「第9話 新大和始動!」
















(うぎゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!)





大日本帝国、呉軍港。


戦艦「大和」誕生の地に、とうの大和の大きな、しかし高柳艦長以外には聞こえない悲鳴が響き渡っていた。





(やっぱりやめれば良かった〜〜!!!)





そんな絶叫を続ける大和の脳裏には、ミッドウェイからの帰還途中の高柳艦長との会話が思い出されていた。








「と、ところで聞きたいことがあるんだが・・・」


山本長官と共に艦橋から消えていた高柳艦長が、戻ってくるなり大和に問い掛けた。



「大和」は既に副艦長の手によって本土へと舵を取っている。


改装を楽しみにしている大和のやる気と合わさって、32ノットという常識外れた速度での航行である。


また参謀長の指示により、第一機動部隊に対しては「大和」が帰還する旨が伝えられている。



艦橋員一同、まるで連れ去られた高柳艦長のことを忘れようとするかのような働きぶりであった。





「一体何しに来たんだ・・・」


とは、勝手に来て勝手に帰っていく「大和」に対して向けられた第一機動部隊の全員の呟きである。






艦橋に戻ってきた高柳艦長は見るからに精根尽き果ており、一体何があったのか、興味はあるものの答えが恐ろしく
て誰も聞けない。



一方、高柳艦長と共に艦橋に戻って来た山本長官と言えばどこかすっきりとした表情をしており、先ほどと打って変わ
って上機嫌であった。





(聞きたいことはいいんだけど・・・大丈夫なの?)





「ふっ、このぐらいで音を上げるような柔な鍛え方はしていない・・・」


さすがに心配して訊ねた大和に対して、虚勢を張るぐらいの気力は残っているようだ。


もっとも、誰から見ても無理をしている。



山本長官に何をされたのかは、最高軍事機密であった。



「そんなことより聞きたいことなんだが・・・」





(ほうほう、何でしょう?)





「貴様痛みは感じるのか?」


高柳艦長の言葉に艦橋にいた人物が皆注目する。


痛みを感じるようでは、いかに高性能を発揮しようと兵器としては役に立たないのだ。





(痛み?さっき爆弾を受けた時は少し痛かったけど・・・)





「そうか、感じるのか・・・」


高柳艦長の言葉を聞いて、艦橋には少し不安げな空気が流れた。


痛みを感じる戦艦など使えるのだろうか、そんな疑問を誰しも抱いたのだ。





(まあ冷静に考えれば、虫に刺された程度の痛みだったとは思うけどね)





艦橋での空気を感じ取るなどという、鋭さを見せる事無く、大和は呑気なままであった。


虫に刺された程度の痛みで激昂したことは既に忘れている。



「敵艦爆の攻撃を受けて虫に刺された程度・・・さすが「大和」の装甲というべきか・・・」


その言葉に、艦橋の空気が少し持ち直した。


敵航空機の攻撃を受けて、その程度の痛みであれば使えないということはないだろう。





(まあね!もっとも褒めてもいいよ〜)





大和はやっぱり何も気付いていなかった。



「そうか・・・」


艦橋の空気や、大和の呑気さなどとは一線を画し、高柳艦長は一人考え込んでしまった。


しばらくは誰が話し掛けても反応を見せないほどに深く考え込んでいた。





(何なんだ?一体??)





大和の疑問が解決するのは、呉軍港到着後であった。













(シクシク・・・大体艦長ももう少し早く言ってくれれば逃げたのに・・・)





絶叫が途絶え、大和は愚痴をこぼし始めた。


もちろん、愚痴をこぼしたところで誰も聞いてはくれない。





(船台に上がってからじゃ逃げられないじゃないか・・・)







呉軍港に帰港し、改装のために船台に上げられた後になって、高柳艦長の考えていたことが大和に知らされた。



ちなみに、船台とは建造や改装の間艦が動かないように固定しておく台と考えてもらえればよい。



「なあ大和よ。貴様改装は痛くないのか?」





(これから暇だよな〜。寝ようか?でも船魂って寝れるのかな?・・・・えっ?)





随分呑気なことを考えていた大和は高柳艦長の言っていることがすぐにはわからなかった。



「改装で副砲を取り除いたり、対空砲を備え付けたりするんだ。痛みを感じるということは改装も
痛いんじゃないのか?」





(・・・そう言われて見れば・・・そんな気も・・・)





「言うまでもないが、船用の麻酔なんてないからな」


高柳艦長の冷ややかな言葉に、大和は顔面が蒼白になっていくのを感じた。



顔面ってどこだ?などと聞いてはいけない。



「まあ、いまさら逃げられないんだ。覚悟を決めて頑張るんだな」





(ちょ、ちょっと改装するのは待った!!)





大和が慌てて改装を止めるように言おうとしたが、高柳艦長は既に背を向けてドッグを出て行こうとしていた。





(ちょ、ちょっと待ってよ!何処行く気なの!ヘルプミー!!)





