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「こら!大和!!お前のせいでこうなったんだぞ!助けろ!」 思わず大和に助けを求める高柳艦長であったが、そういう行動がさらに怪しさを増しているのに気付 いていなかった。 (助けるって・・・どうやって?) 高柳艦長の危機にも御気楽さを崩さない大和。 高柳艦長は風前の灯であった。 「愉快な大和君、戦場を逝く」 「第七話 ミッドウェイはどうした?」 「何でもいいから助けろ〜!!」 高柳艦長の絶叫が艦橋に響く。 その行動は言うまでもなく怪しく、艦橋にいる全員の中で高柳艦長に対し「気ちがい」という確定判が 押された。 海軍兵学校を第41期で卒業し、つい一月まえに少将に昇進したばかりの高柳儀八艦長。 彼の栄光の人生は終わりを告げようとしていた。 (何でもいいって・・・適当だな〜) 自分のことは完全に棚に上げている。 (でも折角言葉の通じる人だしな〜・・・助けたほうがいいよね・・・) それでも一応高柳艦長の重要さはわかっているようだ。 (とりあえず何か指示出してよ。僕がその通りに動くから) 「わ、分かった!では例の37ノットを出してくれ!!」 「大和」の言葉を聞き、高柳艦長が即座し指示を出す。 大和本来の能力ではない37ノットという速力を見せ付けるのが一番効果的だと判断したためである。 基本的に優秀な男なのだ。 ちなみに、今の彼は出口に辛うじて手を引っ掛け、外に連れ出されるのを防いでいる状態であった。 しかし、彼は優秀なのだ・・・基本的には。 (それは疲れるから嫌) 大和はとにかく勝手だった。 「なっ・・!!」 大和の余りの言葉に、高柳艦長は絶句する。 その結果扉を掴んでいた手肩から力が抜け、とうとう廊下に連れ出されてしまった。 「い、いいからとっととやらんか〜〜!!!」 廊下から高柳艦長の怒鳴り声が響いた。 「可哀想に・・・よほど疲れが溜まっていたんだろうな・・・」 「ええ・・・惜しい人物なんですが・・・」 艦橋では高柳艦長への同情が集まっていた。 (あらら・・・艦橋から出てっちゃった・・・) 連れていかれたのである。 (まあ「大和」の中にいる限り僕の眼の届かない所はないけどね〜) そのことには、自分を「大和」だと認識してすぐに気付いていた。 「大和」全体が身体なのだ。 目の届かないはずがなかった。 しかも、艦全体を一つの映像として捉えていた。 (これって鳥類みたいな視野だよね〜) 大和は気付いてすぐに、そんな呑気なことを考えた。 もちろん大和がどう考えたのであれ、今は関係のない話であった。 (仕方ない・・・ちょっと疲れるけど走ってあげよう) 通路で再び粘りを見せながら、叫び続けている高柳艦長に向けて恩着せがましく言うと、大和は速力 を上げ始めた。 「「大和」の速力上がります」 「大和」の速力が上がると共に、冷静な報告が入る。 「大和」の勝手な行動に完全に慣れたようだ。 大日本帝国海軍・・・訓練の行き届いた海軍であった。 「・・・今度はハワイにでも行くですかね?」 参謀の一人が司令長官に向って、冗談交じりに言った。 「ハワイか・・・いつかは行かねばならんだろうな・・・」 司令長官の言葉は思いのほか真剣だった。 第二次ハワイ攻撃。 ミッドウェイ海戦がほぼ終了した今、司令長官の考えは既にそこに飛んでいた。 (37ノットって言うと・・・どのくらいだ?とにかく全力で走ればいいのかな?) シリアスムードが漂い始めた艦橋とは一転、大和はノット換算が上手く出来なくて梃子摺っていた。 (あ、ほっといても報告が入るよね) 結局他人頼りに落ち着いたようだ。 大和の性格から言えば妥当な結論であった。 「速力20・・22・・24・・26・・28・・30ノットを超えました」 大和の期待を知るわけもなく、冷静な報告は続く。 「冷静に考えて見れば、恐るべき加速力だな」 2ノットずつ、次々と読み上げられていく速力を聞きながら、司令長官は言葉を漏らした。 「「大和」に何が起きたのか、本土に戻ったら徹底的に調査しなければなりませんね」 「ああ。この能力が解明出来れば米国に勝てるかもしれん」 参謀長官の言葉に、司令長官は大きく頷いた。 「な、何をしとるんだ「大和」は!!」 落ち着き払っている大和乗組員と違い、第一機動艦隊はパニックに陥っていた。 「大和」は先ほどまで艦隊の中央にいたため、何の連絡も無しに速度を上げられれば前を行っていた 艦と衝突される危険性がある。 (ふっ、僕の邪魔をするのかい?