「・・・こ、これは・・・」

誰よりも一足早くナデシコDに搭乗したアキトは、目の前の光景に思わず絶句した。


「どうだい?これならきみも人前に姿を見せないで済むでしょ。」

アキト共にナデシコDを訪れていたアカツキが自慢気に言った。


その視線の先には、アキトのために造った隠し通路が姿を見せている。

その隠し通路は一直線にブリッジと厨房を結んでいた。


「いや、確かにそうだが・・・」

アキトは完全に呆れていた。



ナデシコD。

当初は真っ当な艦であったナデシコDであったが、アキトを乗せることを計画したアカツキの命令で
若干の改造を施されていた。

ブリッジから厨房まで隠し通路が作られているのだ。

隠し通路と言っても、ブリッジから厨房までにある部屋を通り抜けられるようにしただけなのだ。

アキトの目にはいくつかの部屋の向こうに厨房が見えているのである。


しかし少し考えれば分かるとおり、通り抜けられる方の部屋は非常に住みにくい。

そしてブリッジと厨房の間には部屋が六部屋ある。

これはアキトの素性を知るものしか部屋におけないという制約があるため、現在どの部屋の住人も決 
まっていない。

もっとも、実は一部屋だけ内定している。

それは後ほど明かされるだろう。



そして厨房は、食堂との間に仕切りがあるため、食堂からは見えないようになっているのだ。


例えこの隠し通路を使ったとしても、ブリッジ要員と厨房のクルーにはばれるなのだがアカツキ曰く
「その人達にはばれても大丈夫」だそうだ。

アキトには何故だかさっぱりわからないのだが、アカツキの言うことならと、信じていたのだ。

アカツキが知ったら喜ぶことだろう。


「俺の部屋は何処になるんだ?」

アカツキのことだ、隠し部屋でも造っているのだろう。

アキトはそんなことを考えながらアカツキに聞いた。


「きみの部屋?そんな物ないよ。」

アキトの考えとは裏腹に、アカツキはあっさりとそう言った。

「なに?」

思いもよらない言葉にアキトは聞き返す。

「そんな物があったら怪しむ者が出るじゃないか。」

アカツキの言葉ももっともである。

「じゃあ俺はどこに寝れば・・・」

アキトはそれほど困った様子は見せずにそう言った。


かつて過酷な戦いを経験したアキトは何処でも寝れる。

いざとなれば、厨房やブリッジで寝ればいいと考えているのだ。


「別にラピス君の部屋でもエリナ君の部屋でもイネス君の部屋でもどこでもいいじゃないか。」

アカツキは冷やかすようにそう言った。

「そういうわけにはいかないだろ。」

アキトは呆れながら言った。


(彼女達は嫌と言わないと思うけどね。)

アカツキは内心でそう思いながらも口には出さない。

そういうことに関しては黙って見ていた方が面白い、それがアカツキの考えである。


「じゃあブリッジか厨房に泊り込みたまえ。」

「・・・はぁ。」

アカツキの言葉にアキトはため息をついた。


(こいつを信じたのは間違っていたかな・・・)

いくら寝れるとはいえ、出来ることなら普通に眠りたいのだ。

アキトのアカツキに対する信用は若干下がった。


「さて、そろそろブリッジと厨房のクルーが来る頃だね。」

アキト心中を知ってか知らずか、アカツキはアキトに向かって話し掛けた。

「そうか。」

アカツキがばれても大丈夫、と言っている者達である。

どんな連中かアキトも気になるのだ。


「そうか、じゃないよ。早く隠れないと。」

アカツキはアキトの落ち着いた態度に対して呆れたように言った。

「なぜ隠れる必要があるんだ?」

全然わからない、アキトはそんな感じで聞き返した。

「きみが信用出来ないような人物だったら帰ってもらうからね。その見極めさ。」

「だったら先に教えろ。」

アカツキの言葉に納得しながらも、アキトはそう言わずには居られなかった。


「まあまあ、気にしない。それじゃあ隣の部屋から覗いていようよ。」

アカツキはアキトの問いを誤魔化しながら、アキトを隣の部屋へと押していく。


アカツキに促されてアキトは渋々隣の部屋へと入っていた。


隣の部屋に入った二人は隠し通路へと繋がる隠し扉からブリッジを覗いていた。

隠し扉からブリッジを覗いているアキトとアカツキ。

はっきり言わなくても怪しい。

他人が見たら警察を呼ばれること必至である。









「まだ誰も来てませんね。」

そう言いながらメグミがブリッジに入ってきた。


(メ、メグミちゃん!?)

メグミを見たアキトが驚きの声を上げる。



「う〜ん、ここが新しい職場なんですね。やっぱりナデシコと違いますね。」

久しぶりの戦艦搭乗となるメグミが興味深そうにブリッジを見回している。



(アカツキ!なぜメグミちゃんがいるんだ!!)

(一流のクルーを集めるって言ったじゃないか。)


アキトは怒鳴っているように聞こえるが、しょせんは覗きが二人。

ひそひそ話にしかなっていない。


微かに開いている扉から隣を見つめる男が二人。

その顔にはブリッジから洩れてくる光が一筋走っている。

さらにひそひそ話をしているため二人の顔はかなり近づいている。


・・・言うまでもなく怪しい。




隣の部屋から怪しさ満点の二人が覗いていることも知らずに、メグミは通信席と思われる席に座る。


「あの写真・・・やっぱりアキトさんなのかな。」

やや俯きながらメグミはそう呟いた。



(!!なぜメグミちゃんが知ってるんだ!)

メグミが自分のことを知っていたことに、アキトは驚きの声を上げる。

もちろんひそひそ声である。


(プロス君が交渉の時に見せたらしいんだよ。)

アカツキもひそひそ声でそう答える。



独り言のためかなり小さかったメグミの声であったが、アキトとアカツキはしっかり聞き取っていた
らしい。


・・・耳がいいのも覗きの必須条件である。




「でも、アキトさんは指名手配中なんでう・・・乗ってるわけないですよね。」


完全に顔を俯かせてしまったメグミを見て、アキトが辛そうな顔をする。


(どうするんだい?)

そんなアキトを見てアカツキが問い掛ける。

(メグミ君にきみのことを知らせていいのかい?)

(・・・ああ。)

しばらく考えた後、アキトは頷いた。


自分の事を知ればメグミにも迷惑が掛かるかもしれないが、このまま見ているのは辛かった。



(それじゃあ呼んでくるよ。)

(俺も一緒に行けばいいじゃないか。)

一人出て行こうとするアカツキアキトが待ったをかける。

(そこはほら演出ってやつさ。)


呆れた顔のアキトを置いてアカツキはさっさと出ていった。



一人残され、やることのないアキトは仕方なく再びブリッジを覗き始めた。

メグミはいまだに俯いている。



アキトが覗いている中、アカツキがブリッジに入ってきた。

わざわざ手動で扉を開け、メグミに気付かれないようにしているようだ。


(何やってるんだ、アイツは・・・)

覗いている自分の行動を棚に上げて、アキトはアカツキの行動に呆れていた。



「やあメグミ君、久しぶりだね。」

密かにメグミの背後に迫ったアカツキはメグミに声を掛けた。


突然のアカツキの言葉に、メグミは驚いた様子で慌てて顔を上げる。

「アキ・・・なんだアカツキさんですか。」

気にしていたアキトの登場を期待したメグミであったが、アカツキだったことに肩を落とす。


(なんだって・・・)

会っていきなり肩を落とされたアカツキは汗を浮かべている。


「いや〜メグミ君、取材攻勢大変だったね。」

なんとか気を取り直してアカツキがメグミを労わる。



ナデシコDへの乗艦はメグミにとってはキャンペーンの一貫ということになっている。

さすがに最新鋭艦であるナデシコDでの撮影は行えないため、搭乗前の取材攻勢は凄まじいものが
あった。


ではどうやって宇宙での取材を行うのか?

