|
「本当に俺達の海軍は勝ったのか・・・?」
1916年6月1日夕暮れ、英国ロサイスにある軍港で一人の男が凱旋してきた艦隊を見て、唖然とした表情で呟いた。
男は海軍整備官として、つい二日前の深夜に英国の誇る最新戦艦「クイーン・エリザベス級」四隻を中心とする艦隊を
見送ったばかりであった。
その時見送った誰もが英国海軍の勝利を予想し、そして信じて疑わなかった。
15インチ砲を積んだ「クイーン・エリザベス級」戦艦は現時点に置いて間違いなく世界最強であり、英国艦隊は数でも、
質でも独大海艦隊を上回っている。
そしてそれを操るのは世界最強たるロイヤル・ネイビーの優秀な乗組員達。
何一つ負ける要素はなかった。
いや、ないはずであった。
つい先刻行なわれた政府発表においても海戦での勝利宣言がなされており、男達は凱旋してくる艦隊を迎えるために
港へと集まっていたのだ。
しかし彼らの目にした物は、彼らの期待からは大きく離れたものだった。
確かに政府発表において英艦隊にも少なからぬ被害が出ていることは知っていたが、彼らの目にしたものはその想像
をはるかに超えていた。
クイーン・エリザベス級の数すら足りないのだ。
だがそれはロサイスだけではなかった。
このしばらく後、同じく英国インヴァー・ゴードンを始めとする他の軍港でも同じような呟きが漏らされたことを男達は知
らない。
否、その呟きは英国のみならず、独国内の軍港でも同じような呟きが漏らされていた。
世界史に残る大海戦、ユトランド沖海戦はその壮絶さにおいても世界史に名を残す。
5月31日早朝、独逸大海艦隊司令長官であるシェーアは7隻の巡洋戦艦をヒッパーに預け先行させると、自らも16隻
のド級戦艦、6隻の前ド級戦艦の計22隻を中心とする艦隊を率いて北方に向けて出航した。
目的は言うまでも無く英国艦隊を撃滅し、北海の制海権を握ることであり、開戦以来の海軍の大規模行動であると同
時に、独逸大海艦隊の総力を上げた出撃であった。
一方、英国艦隊も独大海艦隊の出撃を感知し、こちらもほぼ全力を上げた出撃命令を出していた。
奇しくも英国艦隊司令長官ジェリコーはシェーアと同じく、巡洋戦艦部隊を先行させる布陣を引いた。
こちらの巡洋戦艦部隊には極東に派遣したライオン級4隻を補うために、加えられたインヴィンシブル級巡洋戦艦3隻
(インヴィンシブル、インフレキシブル、インドミタブル)を始めとした巡洋戦艦5隻が存在していた。
しかし、デアフリンガー級巡洋戦艦4隻(フォン・ライヘアを含む)を擁する大海艦隊と比べると見劣りがすると言わざる
を得なかった。
そこでジェリコーは最新鋭戦艦であり、巡洋戦艦の速力にも辛うじて着いて行けるクイーン・エリザベス級4隻を加える
ことでこの不利を補った。
英国側参加艦艇 ド級戦艦25隻、巡洋戦艦5隻。
独国側参加艦艇 ド級戦艦16隻 巡洋戦艦7隻、前ド級戦艦6隻。
一大海戦は静かにその幕を開けようとしていた。
午前中はお互いが姿を認め合わないという極めて静かなものとなった。
嵐の前の静けさ。
そんな言葉がよく似合う光景である。
そして午後となり、激闘の幕はその幕を開けた。
午後2時半を回った頃、先行していた両巡洋戦艦部隊はとうとうその相手を発見した。
この時点で英巡洋戦艦部隊からの変針方向旗を見落としたエヴァン・トマス少将率いるクイーン・エリザベス級戦艦4隻
は15マイル程離れていた。
そのため独巡洋戦艦部隊との戦力差は明らかであったが、ネルソン提督以来見敵必戦を信条する英国海軍ゆえか、