「貴様の悲鳴など聞きたくないからな。それに私も暇じゃない」


何とか縋ろうとする大和にも高柳艦長は冷たかった。



(貴様のお陰で随分苦労したんだ。たまにはお灸を据えてやらんとな)


心ではそう思いながらも、彼の表情は妙に明るかった。



意外と根暗な性格かもしれない。





(鬼〜〜!!悪魔〜〜!!人でなし〜〜〜!!!)





そんな大和の悲鳴が聞こえる者は、既に誰もいない。


大和に残された選択肢は何もなかった。



結局それから改装の間中、誰にも聞こえることのない悲鳴を上げながら、大和は痛みに耐え続けることになったのであ
る。











そんなこんなで、ミッドウェイ海戦で帝国海軍が圧勝してから三ヶ月が経過した。



それはつまり、大和が叫び続けて三ヶ月が経過したということである。





(・・・・・)





さすがに三ヶ月痛みを与えられ続けた大和は完全に力尽きていた。



「船魂に言うのもなんだが・・・生きてるか?」


そんな中、久し振りにドッグに高柳艦長が姿を見せた。


大和の改装中、高柳艦長は幾度かドックに姿を見せたのだが、来る度に大和の文句を聞く羽目になり、さらに大和の
痛がりながらもどこか余裕のある態度を見て、ここしばらく様子を見に来なくなったのだ。


ちなみに大和は既に改装を終え、船台から下ろされている。





(・・・何か用?この裏切り者・・・)





大和は完全に不貞腐れていた。


高柳艦長の見たとおり、不貞腐れることだ出来るだけの余裕はあったようだ。



「随分と心外な言われようだな。貴様の言うとおり改装してやったというのに」


高柳艦長が冷静さを保ったままであった。



(こいつは基本的に子供なのだ。子供の言うことに腹を立てても仕方ないからな)


この三ヶ月で、高柳艦長は大和の本質を見抜いたようだ。


さすがに、基本的に優秀な人物である。





(痛いなんて聞いてなかったよ・・・)





「それは貴様の考えが足りなかっただけだろ」


大和の文句に対し、高柳艦長は勝ち誇ったように言った。





(うっ・・・それを言われると・・・)





それを言われてしまうと、残念ながら、大和にそれ以上言い返すことは出来なかった。



「そんなことより、新しい兵装の使い心地はどうだ?」



改装の結果、「大和」は対空砲が格段に充実していた。


改装前は12.7サンチ砲連装6基、25ミリ機銃3連装8基、13ミリ機銃連装2基であったのを
改装後は10サンチ砲連装20基、25ミリ機銃3連装92基、13ミリ機銃連装4基。


改装前の実に3倍以上の対空砲が配置されていた。


ここまでの対空砲を配置出来たのは、大和の存在でによって本来重要なバランス面に関してかなり無理出来たためこ
と、対空砲要員が不要であるためそれらを近接して配置出来たことが理由としてあった。



ちなみに対空砲を充実させるために、舷側にあった副砲4基は取り除かれている。




別面、この改装は多くの怪我人を出したことで帝国海軍史に残るものとなった。


理由は言うまでもない。


大和が痛みで暴れた時に、主砲や副砲といった兵装を矢鱈滅多に動かしたせいである。





(う〜ん・・・思った通り動いてはくれるんだけど・・・)





大和はそう言いながら、試しにとばかりに対空砲を動かす。


300を超える対空砲が一斉に左右に動く姿は、ある種滑稽であった。



「けど・・・なんだ?」


大和の中途半端な物言いに、たまらず高柳艦長が聞き返した。





(・・・数が多過ぎて上手く扱い切れない・・・)





「・・・・・」





(・・・・・)





二人の間に沈黙が流れる。



「・・・次の出撃は2週間後に決まったからな。それまでに訓練しておけ」


高柳艦長は飽きれたような、情けないような、そんな口調で言い放った。





(出撃?何処へ?)





上手く使えない対空砲のことは一先ず忘れ、大和は新しい情報へと飛びつく。



「決まっている。帝国海軍の、そして山本長官の悲願でもある・・・ハワイだ」


高柳艦長の口調には、知らず知らずのうちに熱が籠っていた。


それだけ、ハワイという地は重要性を持っているのだ。





(げっ!ハワイ!?)