それはネルガルが用意した宇宙船でナデシコDに付いて行くのだ。


戦うための戦艦に付いて行くただの宇宙船。

正直言って危険極まりないのだが取材に掛ける執念は凄まじいらしく、ほとんどの雑誌、新聞社が記
者を乗せていた。

メグミとホウメイガールズという二組のスターの取材とはいえ、見上げた根性である。


ネルガルとしてはナデシコDの戦闘風景を宣伝してもらえるので大変ありがたい。


しかしナデシコD側から見れば迷惑この上ない。

アキトはこの先、コブ付きの戦艦で多大な戦果を上げなければならないのだ。

もちろん御付の宇宙船を落とされるわけにはいかない。

戦術の幅は無くなるに等しい。


この事実もちろんアキトは知らない。



「そんなことはどうでもいいです。」

メグミを気遣ったアカツキの言葉はあっさりと無視された。


アカツキのこめかみを伝う汗の量が増す。


「いい加減あの写真のことを教えてください。」

本来契約の時に教えてもらうはずだったことを今まではぐらかされたのだ。

メグミは真っ先にそれを知りたかった。


「ああ、それなら隣の部屋に彼がいるよ。」

アカツキは演出の予定通り、メグミに教える。

「隣の部屋ですね。」

アカツキに言われたメグミはブリッジを後にした。


それを見たアカツキがアキトの覗いている隠し扉のほうにやってきた。


「じゃあテンカワ君後は頑張って。」

アカツキの口調は実に楽しそうである。

「何を頑張るんだ、何を!」

思わず大声になったアキトには答えずに、アカツキは隠し扉を閉めてしまった。



その結果、真っ暗になった部屋でアキトは一人メグミの訪れるのを待つこととなった。




(・・・来ないな。)

やや緊張した面持ちでメグミを待っていたアキトであったが、当のメグミはなかなか来なかった。




「アカツキさん!居ないじゃないですか!!」

メグミが戻ってくるのと同時にブリッジにそんな声が響き渡った。

「え?」

アカツキも思わず聞き返す。

「隣の部屋は掃除用具置きじゃないですか!探したけどアキトさんなんかいませんでしたよ!」

どうやらメグミは反対側の部屋を見てきたようだ。


しかも御丁寧にわざわざアキトを捜索したようだ。

アキトが掃除用具置きにいるとでも思ったのだろうか。



これにはさすがのアカツキも声が出ない。



「隠すとためになりませんよ!さっさと教えてください!」

一方騙されたと感じたメグミはアカツキに詰め寄る。

「い、いや・・・反対側の隣なんだけど・・・」

アカツキは何とかそれだけ言うことに成功した。

「え?」

アカツキの言葉にメグミの動きが止まる。

恥ずかしいのか顔は若干赤味を増している。


「・・・それならそうと早く行ってください!」

半ば八つ当たり気味にアカツキに言うと、メグミは再び出て行った。



ちなみにこの会話、アキトの耳には聞こえていない。

防音設備がしっかりしているために扉を閉めると何も聞こえないのだ。

そのため、暗闇で待っているアキトはなんとなく寂しい思いをしていた。




ドンドンドン!

再びブリッジを飛び出したメグミはアキトの居る部屋の扉を叩いていた。

「アキトさん!アキトさん!とっとと出てきてください!」

どうやら写真の男はアキトに決定済みのようだ。

「もう!なんで扉が閉まってるんですか!」

メグミは愚痴をこぼしていた。


実は先程アカツキが出て行くときにきっちり鍵を掛けていったのだ。

普段から防犯に気を使っている企業の会長らしい行動である。


アキトはアキトで一応扉を開けようとしていたのだが、彼とて普通(?)の人間。

真っ暗な、しかも全く知らない部屋で的確な行動が出来る訳もなく困っていた。



扉を叩く音をアカツキが聞きつけてもいいはずだが、そこは防音のしっかりしているナデシコD。

ブリッジにいるアカツキには全然音が聞こえていないのだ。



およそ二分間扉を叩き続けたメグミは仕方なく再びブリッジに戻っていった。



「鍵が掛かっているじゃないですか!」

ブリッジに戻ったメグミは再びアカツキに詰め寄った。

「・・そう言えばそうだったね。」

自分が鍵を掛けたこと思い出したアカツキは、大きな汗を浮かべた。

「しょうがない、僕も一緒に行くよ。」

そう言って懐から鍵を取り出すと、扉に向かって歩き出した。

「アカツキさんはいりません。鍵だけ下さい。」

メグミの容赦ない一言にアカツキは動きを止める。


(い、いらない・・・僕はいらないのかい・・)

あまりの言葉にアカツキは心中涙で一杯だ。


メグミはそんなアカツキを全く気にせず、アカツキの手から鍵を取るとさっさと出て行った。



(写真で見たアキトさん随分大人っぽくなってました。この先何があるかわかりませんから一応印象
は強くしておかないといけませんね。)

・・・メグミは非常にしたたかだった。




ブリッジでそんなやり取りがあったとは知らず、アキトは暗闇で一人待っていた。


そんなアキトの目にようやく光が差し込んできた。

メグミが鍵を開けて入ってきたのだ。


「アキトさん・・・いるんですか?」

アキトの目からは逆光のため顔は確認は出来ないが、メグミの声がした。

「メグミちゃん・・」

三年ぶりの再会にアキトも何かこみ上げる物があるのだろう。


「お久しぶりですね、アキトさん。」

アキトの声を聞いたメグミが涙声になって言う。

「メグミちゃん・・・」

そんなメグミの声を聞いたアキトも感極まる。


(くすくす。私は元声優なんですよ。これくらい簡単なんです。)

逆光でアキトが見えないのを良い事に、メグミは自分の演出が上手くいったことを確信して笑みを浮
かべる。

・・・自分の技術を使った見事な作戦である。

ちなみに今のは千の声を持つメグミの技の一つ、「彼氏との再会を喜ぶ涙声の女性の声」である。



「心配かけちゃったみたいだね。」

そんなメグミの心中など全く気付かずに、アキトはメグミに優しく言葉を掛ける。

「本当です。心配したんですから。」

メグミは表情を元に戻すとアキトに近づいた。

「もう何処にも行かないですよね。」

メグミはそう言ってアキトに抱きつく。

「ああ、もう何処にも行かないよ。」

アキトもメグミを抱きしめて答える。


何時の間にか、恋人のような雰囲気になっている。

アキトは雰囲気に流されており、全く気にしていないようだ。


さすが千の声の一つ「彼氏との再会を喜ぶ涙声の女性の声」、その威力は折り紙付だ。


(・・・始めはこんな物でしょう。)

そう考えたメグミはアキトから離れる。

急にメグミが離れたため、アキトはどこか残念そうだ。


(どのくらい成長したのか見極めさせてもらいますよ、アキトさん。)

そう考えるメグミの顔には数千万人の民衆を魅了した子悪魔的な笑顔が浮かんでいた。


アキトは三年ぶりに見たメグミの笑顔に目を奪われてた。




それからメグミはアキトとの会話を楽しんだ。

といっても、先程までの雰囲気は既に無い。

純粋に会話を楽しんでいるのだ。

アキトの事は出来る限り聞かなかった。



そんな中でメグミは一つのことを感じていた。


アキトは大人になった。

芸能界で色々体験している自分とでも充分に会話できるほどに大人だった。

おそらくここ数年で色々体験したのだろう。

世間で言う通りのただのテロリストであるのなら、出来ないような考え方をしている。


その一方で昔と変わっていないところもあった。

照れ屋なところ。

人の良いところ。

昔メグミが惹かれたところは変わっていなかった。


それがメグミには嬉しかった。

やはりアキトはただテロを行っていただけではないのだ。

このアキトとなら再び戦友となれる。



アキトもまたメグミとの会話を楽しんでいた。

久しぶりに話すテロもクリムゾンも関係の無い話。

それは懐かしい気持ちがした。

昔の自分に戻れているような気がした。



それはアカツキの狙い通りだった。


しかしそのアカツキは二人の頭からすっかり忘れ去られている。




「そろそろいいかい?」

楽しそうに話す二人にアカツキが話し掛ける。


先程から部屋には来ていたのだが、二人からは完全に無視されていたのだ。


「どうしたんだ?」

アキトが聞き返す。


メグミはアカツキの方を一瞥しただけで何も言わない。


(邪魔です!)

