愉快な大和君、戦場へ逝く





第10話  武蔵降臨
















(うわ〜〜!!すげ〜〜!!でけ〜!!!)





生まれて始めて生の大和型戦艦を見た大和は大興奮していた。



46サンチ砲を積むための広い横幅から感じさせる重厚感は他の戦艦とは明らかに一線を画す。


天へ咆えんと聳える46サンチ砲もまた他を圧倒する印象を与える。





(格好いい〜〜〜!!!!)





「気持ちはわかるが・・・貴様も同じだぞ」


なおもはしゃぎ続ける大和を高柳艦長が落ち着かせようとする。


海軍軍人として大和型戦艦には特別な思い込みを抱くのは理解出来るものの、高柳艦長から見れ「大和」も「武蔵」と
同じであった。



何時の間にか、高柳艦長は「大和」に乗り込み、艦橋へとやってきていた。





(でもさ〜自分ではよくわからないじゃん。やっぱ改めて全体像を見ると違うよ〜)





そう言うと、大和は「武蔵」の周りをぐるぐる回り始める。


その姿は、大好きなおもちゃを見つけてはしゃぐ子供そのものであった。



もっとも、子供のおもちゃというにはあまりに巨大で高価な物なのだが。





(・・・あれ?この「武蔵」僕とちょっと違うよ?)





しばらく「武蔵」を眺めていた大和は、自分との相違点に気が付いた。


自分、すなわち「大和」と比べると対空機銃が少ないように思える。



「ああ、それはな・・・」



「大和」の改装が決まった後、山本長官は完成を間近に迎えていた「武蔵」の改装をも、命じた。


「大和」と同じく対空砲の充実を目指したのである。




「だが、そこで大きな問題が2つあった」





(大きな問題?)





「ああ」


大和の言葉に、高柳艦長は頷いた。



「1つは長砲身10サンチ砲が足りなかったこと」



以前述べた通り、長砲身10サンチ砲は高性能ゆえに生産が難しい。


「大和」に取り付けたものでさえ、長砲身10サンチ砲の搭載を予定していた「秋月」型駆逐艦の建造を遅らせて調達し
たのだ。


さすがに「武蔵」に取り付けるだけの量はとても確保し切れなかった。


そのため、高角砲としては12.7サンチを採用している。



現時点における「武蔵」の装備は以下の通りである。



戦艦「武蔵」 ()内は本来の計画。



主砲       46サンチ砲3連装3基9門   (同)


副砲       15.5サンチ砲3連装2基6門 (3連装4基12門)


対空砲      12.7サンチ高角砲連装16基32門 (連装6基12門)

         25ミリ機銃3連装40基120門 (3連装8基24門)

         13ミリ機銃連装4基8門 (連装2基4門)



全体的に、特に25ミリ機銃において「大和」との差が見られる。





「そしてもう1つ。まあこちらは今から貴様にやってもらうことに関係するのだが・・・」





(僕がやること??)





思いがけず自分のことが出てきた大和が不思議そうにする。



「「武蔵」には船魂がいるかどうかがわからない」





(はっ?)





高柳艦長の言葉は大和にとって極めて意外なものであった。



「貴様の場合は色々無理をして対空砲を積む事が出来た。だが「武蔵」は・・・」





(ちょ、ちょっと待った!)





話を続けようとする高柳艦長を慌てて大和は止める。





(それはおかしいんじゃない?)





「・・・何がだ?」


頭ごなしに否定する大和の言い方に、高柳艦長が不機嫌そうになった。





(もうちょっと常識的に考えようよ!船魂なんているわけないじゃん!)





「貴様の口から常識と言う言葉が聞けるとは思わなかったぞ」


なかなか厳しい言葉だ。





(だってどう考えたって船魂なんているはずないじゃん!)





「では貴様はなんだ?少なくとも我海軍には貴様という船魂がいる」





(ぼ、僕は特別さ)





何とかそう言い返したものの、高柳艦長の的確な返しに大和は押されていた。



「ならば他にも特別な艦がいてもおかしくはないだろ」





(それは詭弁というのでは・・・)





「詭弁でも何でも構わん。いいから早く確認しろ」


大和の言葉など全く聞かずに高柳艦長がそう断じたとき、艦橋に他の艦橋要員達が入ってきた。


いかに大和がいるとはいえ、やはり艦の指揮系統は必要なのだ。




「艦長、どうなりましたか?」


そんな一人である副長が、一番の関心事項である船魂の確認を高柳艦長に確かめる。



「ん?ああ、今から確認を取るところだ」





(そんなこと決まってな〜〜い!!)





「いいからやれ」


大和の意見は全く聞き入れられなかった。





(やだ)






こうなると、完全に意地になるのが大和である。



「・・・やらんと船体を桃色に塗るぞ」


あまりにも非常な宣告。





(そんな格好悪いのは嫌だ〜〜〜!!!)