はたまた暫くすればクイーン・エリザベス級4隻が駆けつけて来ることがわかっていたためか、英巡洋戦艦部隊を率い るフッド少将は果敢にも独巡洋戦艦部隊に戦いを挑むことを選択した。
戦力に勝る独巡洋戦艦部隊にこれを断る理由は無く、主力部隊を後方に置いたままの状態で3時40分過ぎ、ついに
両艦隊の間で砲戦の火蓋が切って落とされた。
先手を取ったのは主砲口径、射程共に勝る独巡洋戦艦部隊であった。
独逸海軍唯一の14インチ砲搭載艦であるデアフリンガー級4隻は独逸海軍、いや独逸中からの期待に充分に応える
働きを見せた。
太陽を背にし、その姿をはっきりと浮かび上がらせた英巡洋戦艦部隊に対し降り注ぐ32個の14インチ砲弾は旧式と
も言える英巡洋戦艦を容赦なく叩きのめした。
最初に悲劇に見舞われたのはインディファティガブルであった。
フォン・ライヘアから放たれた8発の砲弾の内3発がインディファティガブルを捉えると、新鋭とは言えないインディファテ
ィガブルは堪えきれずに横転、その船体を静かに海底へと沈めていった。
本来であれば、日本海軍に所属し「金剛」という名を負っているはずであった戦艦が英独の一大海戦において最初の
得点を上げたことは運命の皮肉と言うべきなのだろうか。
海戦早々1隻を失った英巡洋戦艦部隊であったが、怯む事無く前進を続けついにその射程に独巡洋戦艦部隊を捉え
た。
しかし、英国側が1隻を失ったことで4対7と数的差は増えており、まともに打ち合っては英巡洋戦艦部隊に勝ち目はな
い。
そこでフッド少将は自分達の射程ぎりぎりに独巡洋戦艦部隊を捉えながら、後方に控える本隊へ誘導を行なうような艦
隊運動を行なった。
結果的にこの誘引は成功する。
本隊はともかく、エヴァン・トマス少将の到着は間違いなく早まった。
しかし、そのために支払った代償は余りにも大きいものとなった。
距離を遠距離で保ったために、独巡洋戦艦からの砲弾は大角度で英艦隊を襲い、ただでさえ14インチ砲に耐えうると
は言えない英巡洋戦艦の装甲を次々と貫いた。
インドミタブルはヒンデンブルグの砲撃を中央主砲塔に受けて誘爆、爆沈したのを切っ掛けに、ニュージーランドはリュ
ッツオウからの、インフレキシブルはデアフリンガーからの砲撃によって戦闘能力を喪失しており、戦場から離脱するの が精一杯でった。
一方、独巡洋戦艦は数発の被弾こそしていたものの、目に見える被害を受けていなかった。
14インチ砲に対しても過剰とも言える装甲を持ったデアフリンガー級巡洋戦艦は、英巡洋戦艦の13インチ砲を易々と
弾き返したのだ。
だがその犠牲も無駄になったわけではなかった。
英巡洋戦艦部隊で唯一インヴィンシブルのみがその戦闘能力を維持しているという状況にまでなったとき、エヴァン・ト
マス少将率いるクイーン・エリザベス級戦艦4隻が戦場に到着した。
これで主力艦の数では英艦隊5隻に対し、独艦隊7隻。
依然として独逸が上回ってはいるものの、うち3隻は11インチ砲を搭載している旧式艦であるため、実質的な差はほと
んど無くなったと言っていい。
そして戦場には、デアフリンガー級とクイーン・エリザベス級という独英の最強艦が揃った事となった。
英独の最強艦が4隻づつ揃う事となった戦場では、熾烈な戦いが繰り広げられた。
デアフリンガー級はスペックに劣るものの、その重装甲でよくクイーン・エリザベス級の15インチ砲弾に耐えた。