・・・目は口ほどに物を言っていた。



「そろそろ次の人が来るから隠れないといけないんだよ。」

出来るだけメグミの方を見ないようにいいながら、アカツキは二人に言った。

「隠れる?」

何のことか分からないメグミが聞き返す。

その視線はとりあえずいつも通りに戻っていた。


「まあ詳しい話はおいとこうよ。」

メグミの視線が軽くなったことに、アカツキは少しほっとした表情になりながら電気を消し、扉を閉
めた。


ちなみに明かりは部屋に入ってきたにもかかわらず二人から無視され続けたアカツキが気付いてほし
くて点けたのだ。


しかし、二人からは変わらず無視された。

と言うよりも意識の外に置かれていたのだ。



「ま、真っ暗じゃないですか。」

突然明かりを絶たれたメグミはやや怯えた声を上げながら近くにいたアキトにしがみついた。

「ちょ、ちょっと、メグミちゃん。」

メグミにしがみつかれたアキトは慌てた声を上げる。

「暗いのは苦手なんです・・・ダメですか?」

メグミは怯えたような口調でそう言った。


(!!そうだよな、メグミちゃんは女の子だもんな。)

メグミの怯えた声を聞いてアキトは猛烈に保護欲にかかられていた。


「いや、ダメじゃないよ。俺でよければ傍にいるから。」

アキトは出来るだけ優しい声でメグミに囁いた。

「ありがとうございます。」

そう言うと、メグミはさらにアキトへとしがみついた。


(まだどうなるか分かりませんが、いつでも攻められるように土台は作っておかないといけませんか
らね。)

・・・ハプニングをも利用するメグミ、策士の評判は伊達じゃないようだ。


ちなみに今のは千の声の一つ、「捨て猫のように縋ってくる女の子の声」である。

その威力はたったいまアキトによって証明されたばかりだ。



かなり密着した状態の二人に一筋の光があたった。

またもや二人に無視されたアカツキがブリッジへと続く隠し扉を少し開けたのだ。

もちろん覗きのためである。


「もういいかい?いい加減にしないと次のクルーが来ちゃうんだよね。」

先程から無視され続けて機嫌が悪いのか、アカツキは投げやりな感じで言った。


アカツキの言葉に促されて、アキトは扉の傍に向かい、メグミもそれに続く。


アカツキは既に隣を除く体勢に入っている。


(怪しいな・・・)

(怪しいですね・・)

一筋の光に照らされながら、隣を覗いているアカツキを見てアキトとメグミはそう思っていた。


アキトはさっき自分も同じ事をした、ということを棚に上げている。


それはともかく、次にやってくるクルーが気になるアキトは自分も先程と同じ体勢なりブリッジを覗
く。



ドン!


なんとなく興味を持ったメグミは邪魔なアカツキを無理矢理退かすとアキトと同じくブリッジを覗き
だした。

身長の関係でメグミはアキトより下で覗いていることになる。


(私の時もこうして覗いていたんですね。)

(俺は指名手配中だからね。信頼出来る人間か確かめないと。)

批難するような口調のメグミにアキトは悲しそうな雰囲気になりながら言った。

(じゃあ私は信頼されてるんですね。)

(もちろんだよ。)

一転して嬉しそうになった嬉しそうな口調になったメグミに対して、アキトは頷いた。


ちなみに今のは千の声の一つ・・・ではない。



そんな会話を交わす二人の後ろで、押し倒されたアカツキは床で蹲っているのだがメグミはおろか
アキトにも気にされていなかった。


(・・・テンカワ君、きみは本当に僕の親友かい?)

アカツキはアキトに対して疑問を覚えていた。



なんとか立ち直ったアカツキは、どこからか台のような物を持ってくるとそれに乗ってアキトの上か
らブリッジを覗き始めた。


アカツキはだれが来るのか知っているはずなのだが、なぜか覗くことに力を注いでいる。

単なる趣味なのかもしれない。



暗い部屋で三人の男女が縦になって隣の部屋を覗き込んでいる。

・・・怪しさが段々増している。







三人が見守る中、ユキナがブリッジに入ってきた。


「わ〜!ここがブリッジか〜!」

ユキナが大きな声でそう言いながらブリッジを見回した。

「ちょっとユキナ!あなたも荷物持ちなさいよ。」

そう言いながら、ミナトも続いてブリッジに入ってきた。

両手には大きな荷物を持っている。


「あんたのせいで戦艦に乗る羽目になっちゃったのよ。」

「は〜い。」

ミナトに言われて、ばつが悪そうにしながらユキナはミナトの持っていた荷物を一つ手に取った。



(今度はミナトさんとユキナちゃんか・・・)

予想してたよ、とばかりにアキトはため息をついた。

(優秀な操舵士だろ?)

そんなアキトの反応を楽しみながらアカツキは言った。

(ユキナちゃんはなんなんだ?)

アキトの知る範囲で、ユキナに特殊技能は無かった。

(それはほら、ミナト君とユキナ君はセットみたいなものだから。)

アカツキはアキトに突っ込まれてしどろもどろになりながら答えた。


実際、ユキナはミナトを引き込むために勧誘したようなものである。

もっとも、もう一つ別の目的もあるのだがそれは後ほど明かされるだろう。


(うわ〜、ミナトさんもユキナちゃんも久しぶりですね〜。)

アキトとアカツキの会話の一方で、メグミは旧友との久しぶりの再会を喜んでいた。



「誰もいないわね〜、部屋も聞いてないし何処に行けばいいのかしら?」

「ブリッジに来いって行ってたよね。」

誰も居ないブリッジに二人はやや困っている。



(さあテンカワ君、どうするんだい?)

(ミナトさんなら大丈夫だろ。)

アカツキに聞かれたアキトはすぐに答えた。

(ユキナ君は?)

(・・・ミナトさんに見張ってて貰えば大丈夫だろ。)

こちらの方はアキトはだいぶ不安そうである。


確かにユキナの普段を見ていると隠し事というのが苦手そうに思える。


(大丈夫ですよ。ミナトさんならきっと上手くやってくれます。)

不安そうなアキトに向かってメグミがフォローを入れる。


全然ユキナのフォローのはなっていないのだが、気にしてはいけない。


(それじゃあ呼んでくるよ。)

(また演出か?)

またもや一人で出て行こうとしたアカツキに向かってアキトが話し掛ける。

(もちろん。)

楽しそうな声でそう言うとアカツキは部屋を出て行った。


(さっきのも演出だったんですか?)