大和の言葉は、そんな熱に対して完全に水を差した。



「げっ!とはなんだ!貴様まさか行きたくないとか言うのではないだろうな?」


高柳艦長の口調が、その目線と同時に鋭さを帯びた。


今度はミッドウェイの時のように甘くはない。


そんな言外の気持ちが込められているかのようであった。





(い、いや行きたくないわけじゃないんだよ)





そんな高柳艦長に気圧されたのか、大和は口篭る。





(ハワイ攻略は僕だって何度も考えたことあるし・・・)





忘れている人も多いだろうが、大和は船魂というわけではない。


意識そのものは、それなりの、あくまでそれなりの軍事知識を持った一般人である。


そんな大和であるから、連合艦隊がハワイへ攻める事を考えたことがあるのが当然であろう。





(でもな〜・・・)





「でも、なんだ。貴様らしくもないな。はっきり言え!」


熱気に水を差された感じの高柳艦長が、はっきりしない大和を問い詰める。





(ハワイに行っても勝てる気がしないんだけど・・・)





それが大和の考えであった。


大和の知識内では、この時期ハワイには500機前後の航空機が配備されている。


さらに米空母も太平洋方面から回してきたと考えれば2隻はいるだろう。


となれば連合艦隊に勝ち目は薄い。





(・・・と、前に何かで読んだ気がするんだよな〜)





久し振りの知識活躍かと思えば、単なる受け売りであった。



「貴様の心配はわかる」


大和の言葉に高柳艦長は意外なほどにあっさりと頷いて見せた。


連合艦隊内部でも、ハワイ攻略作戦への不安感があるのだろう。



「だがな、ハワイを取らねば我が国に勝ち目は無い。そしてハワイを取るには今しかないんだ!」


高柳艦長の態度はどこまでも真っ直ぐであった。





(う〜ん・・・まあこの僕がいるし、なんとかなるかな!)





高柳艦長の真摯な言葉に胸を打たれたのか、大和は急にやる気を出していた。





(考えて見れば、これは僕の夢なんだから日本が勝つに決まってるんだよね☆)





ただ単に楽観的なだけかもしれない。


ミッドウェイから帰還する途中、疑問に思ったこともすっかり忘れているようだ。



「改装までしてやったんだ。もちろん貴様にもしっかりと働いてもらう」


なんだかんだ言いながらも、高柳艦長も大和の働きに期待していた。


いや、いまや大和の能力を知っているもの全てが大きな期待を寄せてるのだ。。



大和の能力に関しては、一応秘密とされていたのだが、連合艦隊内部には既にかなり広まっていた。


もっとも、それは「大和」の能力は実は予想以上に凄い、といった程度のものでしかなかった。


船魂が「大和」を動かしているなど、誰も信じはしないだろう。





(へいへい、分かりましたよ。全く人・・・艦使いが荒いんだから)




しかもこんな船魂である。



連合艦隊旗艦の船魂がこんなのだと知られるわけにはいかない。


そう判断を下した山本長官と、高柳艦長の判断は極めて正しいと言わざるを得ない。



「早速だが、貴様にやってもらいたいことがある。外まで出てくれ」


いまさら大和のふざけた言い方に乗る事無く、高柳艦長は早速大和に指示を出した。





(やった!久し振りの海だ〜!!)





三ヶ月もの間何もやることがなかったためか、大和はそれ以上聞こうとせず早速動き出し始めた。



「お、おい!そんな急に飛び出すんじゃない!」


高柳艦長の制止も聞かずに、大和は大海原目指して飛び出した。





(う〜み〜だ〜〜〜〜〜っちょわ〜〜!!)





あっという間に海に飛び出したとたん、わけの分からない言葉を発しながら、大和は慌てて舵を取った。


「大和」の目の前に一隻の船が立ち塞がっていたのだ。





(危ないじゃないか〜!!)





自分が飛び出したことをを棚に上げて、大和は怒りの声を上げた。





(僕が避けなかったらきみは沈む・・・)





その艦の正体に気が付いた大和は、そこまで言って急に口篭る。



「ぶつかった場合、沈むのは貴様の方だったかもな」


小型艇に乗り、「大和」を追いかけて来た高柳艦長が二隻の船を見比べながらそう言った。



世界最大の戦艦たる「大和」と衝突し、逆に沈めることの出来る可能性のある艦。


そのような艦など、この世に一隻しか存在しなかった。





(これは・・・「武蔵」!)





戦艦「武蔵」。


大和型戦艦2番艦「武蔵」の姿がそこにはあった。



















<次回予告>



ついに完成した「武蔵」。


世界最強の戦艦を二隻揃えた連合艦隊はある作戦に臨む。


しかし、巻き起こる混乱。


大和はその全てを撃ち砕くことが出来るのか!?





次回!

「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第十話 武蔵降臨!」




太平洋の歴史がまた1ページ。







「連合艦隊も僕の敵だ〜〜!!」






注)次回予告は3話程後に達成されます(爆)











〜〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜〜〜


というわけで、「蔵王」さんのリクエストの副次的な物として書いた「愉快な大和君 第九話」をお送りしました。


なんかこの作品進みが早いな〜(汗)



さて、いよいよ戦艦「武蔵」の登場です。


軍事系に全く知識のない人でも読める作品となっているとは思いますが、どのくらい読んでくれているのでしょう(汗)



皆様のリクエストどしどしお寄せください。


それでは次回お会いしましょう。









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