この時英国側の砲弾に不備があったことが、独側にとっては幸運だったと言えよう。
一方、クイーン・エリザベス級の装甲もデアフリンガー級の14インチ砲に比較的余裕を持って耐えた。
そして主砲の性能差を生かし、全体的には優位に戦闘を進め、デアフリンガー級ではないもののモルトケを手始めとば
かりに沈めていた。
さらにデアフリンガー級であるリュッツオウに対しても、第一、第二砲塔を使用不能とする損害を与え、フォン・ライヘア
の第三砲塔が使用不能へと追いやっていた。
しかしながら、英国側もさすがに無傷ではなく、ヴァリアントが中破判定程度の、マレーヤが小破判定程度の損傷を負
っていた。
それでもその主砲塔は全て使用可能であり、火力は失われてはいなかった。
そして、両艦隊が熾烈な戦いを繰り広げている間にも、英独の主力艦隊は徐々に戦場に近づいて居た。
先に戦場に姿を現したのは、独大海艦隊であった。
これは独巡洋戦艦部隊がまともに撃ち合う不利さを察知し、先ほどの英巡洋戦艦部隊と同じく、大海艦隊の方へ誘引
を行なっていたからに他ならない。
既に2隻を失い、同じく2隻を大破させられている英巡洋戦艦隊は執拗に独巡洋戦艦部隊を深追いし過ぎてしまったの
だ。
本来索敵を担うはずの水雷戦隊も独水雷戦隊との戦いに没頭し、英巡洋戦艦部隊は最後の最後まで大海艦隊の接
近に気付くことが出来なかった。
いかに最新鋭の戦艦4隻とはいえ、独大海艦隊本隊が姿を見せたことで主力艦だけでも28隻対5隻。
この状態で戦いを続けるのは、余程の策を持っている知者か本物の大馬鹿者だけであろう。
幸か不幸か、そのどちらでもなかったエヴァン・トマス少将は艦隊を反転させ、射程外を保ったままで英艦隊の本隊を
待つ作戦に出た。
しかし、判断としては正しかったとされるこの行動は独側の果敢な戦いによって阻害される。
反転し、狙いが定まらない状態となっている英巡洋戦艦部隊に対し、その間隙を縫うように独巡洋戦艦部隊が優速を
生かして一気にその距離を縮めた。
もちろん英艦隊の巡洋艦、駆逐艦が懸命の阻止活動を行なったのだが、それを阻止しようとする独巡洋艦、駆逐艦の
活躍に加え、被害を恐れずに強引な行動を取った独巡洋戦艦部隊の行動ゆえに、阻止し切れることは出来なかった。
巡洋艦や、駆逐艦の少なからぬ量をライオン級巡洋戦艦、ベレロフォン級戦艦に付けて極東に派遣した仇がここでも
生じてしまった結果になったのだ。
その結果クイーン・エリザベス級4隻は、独巡洋戦艦部隊の射程に捉えられ、一方的な砲撃を受ける羽目となった。
一方的な砲撃ゆえの高い命中率などが合わさり、クイーン・エリザベス級4隻の被害は急激に大きくなっていった。
既に被害を受けていたヴァリアントがさらに10発を超える命中弾を受けて速力を急激に落とし、それまで無傷と言って
よかったバーラムも火力の半分を奪われた。
もちろんかなり強引な行動を取った独巡洋戦艦部隊、特に先頭を行っていたデアフリンガー級も被害を受け、被雷して
かなりの浸水を許したリュッツオウは火力を残しながらも無念の離脱を図っていった。
さらに、苦し紛れに放たれたウォースパイトからの砲弾を運悪く受けてしまったフォン・ライヘアも新たに第4砲塔が使用
不能となった。
だが、その被害に充分見合うだけの結果を彼らは残した。
英巡洋戦艦部隊が独巡洋戦艦部隊からの砲撃に妨害され、上手く射程外まで逃げ出せずにいる間に独大海艦隊本
隊はそれらを射程に収めることに成功したのだ。