(そうみたいだよ。まったく何考えてるんだか。)

アキトは呆れたような口調でメグミに答える。


(・・・)

同意したいところだったが、自分も演出を行ったメグミは大きな事を言えなかった。



「やあ待たせたね。」

アキトとメグミがそんな会話をしている間にアカツキがブリッジに入ってきた。

今度は隠れたりせず、普通に入ってきたようだ。


「あら、アカツキさんじゃない。久しぶりね。」

「アカツキさん、久しぶり〜。」

アカツキに声を掛けられた二人がアカツキに言った。

「そうだね。」

その後、三人は当り障りの無い会話を交わしていたが、会話が一区切りつくとアカツキが当初の目的
に取り掛かった。


「きみ達にはまず会ってもらいたい人がいるんだ。」

「会ってもらいたい人?」

アカツキの言葉にミナトが疑問の声を上げた。


「そう。この艦に乗るにはその人の許可がないと駄目なんだよ。」

「そっちからスカウトしてきたくせに何言ってんのよ!」

アカツキの言葉にユキナが大声で文句を言う。


「まあこっちにも事情があってね。」
 
「はいはい、わかったわよ。それで?誰に会えばいいの?」

ミナトがユキナを宥めつつ、アカツキの要請に答える。


「それは会ってのお楽しみさ。隣の部屋にいるから行ってみてよ。」

アカツキは楽しげに答えた。

「しょうがないわね〜。行こう!ミナトさん。」

ユキナは不満気にそう言いながら、ミナトの手を引っ張ると扉へと向かった。

「ちょ、ちょっとユキナ離しなさい。」

ユキナに急に引っ張られたため、転びそうになりながらもミナトはユキナについていった。



「それじゃあテンカワ君後は頑張って。」

アカツキは二人が出て行ったのを確認すると隠し扉に近づき、メグミの時と同じようにアキトに声を
掛けた。

「だから何をだ。」

アキトも同じように呆れ口調を返す。

「あ、メグミ君はこっちね。」

アキトの言葉を無視したアカツキはメグミに向かってそう言うと隠し扉を大きく開け、メグミをブリ
ッジに引っ張り込んだ。


「キャッ!」

突然のことにメグミは悲鳴を上げる。


そしてアカツキはすぐに隠し扉を閉めた。



「突然なにするんですか!」

急にアカツキにブリッジに連れ去られ、メグミが不満の声を上げる。

「せっかくの再会なんだから邪魔者はいらないでしょ。」

「別に居てもいいじゃないですか!」

メグミは不服そうだ。

「ダメだよ。」

アカツキが真面目な声になって言った。

「テンカワ君と会ってどんな反応をするかは重要なことだからね。」

アカツキの言葉にメグミはいまだに不満そうであったが、渋々納得した。





「ちょっと〜、いなかったわよ。」

しばらくすると、ミナトがそう言いながら戻ってきた。

なにやら疲れた表情をしている。


「そうよ!隣は掃除用具置きじゃない!」

そう叫ぶユキナの服や身体の一部は汚れていた。


どうやらメグミと同じように掃除用具置きの中を探していたらしい。



戦艦を掃除するだけあって、掃除用具置きはかなり広い。

道具が多く置いてあることもあって探すのは一苦労なのだ。

しかし、掃除用具置きに人が居ると思ったのだろうか。



(な、なぜ掃除道具置きを探すんだい・・・)

二人の態度から何があったのかを察したアカツキはショックで頭を壁に打ち付けていた。



メグミは汗を浮かべながら苦笑いをしている。

先程自分でやったことだけに笑い飛ばすことは出来ないのだ。




「あんた騙したわね!」

直情型のユキナがアカツキに詰め寄る。

「・・・反対側だよ。」

アカツキはユキナに向かって手を振りながら、投げやりに言った。

「え?」

アカツキの言葉にユキナの動きが止まる。

「え〜と・・・」

ユキナはどこか決まりが悪そうだ。

その後ろではミナトも決まり悪そうにそっぽを向いている。


「そ、それなら早く言いなさいよ!行こ、ミナトさん!」

アカツキに一言言った後、ユキナは再びミナトを引っ張ってブリッジを出て行った。

ミナトも疲れた表情を見せながらもユキナに付いて行く。


二人ともメグミには気付かずに行ってしまった。

メグミはちょっぴり寂しそうだ。



「みんなやることは一緒なんですね。」

いまだ精神的ショックから立ち直れていないアカツキに向かってメグミが言った。

「そんなことするのはきみ達くらいだよ。」

アカツキは呆れながらそう言った。




「そう言えば、扉は開いているんですか?」

さっき扉が開いてなく、入れなかったメグミが念のため聞いてみる。

「・・・・・。」

アカツキはメグミから目をそらして、何も言わなかった。

こめかみには大きな汗を浮かべている。


「忘れたんですね。」

メグミは大きくため息をつきながらそう言った。









ドン!ドン!ドン!


「ちょっと!誰かいるんでしょ!開けなさいよ!」

ユキナがアキトのいる部屋の扉を叩いている。

「落ち着きなさいよ。」

「ここにいる誰かのせいで恥かいちゃったじゃない!ただじゃ澄まさないわ!」

ミナトの宥めも聞かず、ユキナはなおもエキサイトしている。


ドン!ドン!ドン!

「開けなさ〜い!!」



もちろん普通(?)の人間であるアキトは暗闇で自由に動けるわけもなく、扉を叩かれても何も出来
なかった。



(またこの展開か・・・)

どう反応していいのか、アキトにもわかっていない。





「ごめんごめん、そう言えば鍵掛かってたんだよね。」

いまだに扉を叩き続けるユキナに対してアカツキが話し掛ける。

鍵を掛けたままというのをメグミに指摘され、思い出したのでやってきたのだ。


「わかってるならさっさとよこしなさいよ!」

ユキナは随分御立腹のようだ。

「相変わらず抜けてるのよね〜。」

ミナトも酷いことを言っている。



アカツキから鍵を受け取ったユキナは扉を開けた。



真っ暗な部屋に差し込む光。

それはアキトの姿を浮かび上がらせた。


「テ、テンカワさん・・・」

「・・・アキト君。」

現れたアキトに二人は驚きを隠せない。



「久しぶりですね、ミナトさん。」

アキトはミナトを見てそう言った。

二人の再会は墓地での一件以来である。


「久しぶり、ユキナちゃん。」

アキトは次にユキナを見ながらそう言った。


「ア、アキト君。こんなとこで何やってんのよ!」

突然のアキトの登場に呆然としていたミナトであったが、なんとか再起動を果たした。

「それは後で話します。」

「・・・そう。」

アキトの雰囲気から何かを感じ取ったミナトはそれ以上聞かなかった。

「でも一つだけ聞かせて。ルリルリはあなたがここに居ることを知っているの?」

ミナトにはやはりルリとの事が気になる。

アキトを一番心配しているのはルリなのだ。


・・・ユリカという選択肢もあるはずだが、ミナトはルリ贔屓なのでルリが一番らしい。

もっとも、アキトを一番心配しているのかという問題でルリを贔屓する必要があるかは謎である。


「ええ。」

ミナトの言葉にアキトは短く答えた。

「それならいいわ。」

アキトの言葉を聞いて、ミナトも顔を綻ばせる。



ちなみにルリはアキトがナデシコDに乗ることを知らない。

アキトはアカツキが知らせていると考えているのだ。

では何故アカツキはルリに教えていないのか。


(その方が面白そうだしね。)

とはアカツキの言葉である。



「とうっ!」


バタン!


真面目な雰囲気を打ち壊すユキナの声が響いたかと思ったら、次の瞬間ユキナは床に倒れていた。


ユキナがアキトに跳び蹴りを喰らわせようとしたらしい。

もっとも身体を鍛えて今のアキトに効く筈も無く、アキトの身体に命中させはしたものの、そのまま
床に落ちたのだ。



「いった〜〜い!」

ユキナがアキトの方を見ながら恨みを込めた言葉をぶつける。

完全に八つ当たりなのだが、そんなことユキナには関係ないのだ。


「だ、だいじょうぶかい?」

アキトが慌ててユキナを気遣う。

「大丈夫じゃないわよ〜。大人しく倒れなさいよ。」

・・・八つ当たりを通り越して理不尽になっている。


さすがにアキトも困惑気味だ。


「まあいいわ。」

ユキナは服をはたきながら立ち上がるとアキトを指差した。

「あんたこんなところでなにしてんのよ!」

「い、いやだから後で・・・」

「後でですって!今すぐ言いなさい!」

年上のアキトに向かって命令するユキナ。

普通に考えれば失礼極まりないのだが、ユキナの気迫に押されているアキトにそんなことを考えてい
る余裕は無い。


「さあ!」

ジリッ。

「さあ!」

ジリッ。

「さあ!」

ジリッ。


一歩ずつアキトに迫って来るユキナにアキトは思わず後ずさる。


「はいはい、ユキナもそのぐらいにしときなさい。」

そんなアキトを見かねて、ミナトが止めに入る。

「なんで止めるの。」

ユキナは不服そうである。


(悪を追い詰める正義の役。私にピッタリなのに。)