さすがにこれには大和も一瞬にして音を上げた。



「じゃあやるんだ。我々も桃色の艦なんぞに乗りたくないからな」


自分も嫌なことで脅しをかけるとは・・・なかなか侮れない人物である。





(シクシク・・・やればいいんだろ、やれば)





一見大したことなさそうで、実現すれば物凄く嫌な脅しに屈した大和は渋々といった感じで「武蔵」へと再度注意を向け
た。




(勝った!!)


その頃、高柳艦長は艦橋で一人小さくガッツポーズをするとともに、喜びに浸っていた。


今まで大和の我侭三昧に振り回されていたところを一矢報いたのだ。



高柳艦長の心は大和降臨以来となる晴々としたものとなっていた。





(え〜…こちらは戦艦「大和」の船魂をやっている大和で御座います)




丁寧なのか、はたまた半ば投げやりなのか。


そんな口調で大和は「武蔵」に対して話し掛けた。



見た目には世界最大の戦艦が2隻向かい合っているという壮大な光景だけに、現実とのギャップが激しい。





(戦艦「武蔵」さん、「武蔵」さん。船魂がいらっしゃいましたら至急大和までお返事ください)





完全に迷子のアナウンスであった。


無理矢理強制されている行動に不満たっぷりである。




(…な〜んて、いるわけないよね。全く高柳艦長にも困った……)



(え〜と…わたくしのことお呼びになりましたか?)






(っていた〜〜!!)





予想外に返事が返ってきたため、大和は焦りを隠せない。



「何!?いたのか!?」


大和の叫びを聞いた高柳艦長が身を乗り出して詰め寄った。





(ちょ、ちょっと待って!今詳しく聞いてみるから…)





いまだ落ち着きを取り戻せない大和はすぐにはしっかりとした返事を返せなかった。


そこで一旦深呼吸をし気持ちを落ち着けると、再び「武蔵」へと注意を向けた。





(え〜と…あなたは誰ですか?)



(どうも始めまして。わたくし武蔵と申します)





大和の再度の問いかけに、再び丁寧な言葉で返事が返ってきた。


それと同時に、「武蔵」の前面に一人の少女の姿が浮かび上がる。




桜色の着物で身をまとい、長くさらさらとした黒髪を潮風に靡かせながら、「武蔵」の舷先に佇む一人の少女。


その長い髪は後ろで赤いリボンによって1つに纏められている。





(か、可愛い…)





可憐としか言い表せない少女に、大和は思わず見惚れた。


「武蔵」の船魂が某小説と違うという文句を言ってはいけない。





(……?何かおっしゃいましたか?)





大和が自分に見惚れているなどとは気付かない武蔵は不思議そうに大和の方を見つめる。





(あ、いや、何でもないです…)





その言葉でようやく大和は我を取り戻した。





(そうですか?それならよろしいのですが…)







「おい大和!さっぱり話が見えてこないぞ!」


突然ラブコメ状態に陥ってしまった大和とは裏腹に、高柳艦長は艦橋で苛立ちを隠せずにいた。


先ほどから大和の声しか聞こえず、事情が全く飲み込めない。


どうやら高柳艦長に武蔵の声は聞こえないようだ。





(あ、ごめん、ごめん。とりあえず、「武蔵」の船魂がいることは確かだよ)





「それならいいのだが…それで?そいつもお前と同じような能力を持っているのか?」


高柳艦長を初めとする連合艦隊将兵の関心はそこにあった。



いくら船魂がいたとしても、何かしらの能力を持っていなくては彼らにとって意味はない。


もっとも、船魂がいる限りその船は沈まないという信仰は存在するのだが。





(え〜と、ちょっと待ってね)





そう言うと、大和は再び武蔵の方に注意を向けた。





(あの、武蔵さん。いくつか聞きたいことがあるんですが…いいですか?)





大和の武蔵に対する態度は今までにないほど丁寧であった。





(はい。私に分かる範囲のことでよろしければ)





武蔵は笑顔を浮かべたまま、大和の頼みを快諾する。





(武蔵さんって自分の意志で「武蔵」を動かせますか?)



(自分の意志でですか?)



(はい。僕は出来るから武蔵さんも出来るかな〜っと…)





あくまで大和の言葉遣いは丁寧であった。


こういった言葉遣いもやろうと思えば出来るようだ。





(あの、やろうと思えば出来ると思いますが…)



(本当ですか!?)





武蔵の答えに大和が喜び一杯の声を上げた。





(これで色んな任務を一緒にこなせるよ♪)





喜びの原因はそういうことらしい。


先ほどまで船魂の存在を全面否定していたとは思えないほどの変わりようである。





(でも勝手に動かしてしまうと、乗組員の方達に御迷惑を掛けてしまうのではないでしょうか?)