この瞬間、砲撃可能な主力艦は独側28隻、英側5隻となった。
いかに独側に15インチ砲搭載艦がいないとは言え、この後の展開はまさしく数の暴力と言うに相応しい展開を見せ
た。
全砲門を使えるわけではないとはいえ、優に100門を超える砲撃がわずか5隻に集中し、ヴァイタルパートを撃ち抜か
れることこそ稀ではあったが、甲板上の全てはなぎ倒され、クイーン・エリザベス級4隻は次々と沈黙。
クイーン・エリザベス級よりも遥かに薄い装甲しか持たないインヴィンシブルはたちまちその船体を海底へと沈め、フッ
ド少将も帰らぬ人となった。
それでもクイーン・エリザベス級は沈没を免れていたが、さすがに限界の時は来た。
クイーン・エリザベス級の中で最も早く、その姿を消したのはやはりヴァリアントであった。
既に速力を落としていたヴァリアントは他の3隻に比べて多数の艦からの集中砲火を受け、完全に戦闘力を喪失し辛う
じて浮いているだけの状態となった。
そして暫くした後、浸水に耐え切れなくなり静かに沈んでいった。
続いて、ウォースパイトが最後を迎えた。
それまで無傷だったウォースパイトは他の2隻の盾となるための殿の役目を果たし、実に100発を超える砲弾をその
身に受け戦闘力を完全に喪失した。
その隙にバーラム、マレーヤは辛うじて独大海艦隊の射程圏から逃れることに成功したものの、2隻に逃げられた鬱
憤を晴らすかのような独大海艦隊からのさらなる砲撃を受け、完全に沈没するまでさらに100発を超える砲弾を受け た。
ウォースパイトが受けた砲弾は確認された範囲では241発。
不名誉か、はたまた装甲がそれだけ優れていたということか、ウォースパイトは歴史上最も多くの砲弾を受けた艦とし
てその名を残した。
このまま独逸側の勝利で終るかと思われた戦いであったが、さすがにそう簡単には済まなかった。
エヴァン・トマス少将からの連絡を受け、全速力で向っていた戦域へと向っていた英艦隊本隊がついにその姿を現した
のだ。
巡洋戦艦部隊の大半を失ったとは言え、英艦隊は本隊だけで21隻のド級戦艦を保有しており、クイーン・エリザベス級
戦艦もいまだ2隻が戦闘力を有している。
一方、ド級以上の艦に限定すれば独側は21隻。
数においてこそ互角ではあるものの、今まで最前線で戦い続けていた巡洋戦艦部隊はその激闘に見合うだけの損傷
を受けていた。
さらに各艦の性能においても概ね英艦隊側が勝っているため、独側の不利は否めなかった。
この状況に、独大海艦隊司令長官シェーアは正面からの対決を避け、全艦隊に対し帰港を命じた。
独逸から見れば、英巡洋戦艦部隊を撃滅したことにより巡洋戦艦においては英国側を上回り、北海における英国の制
海権を脅かす事も不可能でなくなったため作戦目的を達成したと言ってもいい。
そのため無理して戦いを続行する必要がないのだ。
そして、当然のことながら英艦隊からすればこのまま逃がすわけには行かなかった。
世界最強たる英国海軍の誇りに賭けて、そしてこの先北海の制海権を握り続けるためにも、英艦隊はこのまま独大海
艦隊を見逃すわけにはいかない。
ジェリコー大将の指示の元、大海艦隊を猛追する英艦隊。
それをかわしながら自国勢力海域に退避しようとする大海艦隊。
世界二大海軍のほぼ全ての戦力が集まるという、あまりに大規模な追いかけっこが始まった。
ナッソー級など、やや速度で劣る艦を抱える独大海艦隊は退避を確実にするため、艦隊を三つに分かれた。