・・・ただそれがやりたかっただけらしい。


「後で話すって言ってるんだからそれまで待ちましょ。」

ミナトがユキナを諭す。

「わかったわよ。」

ユキナは渋々承諾する。

「でもその理由次第では許さないからね!」

再びユキナはアキトを指差して言った。


(決まったわね。私ってカッコイイ〜。)

・・・自分に酔っていた。


「わかってるよ。」

そんなユキナの内心を知らないアキトは極めて真面目な顔でそう言った。


「私の事忘れてません?」

いまだにミナトとユキナに気付いて貰えないメグミはおずおずと話に入ってきた。

「あれ、メグちゃん。いつからいたの?」

本当に気付いていなかったらしくミナトが不思議そうに聞き返す。

メグミはやっぱり気付いてもらってなかったらしい。


「・・・さっきからずっといました。」

「そ、そうごめんね。でも元気そうで良かったわ。」

微かに怒りを含んだメグミに押されながらもミナトは一応挨拶を返す。


「あ〜、メグミさん。こんにちは!」

一方ユキナはメグミの雰囲気に気付いていないめ、元気に話し掛けた。

「もういいです。」

ユキナの元気な声に毒気を抜かれたメグミはいつもの表情に戻る。

「そう言えばメグちゃんもこの艦に乗るのね。」

ネルガルが大々的にキャンペーンを行っているため、それぐらいはミナトも知っている。


ではなぜアキトは知らなかったのか。

指名手配中であるアキトはネルガルの決まった場所でしか動けないため、世間に疎いのだ。



「ええ、またよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくね。」

「私は副通信士だからメグミさんと同じですね。」

女性が三人集まっているのだ。

賑やかになるのは当然だろう。


三人はしばらくの間、アキトそっちのけで盛り上がっていた。

もちろんアカツキもそっちのけである。




「さて、そろそろいいかい。」

しばらくして三人の話をアカツキが遮った。


「もうすぐ次のクルーが来るんでね。さっさと隠れないとね。」



「隠れる?」

アカツキの言葉の意味がわからず、ユキナが聞き返した。


ユキナの問いには答えず、アカツキは電気を消す。


「ちょ、ちょっと何で電気を消すのよ。」

「そうよ、真っ暗じゃない!」

突然電気を消されたミナトとユキナが抗議の声を上げる。


「来ればわかるよ。」

アカツキはそれだけ言うと、一人隠し扉の方に向かった。



しかし、なぜアカツキは暗い中を歩けるのだろうか。

それは謎であるが、光る歯は関係無いとだけ言っておこう。


アカツキが隠し扉を開けたことで、真っ暗だった部屋に一筋の光が差し込む。



アカツキは今度こそは場所を取られないようにと、しっかりと場所を確保している。

もちろん体勢は既に覗きの体勢だ。


(怪しいわね。)

(怪しいわ。)

ミナトもユキナもそう思った。

当然と言えば当然である。


「私達も早く行きましょうよ。」

メグミはそう言いながらミナトとユキナを引っ張っていく。

メグミはどこか楽しそうにしている。


ユキナとミナトもよく分からないまま付いていった。



(邪魔ですね。)

アカツキを見たメグミはそう思った。


(今度は負けないよ。)

アカツキも闘志満々だ。


第二次覗き場所争奪戦勃発である。



ドン!


メグミが押すが、アカツキは踏みとどまる。

純粋な力ではアカツキの方が上なので当然だろう。


(勝った!)

アカツキが心の中でそう誇る。


ドン!


ドン!!


ガン!


三つの音が終わった後、アカツキがまたしても床に倒れていた。


(よくわからないけど押せばいいのよね?)

(フッ、悪は滅びたわ。)


メグミの行動を見たミナトとユキナが真似をしてアカツキを押したのだ。

しかもユキナはアカツキの行動を悪と判断したらしく、強めに押している。


なお、最後の音はアカツキが床に叩き付けられた音である。



メグミは床に倒れるアカツキを目で笑うと、覗きの体勢に入った。

どうやら覗きを気に入ったようだ。


ミナトはメグミの行動を見習って覗きの体勢に入る。

ユキナも躊躇うことなく覗きの体勢に入った。

アカツキが行うと悪なのだが、自分が行うのは良いらしい。


そんな女性陣の行動に僅かに冷や汗を流しながらも、アキトは先程アカツキの使った台を使って
自分も覗きの体勢に入る。

さすがに女性が三人が覗いているため、台を使わないと覗けないのだ。


ちなみに床に倒れているアカツキはもちろん無視だ。



(テ、テンカワ君・・・)

アカツキは自分を無視するアキトの行動に心中涙を流している。


それでもなんとか立ち上がると、何処からともなく台を二つ持ってきてその上に登った。


・・・台の多い部屋である。



それはともかく、五人とも覗きの場所についた。

上からアカツキ、アキト、ミナト、メグミ、ユキナである。


暗い部屋の中で、五人の男女が縦に連なり隣を覗いている。

・・・もはや何も言うまい。




扉の向こうにブリッジを見たミナトとユキナは自分が覗かれていたことを知った。


(私達の時も覗いてたの?)

(ひどいよ。)

二人とも責めるような口調で文句を言う。

(アカツキさんに言われて・・・すみません。)

メグミはそう言ってアカツキに罪を擦り付けた。


(人のせいにするのは・・・)

アカツキの言葉は最後まで続かなかった。



ドン!


ガシャン!


部屋に大きな音が響き渡った。


覗きをアカツキのせいだと思ったユキナがアカツキの台を蹴飛ばしたのだ。


その結果、台は崩れた。

当然上に乗っているアカツキも床に落ちることとなった。



(やりすぎよユキナ。)

(天誅よ。)

さすがにやり過ぎと感じたのか、ミナトがユキナをしかろうとするが、ユキナは気にしていなかった。



(哀れだな・・・)

アキトは冷や汗を流しながら、アカツキの冥福を祈っていた。


(・・・さすがに今のは効いたね。)

心の中でそんなことを考えながらもアカツキは再び立ち上がり、再び台の上に上った。

その根性は見上げたものである。


根性の使い道を間違っているような気もするが、気にしてはいけない。


ユキナに文句を言わないあたり、無駄だと悟っているのかもしれない。





「なんで〜、誰もいねえじゃねえか。」

「ほんとだね〜。」

五人がしばらく覗いていると、誰も居ないブリッジに不満を漏らしながらリョーコ達が入ってきた。

イズミも一緒にいるのだが、何も言わない。



(リョーコちゃん達もか・・・)

アキトはため息をつきながらそう言った。

(一流が条件だからね。)

アカツキが当然とばかりに答える。

(わざとじゃないのか?)

(さあね。)

やや棘を含んだアキトの言葉もアカツキはあっさりと流した。


(うわ〜、リョーコさん達は久しぶりです。)

(私はナデシコCで会ったわよ。)

(私も、私も。)

アキトとアカツキの会話の一方で、女性陣は女性陣で盛り上がっていた。




「人をわざわざ軍から引き抜いたくせに、迎えがいねえってのはどういうつもりだ?」

リョーコは随分不機嫌のようだ。

「私は編集者から逃げれればいいんだけどね〜。」

対してヒカルは軽く言った。




(あれ?イズミさんは?)

アキトはアカツキとの会話に気を取られた隙にイズミを見失っていた。


(いないねえ。何処に行ったんだろ。)

アカツキも不思議そうに言う。


女性三人はいまだに盛り上がっていて気付かない。




シュッ。



突如隠し扉が開かれた。






扉に寄り掛かるように覗いていた五人は突如支えを失った形となった。




ガターン!!




