚したいわけはないと思います。そうなればヴィンセンシオ公爵と無理矢理結婚させられるか、それとも逐電して無理矢理修道女になるかでしょうね…まさにヤン・コットの言いそうな世界になってきました。
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