そんなことはさせないよ!!) それを無駄にノリまくっている大和と前方にいた艦の必死の操艦でなんとか回避していたのだ。 「この機動性・・・やはり徹底した調査が必要だな」 「早く「大和」に連絡を取れ!!それから全艦に警戒信号を出せ!何としても衝突をさけるんだ!!」 二つの首脳陣の温度には著しく隔たりがあった。 (さあいよいよ第三コーナーを抜けて、第四コーナーへと差し掛かります!) そんな両首脳陣のことなど気にする事無く、大和は実況つきで盛り上がっていた。 高柳艦長のことを覚えているか、甚だ疑問である。 「長官!「赤城」を始めとする多数の艦から苦情が来ています!」 「大和」の艦橋に通信士が飛び込んで来ると同時に、大声を上げた。 手には受信した内容を書き綴った紙を多数持っている 「文句だと?」 そう驚いたような声を上げたのは参謀長であった。 「大和」には連合艦隊司令長官、すなわち帝国海軍の最高指揮官が乗艦している。 その「大和」に対して苦情を送るなど、通常許させるはずのないことなのだ。 「はい。『無断で速度を上げるとはいかなる事態か!』どの艦もそう言って来ています!」 その言葉に、艦橋が静まり返った。 誰もがお互いに顔を見回し、何も言わない。 しばらくして司令長官と参謀長の呟きが漏れた。 「・・・忘れていたな・・・」 「・・・はい・・・」 ようやく「大和」首脳陣も事態に気付いたようだ。 「だが「大和」の行動の理由などこちらが知りたいぞ・・・」 「全くです」 「大和」首脳陣一同、打つ手を見出せなかった。 「仕方ない。「大和」の行動から目を離さないよう、全艦に通達してくれ」 「はっ!」 司令長官の言葉を受け、通信士はすぐに艦橋から駆け出していった。 なお、当然のことながらこの通達を受けた他の艦では艦長以下、艦橋員達が揃って首を捻る事になるの だが、唯一この事態を理解出来る高柳艦長はいまだ廊下で粘っている最中であった。 (ゴール!一着は大和君です!!) そんなことをしている間に「大和」は艦隊の先頭に踊り出ていた。 言うまでも無く、艦隊の混乱には気が付いていない。 何はともあれ、艦が衝突するという最悪の事態は避けられたようだ。 「・・・32・・34・・36・・速力37ノット!「大和」の速力が最高記録に並びました!」 やや濁った雰囲気を帯びていた「大和」艦橋に、冷静な声が響いた。 どうやらこの人物も艦隊の混乱を気にする事無く、職務を真っ当していたようだ。 プロ意識・・・その言葉で済ませていいかは疑問である。 「37ノットか・・・そういえば高柳君がそんなことを言っていたな」 すっかり忘れ去られていた高柳艦長であったが、37ノットという数字を聞いた司令長官にようやく 思いだしてもらっていた。 「偶然でしょう」 「そうだな」 だが再びあっさりと忘れ去られた。 高柳艦長・・・このまま行くと高柳元艦長になってしまいそうな人物である。 (折角頑張ったのに何か無駄になりそうだな〜・・・もしかして無駄骨?) 先頭に立ってようやく落ち着いたのか、大和は艦橋での話をしっかり聞いていた。 (まあいいや。高柳艦長のためにしばらくこの速度を維持して様子を見てあげよう) 大和は高柳艦長の重要性を一応は理解しているようだ。 しかし、何となく偉そうだった。 「元々お前のせいだろ〜!!」 廊下に響いた高柳艦長の怒鳴り声は、艦橋にしか注意を向けていない「大和」には気付かれることは なかった。 どうやら高柳艦長はいまだに廊下で粘っているようだ。 高柳艦長・・・こんなところでも優秀な男であった。 (・・・な、何かこの速度を維持するのって辛いんだけど・・・) 偉そうな事を言った割に、大和は早くも弱音を吐いていた。 37ノットということは、「大和」本来の最大速力27ノットを引いて、大和自身の速力は10ノッ ト。 キロ換算に直すとおよそ18キロ。 100メートルを20秒、1キロを3分20秒で走る速度である。 大学の駅伝選手ならば数時間は維持出来そうな速度ではあるが、いかんせん大和は元々特に取り得の無 い人物であった。 その大和にとってこの速度はきついようだ。 「「大和」、速力37ノットを維持しています」 「・・・進行方向を見ても特に狙いは無さそうですね」 相変わらず冷静な報告を受け、参謀長が一考の後に呟く。 「うむ・・・やはり高柳艦長の言っていることが関係あるのかも知れんな」 司令長官の中でようやく高柳艦長のことがはっきりと思い出されていた。 高柳艦長の復帰も近いかも知れない。 (ゼエゼエ・・・なんか上手く行きそうだな・・・) そう言いながらも大和は戦艦のくせに呼吸を乱していた。 「あ、あれは本当に「大和」なのか・・・」 第一機動部隊旗艦「赤城」の艦橋で、司令が驚きの声を上げていた。 「・・・あんな馬鹿でかい戦艦は外にありません」 「だがどうみても35ノットは超えているぞ・・・」 誰が見ても、戦艦としては異常とも言える速力であった。 「我々が知らないだけで、あれが「大和」の本当の性能なのかも知れません」 「そうか・・・先ほどの戦いといい、まだまだ航空機の時代と決まったわけではなさそうだな・・」 元々航空機に関わってきたわけではない司令は、何処か嬉しそうな口調でそう呟いた。 (で、でも、もう限界かも・・・) そんな第一機動部隊司令の期待を余所に、大和はダウン寸前であった。 「馬鹿者!あと一息なんだ!気合をいれんか!!」 そんな大和に向って高柳艦長の檄が飛ぶ。 自分が艦長として、いや正常人として復帰できるかどうかの瀬戸際なのである。 熱が入るのも当然であった。 (そ、そんなこと言われても・・・ゼエゼエ・・・ヒイヒイ・・・) 大和の限界はすぐそこであった。 「「大和」の速力は?」 「依然37ノットを維持しています」 司令長官に話し掛けられ報告員はすかさず返事を返す。 ちなみに、何度も出てくる割にはこの報告員も名前がわかっていない。 「そうか・・・やはり高柳君の言っていることに関係があるのかもしれんな」 「呼び戻しますか?」 同じく名前のわかっていない参謀長が、聞き返した。 「ああ、もう一度話を聞く価値はあるだろう」 司令長官の言葉で、高柳艦長の復帰が決定した。 当然ながら、この司令長官の名前もわかっていない。 (に・・・任務完了・・・・・バタッ・・・) 戦艦なので倒れるはずもないのだが、大和は自分で効果音を立てながらイメージで倒れこんだ。 「「大和」の速力が急激に下がっています!30・・26・・22・・18・・」 「高柳艦長を呼び戻したから、37ノットを出す必要がないということか・・・」 「そうかも知れません」 報告を受けた「大和」首脳陣は勝手に勘違いをしていた。 (キュ〜〜・・・もう走れまへ〜ん・・・) 大和の状態は・・・言うに及ばずである。 「速力低下止まりません!」 「何!?」 艦橋に驚きの報告が入る。 「14・・10・・6・・2・・・・・「大和」停止しました!!」 「何だと・・・一体どういう理由なんだ・・・」 「大和」の謎の行動に司令長官は呆然とする外なかった。 (と、とりあえず、止まって休もう・・・) 言うまでもなく、こういう理由であった。 「司令!「大和」が今度は停止しました!!」 「な、なんだと!!」 「先頭艦との距離約2000!」 「か、回避だ!回避命令を出せ!!」 「「大和」、依然動く気配がありません!!」 「え〜い!!急ぎ「大和」に連絡を取れ!」 「りょ、了解!」 「馬鹿みたいな速力を出したり、急停止したり・・・「大和」に何が起こっているんだ〜〜!!」 第一機動部隊はパニックに陥っていた。 この事態、またもや「大和」首脳陣には気付かれていない。 第一機動部隊の苦労はまだまだ終りそうも無かった。 <次回予告> 高柳艦長の首は、皮一枚を残して繋がった。 だが、その代償は大きかった。 力を使い果たした大和。 忍び寄る敵の影。 完全に忘れられているミッドウェイ。 いま再び戦雲が立ち込め始めていた。 次回! 「愉快な大和君、戦場を逝く」 「第八話 そろそろミッドウェイ行っとく?」 太平洋の歴史がまた1ページ。 「そういえば・・・攻略部隊は今どこに?」 注)次回予告は真っ赤な嘘です。 〜〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜〜〜〜 というわけで、「蔵王」さんからのリクエスト「愉快な大和君、戦場を行く 第七話」をお送りしまし た。 相変わらず次回予告と全然違いますが、リクエストを受けてから次回作を考えるという私のいい加減さ 故でのでご勘弁を・・・ 一部で大人気の高柳艦長(笑)も復活したことですし、次回からはようやく本筋に戻れそうです。 しかし・・・「蔵王」さんはたくさんリクエスト権を温存していますね(汗)私にとっての天敵です (爆) なんだか展開が遅いですが、まあ最短で三日に一度あるリクエスト小説なのでご勘弁を・・・←勘弁 ばっか それではまた次回お会いしましょう。 前へ 戻る |
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