白鳥の湖

鑑賞日時:4/22
場所:Bunkamuraオーチャードホール




 以前国際フォーラムでマシュー・ボーン演出の『くるみ割り人形』(音楽は録音)を見て、それが私のバレエ初体験だったのですが、あまりのキッチュ&楽しさに驚きました。それに『リトル・ダンサー』(主人公の男の子ビリーが『白鳥の湖』の白鳥の役をやりたいがために周囲の反対を振り切ってバレエを習い、最後はマシュー・ボーンの演出らしきバレエで華々しく主役を演じるという映画)が好きだったので、前からボーン版『白鳥の湖』には興味があったのです。

 ということで、今回は出張で出てきている父をそそのかし、おごりで生オケ版を見ることになりました。  

 初演は10年前だったそうで、今回はリニューアル版演出。前回はキャストが全員男だったそうですが、今回は白鳥は全員男であるものの一応女も出てきます。

 ところがお話がかなり伝統的な白鳥の湖とは変わっていて、バレエのコードを全然理解していない私と父は実は全然ストーリーがわかりませんでした…
私「あの最初に出てきた派手な女は王子の母親で、エリザベスとチャールズのパロディなんだよね?」
父「ん?あの派手な女は王子と結婚してるんじゃないのかぁ?」
 …等々。

 とはいえ私にわかったかぎりで(Bunkamuraホームページのあらすじに助けられつつ)簡単に話を要約すると、とあるヨーロッパの国に王子様と母親の女王(アマゾンのあらすじによると母親らしい)がいて、王子様は連日のくだらん公務に疲れて精神を病んでおり、そこらへんの女の子と適当に遊ぼうとするが色々トラブルが起こって結局別れることになり、母親ともマザコン関係にあるのだが母親もそのへんの軍人と遊んでいるので息子にあんまりかまってくれず、飲んだくれていたバーを追い出された時白鳥たちに出会います(←ここから幻想モードに突入)。それで白鳥たち(全員男性)の野性的な力に魅了された王子は白鳥のボス(ザ・スワン)に言い寄るんですが、そのザ・スワンは誘惑しては突き放すのを繰り返して、結局朝が来ると白鳥はいなくなってしまします。王子は宮殿に帰ってパーティに出るのですが、そこに急にワイルドな男性がやってきてそこら中の女の子と踊りまくり、母親を誘惑。しかも白鳥の仕草をして王子まで誘惑するので、どうやらこの青年はザ・スワンらしいということがわかります。ザ・スワンが母親を誘惑するのに怒った王子は暴れ出しますが、そのせいで大乱闘が発生し、死人が出る事態に。動転した王子は母親に幽閉されて妙な手術を施され、ベッドに寝かされます。ところがそこからまた幻想モードに突入し、白鳥たちがベッドの下から出てきて王子を威嚇。ザ・スワンはどうやらかわいそうな王子のことを愛するようになったらしく、王子を守ろうとしますが、結局やられてしまいます。朝が来ると白鳥たちは消え去り、王子はベッドの上で死んでいて、背景には王子を抱いた白鳥の姿が幕越しに影になってうつり、死んでようやく二人が結ばれたことがわかります。

 一応こんな感じのストーリーなのですが、間違ってるかもしれません。あんまり自信ないです。

 まず特筆すべきは音楽がおっそろしく速いこと。普通『白鳥の湖』は、ためてためて優雅にドラマティックに演奏することが多いと思いますが、マシュー・ボーン版では踊りのダイナミックなテンポを崩さないようにものすごい速弾きをします。幻想モードに入るときはたいてい例の「白鳥のテーマ」が流れるのですが、盛り上がるところを全然ためません。音楽は東京フィルハーモニー交響楽団がやっているのですが、このテンポで白鳥をやったことがないのがミエミエ(キケキケと言うべきか)で、ダンスについていけません!団員がとまどっているのがまるわかりで、音のつぶが全然そろっていないし、ところどころでキィコキィコ音が発生したり、パート間のバランスが崩れたりはしょっちゅう。かえって緊張感が出たとは言えるかもしれませんが…とはいえこういうことはライブ演奏ではたまにあるらしく、指揮者や楽団員とソリスト(この場合は演出家か)の意見が合わない場合は、かなりのプロでも目も当てられない(耳も当てられない)事態になります。(私はグレン・グールドのライブ盤なんていう珍しいものを聴いたことがあるのですが、グールドと指揮者の解釈が全く違ったようで、全然演奏があっていなくて聴いてるこっちが緊張しました。)

そしてやっぱり見所は白鳥が全員男だということでしょう。上半身裸に下は羽の短パンみたいのをはいて、たぶん裸足で踊るのですが、非常に力強くて、一見優雅そうな白鳥が実際は荒々しく自由な野生の鳥であることをひしひしと感じさせてくれます。席が遠かったのでザ・スワンの顔や身体はあまりよく見えませんでしたが、遠くから見ているだけでもかなりかっこいいです。(とはいえ舞台人やスポーツ選手というのは大舞台に立つとかっこよくても普段は普通のしみったれた人だと言うこともあるのでわかりませんが。)踊るとちょっと羽が一、二枚パラっと落ちるのですが、そういうところもなんか生々しくていいです。やっぱり男性があれだけ大勢であんな格好をして、白鳥の仕草を取り入れた群舞をすると異様な迫力があります。それにやっぱりちょっと妖しい。もちろんそれは鍛え抜かれたテクニックと厳しい選抜の産物であって、バレエって大変なんだろうなぁと思います。

 ユーモアと毒気もこの舞台の大きな特徴の一つです。全体的にゲイ・テイストが強くてエロティックなのですが、ところどころにキャンプな笑いが取り入れられていて普通に見ていても面白いです。こういうちょっとしたギャグが随所にあると全体が引き締まるし、お笑いポイントは大人なら誰でもわかるようなものなので、話がわからなくて混乱していても大丈夫です。ウエスト・サイド物語のパロディなんかも取り入れられていて、ポップカルチャー好きの心をくすぐります。  

 話がわからなかった手前全体の構成を分析するのは気が引けますが、途中の劇中劇とか、えんえんとパーティする場面なんかは時々間延びした感じを与えました。とはいえこれはチャイコフスキーの音楽がかなり長いものなのでしょうがないんだろうと思います。チャイコフスキーはまさか自分のバレエ音楽がこんなテンポで演奏されるとは思わなかったでしょうが、マシュー・ボーン版『白鳥の湖』を見たら喜ぶんじゃないかと思います…あくまで推測ですが。

 ともあれとにかく妖しくてワイルドで、バレエなんか全然見たことがない私でもとにかくすごいと思えるような作品でした。ザ・スワンはもちろん初演のアダム・クーパーじゃなかったのですが危険な魅力を放っていたし、王子様は日本人のダンサーでした。

 とは言っても、これを見る前に普通の古典的な『白鳥の湖』を図書館かなにかで見ておくべきだったとちょっと後悔しました。そうすればどう話が違うとか、演出がどれくらい革新的かとか、演奏の違いとか、バレエのコードについてももうちょっとは理解できたのにと思います。そうすればたぶん今回の『白鳥の湖』ももっと楽しめたのにと思います。とはいえそんなことを全然知らなくでも十分すごかったので、また行きたいです。





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