一つはド級以上の戦艦で構成する本隊。
そして優速を生かして敵艦隊を翻弄する役目を担う巡洋戦艦部隊。
最後に前ド級戦艦部隊である。
20ノット以上の速力を出すことの出来るド級戦艦群(ナッソー級は19.5ノット)の中において、前ド級戦艦である旧式
戦艦は速度の点で大きく劣ったのだ。
そのため、旧式戦艦を本隊と共に行動させては英艦隊に追いつかれる可能性が高くなる。
そこでシェーアは前ド級戦艦を本隊から切り離し、別ルートを取らせることにした。
敵が前ド級戦艦追撃の戦力を割けば、本隊への圧力が弱まる。
最悪6隻全てが沈められたとしても、所詮は前ド級の旧式戦艦。
クイーン・エリザベス級2隻を含め既に5隻を沈めていることを考えれば、充分勝利と呼べる。
一方英艦隊が全力で本隊を追撃してくれば、6隻は逃げ切れる上に元々戦力として考えにくい6隻を切り離したことで
英艦隊と大差無い速度で行動する事が出来るのだ。
一方、巡洋戦艦部隊の役目は単純明快であった。
英巡洋戦艦部隊は既に5隻のうち、3隻を失い2隻は戦場を離脱している。
最新のクイーン・エリザベス級は24ノットを発揮出来るものの、独巡洋戦艦隊はは最古参のフォン・デア・タンでさえ25
ノットとクイーン・エリザベス級を上回る。
その速度を生かし、英艦隊を翻弄、大海艦隊本隊を逃がそうというのである。
3つに分かれた大海艦隊に対し、ジェリコー大将は6隻の旧式戦艦を無視しただひたすらに独大海艦隊本隊を負うよう
に指示を出した。
6隻の旧式戦艦部隊は決して無視できる戦力ではないものの、本隊に比べればその重要さは比べるまでも無い。
それでも巡洋戦艦部隊を無視する事がさすがに出来なかった。
14インチ砲を持っているデアフリンガー級が撹乱目的とは言えその砲弾を浴びさせて来るのだ。
辛うじて速度で対抗し得るクイーン・エリザベス級残る2隻(バーラム、マレーヤ)に足止めをさせるとの案も出たが、既
に2隻を失っているうえ、残る2隻に関しても戦闘可能状態にあるとはいえ決して軽いとは言えない損害を受けている。
この上さらに危険な任務を与えることは却下された。
結局英艦隊に独巡洋戦艦部隊に対する効果的な対処法は無く、その追撃速度を緩めざるを得なかった。
そのため、日没を迎えたこともあり英艦隊は大海艦隊を見失ってしまう。
それでもジェリコー大将は大海艦隊の追撃をやめなかった。
それが功を奏したのか、20時半を回った頃英艦隊は再び大海艦隊の補足に成功した。
英艦隊からの追撃を逃れるために一時的に西方に退避した大海艦隊に対し、真っ直ぐ南方へと向った英艦隊の位置
関係は先ほどと異なり同航戦に近い形であった。
そのため独大海艦隊は英艦隊を避けて退避する事が叶わず、両艦隊は正面から激突することとなった。
戦いは先ほどまでとは比べ物にならないほどに激しさを増した。
戦いは夜戦ゆえにかなり近距離での戦いとなり、お互いに多数の命中弾を出すこととなり、双方に被害が続出した。
そんな消耗戦に近い中で、戦いを優位に進めたのは英艦隊であった。
主力艦で見た場合単艦ごとの性能で勝り、巡洋艦隊、水雷戦隊では数で上回っていたためである。
また大海艦隊は先ほど分隊した旧式戦艦群とはぐれており、主力艦の数の上で上回ることが出来なくなっていたのだ。
中でも自艦よりも1ランク上の戦艦であるキング・ジョージX世級、ロイヤル・サブリン級などと撃ち合うこととなったナッ
ソー級、ヘルゴラント級には被害が続出した。