当然五人は前に倒れこんだ。



「あ〜!!お前等何やってんだよ!」

「あれ〜みんなひさしぶりだね〜。」

倒れてきた五人を見てリョーコとヒカルが声を上げる。


どうやらアキトがいることには気付いてないようだ。



イズミは隠し扉の傍で五人を見下ろしていた。

隠し扉を開けたのはイズミだったようだ。


何故イズミが隠し扉に気付いたのか。

それはもちろん謎である。



「お、重い・・・」

覗いていた位置上、一番下になってしまったユキナが悲鳴を上げる。


「は、早くどいてください・・・」

二番目であるメグミも辛いようだ。


「ちょっと、アキト君・・・変なところ触らないでよ。」

ミナトが身を捩じらせながらアキトに言った。


「ご、ごめん。」

アキトは慌てて謝ってはいるが、上にアカツキが乗っているため満足に動けない。


「こ、これは予定と違うねぇ。」

アカツキはそう言いながらなんとか立ち上がった。


アカツキが退いたことで、アキト達他の四人も身体を起こすことに成功した。



「ああ〜〜!!アキトじゃねぇか!!」

アキトの存在に気付いたリョーコが大声を上げた。

「ほんとだ〜!なんでこんなとこにいるの?」

ヒカルも驚いた表情をしている。


イズミは何も言わない。

アキトを見ても全く驚いた表情を浮かべない。


実の謎の多い人物である。



「久しぶりだねリョーコちゃん、ヒカルちゃん、イズミちゃん。」

なんとか気持ちを取り直すとアキトは二人に向かってそう言った。


「ひさしぶりじゃねえよ!」

リョーコがアキトに詰め寄る。

「まあまあ、事情は僕から話すよ。」

そう言いながら、アカツキが間に入って遮った。


「んじゃとっとと話せよ!」

やや不機嫌になりながら、リョーコがぶっきらぼうに言った。

「もう少し後でね。」

しかし、アカツキは話をはぐらかす。

「んだと!」

元来気の長い性格でないリョーコが大声を上げた。

「落ち着きなさい、リョーコ。」

そんなリョーコをイズミが止めた。

「チッ!」

リョーコは不満そうだ。


「どうせなら一度で済ませたいからね。あと一人来てくれないと困るんだよ。」

リョーコを宥めるためか、アカツキは皆にそう説明した。

「あと一人?だれだ?」

アキトが不思議そうに聞いた。

これ以上は差し当たって思い浮かばない。


「もうすぐ来るよ。」

アカツキはそれだけ言った。



「でもアキト君元気そうだね〜。」

どうやら話が終わったようだと感じたヒカルがアキトに話し掛けた。

「まあね。」

まったく普通に自分に接してくるヒカルに感謝しながら、アキトも返事を返す。


「アマテラスでの決着は付けるからな。逃げるなよ。」

リョーコもひとまずアカツキを置いておくことを決め、アキトに話し掛ける。

「はは・・お手柔らかに。」

非常にリョーコらしい言葉にアキトは苦笑している。


「アンタも大変だったみたいね。」

まるで全てを知っているかのような口調でアキトに話し掛けるイズミ。

「・・・ああ。」

アキトも真剣な表情に変え、答える。


イズミとの会話だけシリアスだ。



「みなさん、久しぶりですね。」

アキトと三人の会話を見ていたメグミも話に加わる。

「あ〜、メグミちゃん。久しぶり〜。」

ヒカルが嬉しそうに答える。


「私達もいるよ〜。」

メグミに続いてユキナとミナトも会話に入っていく。

「おめえらも来てたのか。」

口調は荒いものの、リョーコも嬉しそうだ。


ブリッジはすっかり同窓会状態になっていた。


アカツキだけは話に加わわらずにその光景を眺めていた。


(やっぱり、彼女達といればテンカワ君も昔に戻れるんだね。)

アカツキは質問攻めを交わすのだけで精一杯のアキトを見ながら嬉しそうにしていた。





「そろそろ来るみたいだね。」

しばらく経った後、アカツキが言った。

その言葉に全員が注目する。


「だれが来るんだよ。」

気になるのか、リョーコが聞いた。

「それは来ればわかるよ。」

アカツキはまだ答えを明かさない。

「それじゃあ早く隠れないといけませんね。」

メグミがどこか楽しそうに言った。


やはり気に入ったようだ。


「いや、演出を変えよう。」

いそいそと隠し扉の方へ向かったメグミをアカツキが止める。


「テンカワ君はここに居たまえ。」

そう言うと、アカツキはアキトを扉の真ん前へと連れて行った。


「きみ達はこっちね。」

女性陣は扉のすぐ横に連れて行かれる。

状況がよくわからない一同はアカツキの言うことに大人しく従うことにした。



これだと、入ってきた人間はアキトしか見えない。



「これでいいんですか?」

メグミが不安になって聞いた。


「大丈夫だよ。それに次に来る人にはこの方が面白そうだしね。」

アカツキは笑いながらそう言った。



その言葉に、アカツキを覗く全員が不安を覚えていた。








「ここがブリ・・・」

扉を開けて入ってきたジュンの言葉が止まった。


決して戦艦内にブリがいたわけではない。

正面に立っていたアキトを見て驚いたのだ。


「ジュン!」

アキトも驚いた表情をしている。


まさか生粋の軍人であるジュンが来るとは思っていなかったのだ。


「テ、テンカワ!なんでこんなところに!」

「それは・・・」

大声を上げるジュンにアキトは口ごもる。


「いや、そんなことはどうでもいい。」

しかし、ジュンはそんなアキトの態度は気にせずに言った。



女性陣とアカツキは扉の陰で黙っている。

ジュンは気付いていないようだ。



「テロリスト、テンカワ・アキトお前を逮捕する!」

突如ジュンは懐から銃を出すとアキトに向け、そう言った。

「お、おいジュン・・・」

アキトが慌てる。



「確かに、きみを逮捕すればユリカは悲しむかもしれない。」

アキトの言うなど全く無視してジュンは勝手に話を進める。


「元ナデシコクルーも悲しむかもしれない。」

アキトの困惑を無視して、ジュンの言葉は続く。


「だけど、だけど僕は軍人としてきみを逮捕しなければならないんだ!!」

ジュンは銃を持っているにも関わらず、ポーズを付けて大声で宣言した。




ガン!

サグッ!

ベシッ!


ドン!

ゴン!


バタン!

バン!!


カーン!