戦闘開始後、しばらくしてリヴェンジからの15インチ砲弾を受けたオルデンブルクが急激に速力を落としたところに集
中砲火を受け沈没。
さらに沈みこそしなかったものの、ヴェストファーレンが全ての火力を奪われた上に、さらなる砲弾を受け、完全に戦闘
能力を喪失した(後に水雷戦隊の攻撃を受け沈没)。
そしてラインラント、チューリンゲンもほぼ全てのの火力を喪失して、辛うじて戦線を離脱していった。
独逸艦の中で最も装甲の薄い両級は13.5インチから15インチ砲を装備していた英艦隊からの攻撃に耐え切れなか
ったのだ。
他の独逸艦はその独特の重装甲でよく耐えてはいたものの、次第にその火力を失っていった。
一方これだけ近距離での撃ち合いとなると、英艦隊も被害から逃れれることは出来なかった。
独逸艦に比べて比較的軽装甲なため、この近距離からでは独逸艦の装備する11インチ〜14インチ砲でもその装甲
を貫かれ始めた。
カイザーと撃ち合っていたネプチューンが数発の被弾の末、装甲を見事なまでに貫通されて沈没したのを皮切りに、ヴ
ァンカードがプリンツ・レゲント・ルイトポルトからの砲撃で、ハーキュリーズがグローサー・クフュルストからの砲撃で戦 闘能力を失い止む無く戦場から離脱していった。
それでも全体的には大海艦隊より被害は少なく、巡洋艦隊、水雷戦隊の中には戦場を突破し始めたものも現れ始め、
このまま進めば英艦隊の逆転勝利は間違いないと思われた。
しかし、戦況はさらに一転する。
大海艦隊本隊からの連絡を受け、戦場へ向っていた旧式戦艦群が戦場にその姿を現したのだ。
しかも英艦隊を挟んで、大海艦隊本隊とは反対の位置にである。
後にこれは全くの偶然であったことが判明しているが、戦場では運をより味方に付けた者が勝利を収める。
突如後背に敵を背負った英艦隊は混乱に陥った。
いくら旧式戦艦群とはいえ、6隻分のその砲力を無視するわけにはいかない。
かといって砲撃を分散すれば、折角優位に進めている大海艦隊本隊との戦いを失ってしまう。
ジェリコー大将を始めとする英艦隊指揮官達は一瞬判断に迷った。
それは僅かな時間だったかもしれないが、その僅かな時間は戦場ではやや長すぎる時間ではあった。
劣勢の中、懸命に状況を打開しようとしていた大海艦隊はその僅かな時間を無駄にはしなかった。
優速ながらそれまで上手く優位な位置を占められずにいた独巡洋戦艦部隊が必死の操艦の末、英艦隊の頭を押える
ことに成功したのだ。
形こそやや違えど、それは正しく日本海海戦で東郷元帥が成功させた丁字戦法の再来であった。
両側を大海艦隊本隊、旧式戦艦群に挟まれ、頭を巡洋戦艦部隊に押えられた英艦隊はまさに3方向からの砲撃を浴
びることとなった。
英艦隊の先頭を行っていたアイアン・デュークがデアフリンガー級3隻からの集中砲火を浴び、たちまちのうちに沈没し
てしまった。
ここまで来て、英艦隊もようやく一時の混乱から立ち直り、主に大海艦隊本隊へ向けて砲撃を再開した。
左右から砲弾を撃ち込まれる中で一定の命中率を叩き出したことは、さすが世界に名立たるロイヤル・ネイビーと言え
よう。
それでも包囲されているという不利さは否めず、ジェリコー大将はここでついに退却の命令を下した。
しかし、包囲されている状態からの退却は容易ではなく、その後も壮絶な撃ち合いが続いた。
むしろこの段階での戦いが最も激しかったと言える。
退却路を開こうと前進する英艦隊と、それを塞ごうとする大海艦隊の距離が徐々に接近するに従い、命中率とともに、
一発一発の破壊力も徐々に増していく。
そしてその衝撃に耐え切れず、沈没していく艦が続出し始めた。
両艦隊のの戦艦が次々と沈没していくその光景は、禍々しくもあり、そして悪魔的なまでに美しかったという。
日付も変わり1時を回ったころ、ようやく二つの艦隊は針路を別にし始めた。
すなわち、英艦隊は英本土へ、大海艦隊は本国へと帰還を始めたのだ。
独巡洋戦艦部隊を率いていたヒッパー中将はさらなる追撃を進言したが、既に大海艦隊のほとんどの艦は傷付き、英
艦隊の前方に立ち塞がる形となったデアフリンガー級もその全てが火力を失っていたことからとても追撃を出来る状態 ではなかった。
もちろんそれは英艦隊も同じことであった。
両艦隊とも本国へと帰港出来た艦は出撃時から大きく減じており、無傷の艦など探すのは無駄な状態であった。
こうして、史上最大の海戦が終焉を迎えた。
暫くして報告された被害状況は、両国の指導者達の顔面を蒼白にさせるに十分なものであった。
事実、この海戦の後自ら職を辞する海軍関係者が続出することとなる。
ユトランド沖海戦損害
[英国海軍]
沈没
戦艦 「アイアン・デューク」
「ヴァリアント」
「ウォースパイト」
「ネプチューン」
「エジンコート」
「セント・ヴィンセント」
「サンダラー」
「センチュリオン」
巡洋戦艦 「インドミタブル」
「インディファティガブル」
「インヴィンシブル」
装甲巡洋艦 5隻
巡洋艦 4隻
駆逐艦 16隻
大破
戦艦 「ヴァンカード」
「ハーキュリーズ」
「ロイヤル・オーク」
「コリングウッド」
「コンカラー」
「マレーヤ」
巡洋戦艦 「インフレキシブル」
「ニュージーランド」
装甲巡洋艦 1隻
巡洋艦 3隻
中破
戦艦 「コロッサス」
「オライオン」
「モナーク」
巡洋艦 1隻
駆逐艦 10隻
[独国海軍]
沈没
戦艦 「ヴェストファーレン」
「オンデンブルク」
「クロンプリンツ」
「ヘッセン」
「ハノーファ」
「ポンメルン」
「ドイッチェランド」
巡洋戦艦 「モルトケ」
「ザイドリッツ」
巡洋艦 7隻
駆逐艦 14隻
大破
戦艦 「ラインラント」
「チューリゲン」
「カイザリン」
「ケーニヒ」
「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン」
「オストフリースラント」
巡洋戦艦 「フォン・ライヘア」
「デアフリンガー」
「リュッツオウ」
巡洋艦 3隻
駆逐艦 1隻
中破
戦艦 「フリードリッヒ・デア・グロッセ」
「カイザー」
「プリンツ・レゲント・ルイトポルト」
「グローサー・クルフュルスト」
「マルクグラフ」
巡洋戦艦 「ヒンデンブルク」
「フォン・デア・タン」
巡洋艦 4隻
駆逐艦 8隻
死者は双方とも万を優に超えるほどであった。
両軍合わせて戦艦15隻、巡洋戦艦5隻、装甲巡洋艦5隻、巡洋艦11隻、駆逐艦隻30隻。
僅か1日の海戦で排水量にしてにしておよそ50万トンが失われるという前代未聞の大海戦であった。
主力艦同士の戦いでは、全体的に大海艦隊の損害が多いものの、重装甲で辛うじて沈没は免れることが多く、沈没艦
では英国が上回ってしまった。
逆に巡洋艦、水雷戦隊の戦いでは、終盤で数的優位を保ち続けた英艦隊に凱歌が上がった。
また、この海戦は世界各国の海軍関係者に様々な印象を与えた。
独巡洋戦艦部隊の活躍は「戦艦は高速であるべきだ」との印象を与え、