パサパサ。



突如ブリッジに鳴り響いた一連の音が終わった後、そこには床に倒れるジュンと冷や汗をだらだらと
流すアカツキの存在が認められた。

よく見るとジュンは痙攣しているようにも見える。



「まったく、あんたは何してんのよ!」

最初の音の犯人であるエリナがジュンに向かって怒鳴りつける。

ちなみに音はエリナの持っている書類をジュンに投げつけ、命中させた音だ。

この書類は読みやすいように、板が添えられているタイプの物である。


「峰打ちにして上げたんだから感謝してほしいわね。」

二番目の音の犯人であるイネスがメスを光らせながら言った。

ちなみに音はイネスがジュンにメスを投げつけ、ジュンに刺さった音だ。

メスに、しかも刺さっている物に峰打ちがあるのかは謎である。


「アキトの敵は私の敵だよ。」

三番目の音の犯人であるラピスが倒れているジュンを踏みつけながら言った。

ちなみに音はラピスが持っていたドラ焼きを投げつけ、命中させた音だ。

ラピスはドラえもんに続き、ドラ焼にはまっているため常に持ち歩いているのだ。


この三人はジュンの少し後にやって来たのだが、ブリッジ内の状況を見て慌ててジュンを止めたの
だ。


止めたというよりも攻撃のような気もするのだが、結果オーライである。



「いきなりアキトさんを逮捕するだなんて、何考えてるんですか!」

四番目の音の犯人であるメグミが冷たい目でジュンを見下ろしながら言った。

ちなみに音はエリナ達の攻撃でふらついたジュンをリョーコの方へ押した音だ。


「まったく、バカ野郎が。」

五番目の音の犯人であるリョーコが呆れながら言った。

ちなみに音はメグミに押されてきたジュンの頭を殴りつけた音である。


アイコンタクトを交わしたわけでもないのに、いいコンビネーションである。



五人の攻撃を受けたジュンは床に倒れた。

それが六番目の音である。



その時の衝撃で、ジュンの持っていた銃の引き金が引かれた。

それが七番目のである。



そして、その弾がブリッジの壁に当たった。

それが八番目の音である。



銃弾はアカツキを掠め、アカツキの髪をいくらか舞い散らせた。

それが九番目の音である。


五連撃を受けたため、ジュンの持つ銃の銃口は当然アキトから逸れており、たまたまアカツキの方を向いていたのだ。

間近を銃弾が掠めていったアカツキはかなりの冷や汗を流している。



「ちょっとラピス、ドラ焼きはおやつの時だけだって言ってるでしょ!」

「そうよ、言いつけはちゃんと守りなさい。」

そんなジュンとアカツキの状態は全く気にせず、エリナとイネスがラピスがドラ焼きを持っていたことに気が付き、注意し
た。


実はラピスが余りにも頻繁にドラ焼きを食べるのでおやつの時以外は禁止という約束を作ったのだ。

二人ともすっかりラピスの母親役になっている。


「だって食べたかったんだもん。」

ラピスは頬を膨らませ、そっぽを向いてそう答えた。


ちなみにラピスはジュンを踏みつけたままなのだが、誰も気にしていない。



「ジュ、ジュン君!」

いや、一人だけいた。

ユキナである。


「大丈夫ジュン君!」

ユキナは慌ててジュンに駆け寄った。

そしてジュンの惨状を見て、エリナ達に怒りの声を上げる。


「ちょっと!ジュン君になにするのよ!」

ユキナの声にエリナ達がユキナの方を向いた。


「何って、止めたのよ。」

エリナはあっさりと言った。


「それにしたって酷すぎるわ!」

「あら、アキト君に銃を向けたのよ?軽い方だわ。」

イネスがユキナに言い返す。


「テンカワさんはテロリストなんだから仕方ないじゃない!」

「アキトは悪くないもん!」

アキトを悪者扱いされ、ラピスが怒りの声を上げる。


「ジュン君はもっと悪くないわよ!」

「でもいきなり銃を向けるのはひどいですよ。」

メグミがエリナ達に加勢する。


「極悪テロリスト相手なんだからひ弱なジュン君が銃なしでかなうわけないじゃない!」

ユキナはジュンを庇っているのだか、貶しているのだかわからないことを言う。


「じゃあ、俺達の行為も正当防衛で仕方ないよな。」

リョーコが法律を持ち出す。

「犯罪者にそんなもの無いわよ!」

「法律ではそうなっていないんだよ。」

リョーコが余裕を見せながらそう言った。


意外なことに法律に詳しいようだ。


(街で喧嘩するときは相手から売らせるのが基本なんだよな。)

・・・どうやら実務的に学んだらしい。


「む〜〜!!」

五人に次々と反撃されてユキナは言葉に詰まる。


「はいはい、両方とも落ち着いて。」

今まで黙っていたミナトが仲裁に乗り出した。


「ユキナ、ちょっと言いすぎよ。アキト君暗くなってるじゃない。」

そう言われてユキナがアキトを見ると、確かにアキトは暗くなっていた。

というよりも、辛そうな顔をしている。


「あ、ごめんなさい。私・・・」

そんなアキトを見てユキナが慌てて謝る。

「いや、いいんだよ。本当のことだしね。」

ユキナの言葉を手で制しながらアキトが言った。



「あなた達もよ。ジュン君をこんなにしてどうするのよ。」

ユキナを反省させたミナトは今度はエリナ達に向かって言った。


「何かあっても私が治すから心配要らないわ。」

ミナトは自信を持って言うイネスにため息をついて黙った。


どうやらエリナ達は「攻撃→治療→攻撃→治療」というパターンを使っているらしい。

やられる方はたまったもんではないだろう。


ちなみにジュンはいまだラピスに踏まれている。




騒動に参加しなかったヒカルは楽しそうに一連の光景を眺めていた。

イズミは特に興味が無いようだ。




ジュンに関する事で一同盛り上がっている中、アカツキは完全に忘れ去られていた。

アカツキの膝はいまだに微かに震えている。




「さて、ブリッジ要員も揃ったことだし、次は厨房に行くよ。」

冷や汗を拭き、何とか膝の震えを抑えたアカツキは賑やかに話している皆に向かって言った。


「ジュンはどうするんだ?」

いまだに倒れている、というかラピスに踏まれているジュンを見ながらアキトが言った。

「きみが担いで来てよ。今のテンカワ君なら簡単でしょ。」

「分かった。」

アキトはそう言うと軽々とジュンを担ぎ上げた。

どうやらジュンは意識を取り戻していないようだ。


「へ〜、テンカワさんって力強くなったんですね。」

すっかりアキトと和解したユキナが感心したように言った。

他の女性陣も感心している。


「まあ色々あってね。」

アキトは苦笑しながらそう言った。



「さあ、行くよ。」

そう言うとアカツキは隠し扉の方へと向かった。


一同ぞろぞろと付いて行く。


「こんなもんがあったのか。」

初めて隠し扉を潜ったリョーコが扉を見回している。

「まだあるみたいだよ?」

一つ目の部屋を横切り、二つ目の隠し扉を開けたアカツキを見てヒカルが言った。



その後、アカツキは次々と部屋を潜っていった。



「ここってなんなんですか?」

四つ目の部屋を通っている時にメグミが聞いた。

さすがに全ての部屋に抜け穴があるとは考えていなかったのだ。


「テンカワ君が誰にも見られないようにブリッジと厨房を行き来するための通り道さ。」

アカツキは自慢気に説明した。


「もっと他のやり方は無かったの?」

エリナが呆れながら言った。

「時間が無かったからね。仕方ないんだよ。」

エリナの言葉にアカツキは一応の弁明をする。


「じゃあ途中の部屋は全部空き部屋なのね?」

ミナトが疑問に思ったことを聞いた。

さすがにアキトが通り抜けていく部屋というのは住み辛いだろう。


「そんなことしたら怪しまれるじゃないか。ちゃんと住んでもらうよ。」

しかし、アカツキはあっさりとミナトの言葉を否定した。


ナデシコDにはオモイカネ級のコンピューターが積まれて居ない。

そのため、従来のナデシコよりも乗組員の数は多いのだ。

六部屋も開けておける余裕はない。


「え〜、こんな所住みにくいよ〜。」

ユキナが不満そうに言う。

他の女性陣も頷く。


もちろんジュンは頷ける状態ではない。


もっともラピスだけは頷いていない。

アキトへの依存が強いラピスは全然平気なのだ。


「でもメリットはあるよ。」

アカツキがおもむろに言う。


「給料が高くなるとか?」

ミナトが常識的な判断からそう聞いた。


「違うよ。」

しかし、アカツキはすぐに否定する。


「じゃあ何なの?」

自分も知らないことが気になるのか、エリナが急かすように聞いた。


「食事はテンカワ君が直接部屋に届けてくれることさ。」

アカツキは満を侍してそう言った。



確かに、厨房へと直接続く通り道があるのだ。

食堂よりも近いくらいである。




「仕方無いわね。ネルガルの社員としてこの部屋で我慢して上げるわ。」

アカツキの言葉を聞いたエリナが真っ先にそう言った。

声が全然仕方無い、といった感じではないが気にしてはいけない。


「私も医務室が使えるからこの部屋で我慢するわね。」

イネスも続く。

確かにイネスはその気になれば、医務室に入り浸っていられるのだ。


「私もここで良い。」

ラピスが言った。


ネルガル製の戦艦の不備は社員である自分達が負おうというのだ。

実に感心な心掛けである。




(上手くいけばアキト君と一緒に食事が出来るわ。)

(当然アキト君の手作りよね。)

(アキトと一緒。)


・・・どうやら負うというよりも、得るつもりのようだ。



「そう言ってくれると思ったよ。」

アカツキは笑いながらそう言った。

エリナ達の反応は期待通りだったらしい。



「ブリッジの隣はアオイ君に決まってるからあと二部屋だね。」

「どうしてジュン君の部屋はブリッジの隣なの?」

決定事項だとばかりに言ったアカツキに対してミナトが聞いた。

「ブリッジの隣は鍵が付いていないんだよ。急いで隠れなきゃいけないことがあるかもしれないし
ね。」

アカツキの言葉に一同納得した。

さすがにいきなり入って来られるのは困る。


こうしてジュンは倒れている間に部屋まで決まってしまった。




「ね〜ね〜、リョーコ。」

ヒカルがからかうような口調でリョーコに話し掛ける。

「な、なんだよ。」

ヒカルの口調にリョーコは警戒を強めた。


「リョーコは立候補しなくていいの?」

「なんで俺がここに住まなきゃいけないんだよ。」

なんだそんな事かとばかりにリョーコが返す。


「このままじゃエリナさん達にテンカワを取られるわよ。」

イズミも話しに参加してくる。

「バ、バッキャロ!なんで俺がアキトを・・・」

突然そんなことを言われたリョーコは口ごもる。


「だって〜、リョーコは自分より強い人がいいんでしょ?」

「アマテラスで負けたんでしょ?」

ヒカルとイズミはからかう口調で続ける。

「あ、あれは・・・そう!機体、機体の差だよ!」

アキトに負けたことを指摘されたリョーコが慌てて言い返した。


「三郎太君もまだリョーコより弱いみたいだし〜。」

「テンカワを狙ってみるのもいいんじゃない?」

ヒカルとイズミが畳み掛ける。

「三郎太は関係ねえだろ!だいたい、アキトは艦長と結婚してるんだぜ?」

三郎太の名前がだされたことに、リョーコが頬を微かに赤らめる。

相変わらず、恋愛関係の話には弱いようだ。


「アキト君も艦長も死んだことになってるんだから大丈夫だよ。」

「だ、大丈夫たって・・・」

ヒカルの言葉にリョーコが詰まる。


「それに死亡が取り消されても、テンカワから離婚は可能よ。」

駄目を押すようにイズミが言った。


どうやらイズミは法律にも精通しているようだ。

実に謎の多い人物である。




「・・・」

二人の連続攻撃にリョーコは黙り込む。

「それに〜、不便な部屋に住む代わりとしてアキト君に戦えってお願い出来るかもしれないよ?」

踏ん切りがつかないリョーコの背を押すようにヒカルが言った。


「そうか!そうだよな!」

ヒカルの言葉にリョーコが力強く頷く。

アキトと戦うというのに惹かれたのだろう。


「おいアカツキ!俺もここの部屋でいいぜ!」

そう言ったリョーコの後ろではヒカルとイズミが「ニヤリ」と笑っていた。



「そうかい?そう言って貰えると助かるよ。」

リョーコの言葉にアカツキは嬉しそうに頷く。


「リョーコちゃん、いいのか?」

アキトが不安がって聞く。

自分が迷惑をかけるだけに、気になるのだろう。

エリナ達とはそれなりに気心が知れあっているのでそれほど気にしないが、リョーコ相手ではそうも
いかない。


「ああ。その代わり俺と戦ってもらうからな。」

笑顔でそう言うリョーコにアキトは苦笑するしかなかった。



「それじゃあ私もこの部屋でいいです。」

リョーコが立候補したのを見てメグミも立候補した。


「じゃあこれで決まりだね。」

アカツキは笑顔のままでそう言った。


「メ、メグミちゃん。」

アキトが慌てて詰め寄る。

「大丈夫です。その代わり私も色々聞いてもらいますからね。」

メグミは笑顔でそう言った。

メグミに笑顔で言われるとアキトは何も言えなくなってしまった。


(あのメンバー相手に遅れを取るのは危険ですね。一応同じラインに立っておきましょう。)

・・・メグミの策は止まらない。




そうこうしているうちに六つの部屋を抜け、アキト達は厨房へと入っていった。





「久しぶりだね、テンカワ。」

厨房に入ったアキト達の前にホウメイが立っていった。

「ホウメイさん・・・」

いままでの流れからホウメイが居ることを予測していたアキトであったが、実際に向き合うとやはり
違うのだろう。

誰が見てもわかるほどに身体を強張らせている。


「あんたここ数年料理してないんだって?」

「・・・はい。」

ホウメイの問いかけに、アキトはやや俯きながら答えた。

「そうか。」

二人の間に重たい空気が流れる。



アカツキ達は何も口を挟まない。

料理に関しては二人の間に入ることは出来ないのだ。

ラピスは何か言いたそうであったが、エリナに止められていた。



「あんたはコック失格だよ。」

「!!・・・」

ホウメイの言葉にアキトは衝撃を受ける。


再び料理の道に戻ろう考えていたのだが、厳しい現実を突きつけられたのだ。

それでも、自覚があるために何も言い返せない。



「仕方ないから見習としてまた一から仕込んでやるよ。」

少し時間を置いた後、ホウメイは笑顔になってそう言った。

「!!・・・ありがとうございます。」

アキトは涙声になりながらそれだけ言った。



(良かったじゃないか、テンカワ君。)

(アキト君・・・本当に良かった・・・)

(頑張ってね、アキト君。)

復讐に燃えるアキトを知っており、アキトが再び料理の道へ戻ってくれることを望んでいたアカツキ
とエリナ、イネスも涙目になっている。



実に感動的な光景なのだが、いまだにアキトはジュンを担いでいるので、傍から見るといささか間抜
けな光景であった。




「「私達もいま〜す。」」

そんな空気をあっさりと破ってホウメイ・ガールズが登場した。


その激しいギャップにアキト達もすぐには反応出来ない。


「アキトさん、お久しぶりです!」

サユリが真っ先にアキトに近づいて言った。

「あ、ああ、久しぶりだねサユリちゃん。」

一気に軽くなった空気にアキトは戸惑っているようだ。


「あ〜サユリ抜け駆けなんてずる〜い!」

それを見た他の四人がサユリを責め始めた。

「そ、そんなんじゃないわよ。」

サユリが慌てて弁明する。

「嘘だ〜、狙ってたんでしょ。」

「「そうそう。」」

さすがにメンバーの息はピッタリである。

「そ、そんなことないって。」

「ほんと〜?」

メンバーの疑惑は晴れない。


「まっ、いいか。そんなことより私達も挨拶しないとね。」

しかし深入りすることなくあっさりと追及をやめ、アキトの方を向いた。

「「久しぶりです!テンカワさん!」」

「そ、そうだね。」

アキトも彼女達のエネルギーに押されているようだ。


「あ〜ミナトさんやユキナちゃんもいるよ〜。」

「エリナさんにイネスさんじゃないですか。」

「この小さい子は誰なんですか?」

「リョーコお姉様〜。」

アキトへの挨拶を済ませたホウメイ・ガールズはエリナ達にも目を止め、一気に歓談へと入っていっ
た。

一人、怪しげな言葉を言っているが気にしてはいけない。



厨房には総勢18人、しかも女性が16人もいるためかなり手狭なのだが、そんなこと関係なく皆で
騒いでいた。



結局そのまま一時間ほど賑やかな状況が続く事になった。







「さて、そろそろいいかい?じゃあアキト君のことを説明しよう。」

騒ぎに加わっていなかったアカツキが全員を見回しながら、おもむろにそう言った。

















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