英巡洋戦艦部隊の呆気なさは「巡洋戦艦と言えども、それなりの装甲は必要だ」との印象を与えた。
英国新鋭戦艦の破壊力は「戦艦の主砲は大きくなければならない」と思わせるに充分な物であった。
すなわち、理想の戦艦とは「高火力、重防御、高速」の全てを満たす必要がある。
その実現のために各国はより大型の艦の建造に熱を上げるようになって行くのであった。
この海戦の後、英独両国ともに大々的に戦果を発表すると同時に、海戦の勝利宣言を行なった。
独逸は撃沈数で上回ったことを主張し、英国は全体的な損害を主張したのだ。
そしてこの海戦でどちらが勝利したかはともかく、どちらが作戦目的を達成したかはその後の戦況が全てを物語ってい
た。
この海戦で両艦隊とも深手を負ったため、およそ半年に渡って大きく行動を制限されることとなった。
その結果、英国が行なっていた北海での封鎖が緩み、日本から独逸への物資が届くようになったのだ。
なにより巡洋戦艦のほとんどを失ったのが痛かった。
英艦隊は最優先で修復が行なわれた独巡洋戦艦部隊に翻弄され続け、英国が逃げってた制海権は完全とまではい
かないまでも、かなりの範囲で失われることとなった。
この重大な局面に際し、英国は極東からライオン級巡洋戦艦を呼び戻すという意見も出されたが、実行されることはな
かった。
これには極東方面を重視したというよりも、ライオン級ではデア・フリンガー級には勝てないという現実的な理由が強か
ったと言われる。
そして海戦の結果は兵士達の士気にも影響した。
世界最強と言われ、規模でも勝る英艦隊と互角の戦いをした独逸では大いに士気が上がり、逆に英国では士気の低
下を認めざるをえなかった。
この海戦は間違いなく陸上の戦闘にも影響を与えた。
しかし、同時に「この大戦は海上の戦いでは決まらない」ことを教えることとなった。
結果、この先海での戦いは「海の中」がその重要度を増していくこととなる。
〜〜〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜〜〜〜〜
またもや執筆の遅れてしまったやまとで御座います。
さて、予想外にもユトランド沖海戦で1話使ってしまった・・・
日本とは関係の薄いユトランド沖海戦でこれでは、第二次大戦に入った時の海戦にどれだけ掛かるか・・・
考えるだけでも怖い(汗)
さて、「ライオン級」「ベレロフォン級」のいない英国海軍VS「強化型デアフリンガー級+1」の独逸艦隊の戦い、いかが
でしたでしょうか。
ってまだ歴史改変の段階であり、ちゃんと海戦を書いてないんですけどね(^^;)
それにしてもこの時期の英海軍で圧倒的だったんですね〜。
独逸が艦隊保全に走ったのもわからないでもない。
そんなことを書いていて思いました。
とにかく「ライオン級」がいなくて助かりました。
それで巡洋戦艦では独逸がかなり有利でしたからね。
いくつかの幸運に恵まれて互角の戦いをした独逸海軍。
その影響は大戦にどのような影響を与えるのか。
ということで、また次回お会いしましょう。
以下、このHPだけの追記。
ご存知の通り、この作品は「皇国海軍海鳴鎮守府」様に投稿しています。
このHPで早目にアップするのは、読者様からの突込みを受けて推敲し、多少なりとも良い作品にして投稿するという目
的が御座います。
ということで、突込み大歓迎!!
むしろ突っ込んで(笑)
スカゲラック海戦だろ!という突込みだけは禁止です(笑)
|
|
|