武蔵は表情が曇らせながらそう言った。





(ああ、大丈夫大丈夫。このことは連合艦隊司令長官の許可済みですから)





山本長官は、何時の間にか許可を出したことになっているようだ。


もちろん、船魂がいると分かれば認めないということはないだろう。





(それならよろしいのですが…)



(あ、ちょっと待ってね。今高柳艦長に報告するから…)





艦橋で再び苛々し始めた高柳艦長を見て、大和はそう言うと再び注意を艦橋に戻した。


なかなか忙しいやつだ。





(お〜い、武蔵さんも僕と同じことが出来るみたいだよ〜)





「そうか!同じ能力があるのか!!」


高柳艦長の言葉に艦橋が一気に沸いた。



「さすがは大和型戦艦だ!」


「ああ。我が国が国運を掛けて造っただけのことはある」


「この大和型が2隻もあれば、空母の連中に大きな顔はさせないぞ」


艦橋の至る所でそんな言葉が聞かれた。



戦前は海軍の花形と言われながらも、いざ戦争が始まると航空機に活躍の場を奪われ、何ら働きを見せられずにいた
戦艦部隊を率いてきた人々の喜びはひとしおであろう。




余談ではあるが、国運を掛けて戦艦を造っても普通船魂が宿らない。






(大和さんは人と話しが出来るのですか?)





そんな「大和」の状況を見た武蔵が尋ねてきた。





(僕の言葉がわかるのは高柳艦長だけだけどね。武蔵さんは誰かと話せないの?)



(ええ、聞こえるだけなんです。ここに来るまでに艦長さん達に話し掛けてはみたのですが…)





聞き返してきた大和に対し、武蔵は少し寂しそうに応えた。


やはり話せる相手はいないというのは寂しいものがあるのだろう。



降臨当初の大和は、同じ境遇でありながら妙に明るかったことは忘れることにしよう。





(ふ〜ん、高柳艦長もきみの声が聞こえないみたいだし…)








(世の中複雑怪奇だね〜)





自分の存在が一番奇々怪々であることに気付いていないようだ。








「う〜む…それは不便だな。…しかし船魂が宿っただけ良しとするしかないか…」


大和から話を聞いた高柳艦長が一人唸る。





(僕と常に一緒に行動していれば問題ないよ♪)





大和の提案には欲望が丸見えであった。



「…とりあえず我々の声は聞こえるのであろう?それなら問題ない」


何となくそのやましさを感じ取った高柳艦長は大和の言葉を受け流す。





(え〜〜〜!!!反論を認めないなんて人権…じゃなかった船権侵害だ〜!!)





「…そんなもの知らん」


一刀両断であった。



この時代は人権の考えは薄い。


まして船権の考えは古今東西どこにもなかった。



「それにお前のように文句ばかり言われては叶わんからな…」





(シクシク…訴えてやる…)





無理だ。



「そんなことより大和、試しに動いてみるように武蔵に伝えてくれ」





(はいはい。わかりましたよ)





大和は意外にも、今度は素直に高柳艦長の言葉に従った。





(え〜と、武蔵さん。実際に動かしてみて欲しいというどっかのおじさんからの希望なのですが…)





が、案の上そんなことはなく、実に姑息な仕返しの仕方であった。





(嫌ですよね。そうですよね。わかりましたそう伝えましょう)





「勝手なことを言うな!」



ゲシ!ガン!


高柳艦長は思わず、目の前の機械を蹴りつける。





(へへ〜ん!それぐらい痛くないも〜ん!)





火に油どころか、ガソリンを注ぎ重油を継ぎ足すかのような発言であった。



ムカッ!


高柳艦長のこめかみに欠陥が浮かび上がる。



「貴様〜!」


「ちょ、落ち着いて下さい!艦長!」


さらに機械類への攻撃を行おうとした高柳艦長を慌てて副長が止める。



「え〜い!離せ!こいつには一度痛い目に合わせてやらんと気がすまん!」


高柳艦長はなんとか副長の拘束を解こうと暴れ続けた。



「気持ちはわかります!しかし…」


大和の声が聞こえない副長には、高柳艦長の気持ちはさっぱりわからない。



その後も「大和」艦橋では暴れる高柳艦長と、それを止めよとする副長をはじめとする人々の間で騒ぎは続いた。








(やれやれ、高柳艦長も子供なんだから…)





そんな騒ぎを傍目に、大和は高柳艦長が聞いたらさらに暴走しそうなことを呟いた。





(くすくす…仲がおよろしいのですね)





二人の会話を聞いていた武蔵が小さく笑い声を上げる。





(そう?まあ嫌いなタイプの人間じゃあないけどね)





武蔵にそう言われて、大和は照れ隠しの笑みを浮かべた。





(それじゃあ私はちょっと艦を動かしてみますね)



(あ、うん、ごめんね。お願いするよ)



(いえ、とんでもない…)





そう言うと、武蔵の姿が徐々に薄くなり、最終的には完全に姿を消した。





(あ、あれ??武蔵さんの姿が消えちゃったよ??)





突如消えた武蔵の姿に、大和が慌てて周囲を見回す。





(艦を動かすときは艦全体に意識を巡らさなければならないので姿を維持出来ないんです)





そんな大和を落ち着かせようとする武蔵の声が「武蔵」のどこからともなく発せられた。





(大和さんはそうじゃないんですか?)



(え?え〜と…(知らなかった…艦を動かさなければ姿が出せるんだ…))





武蔵に聞かれても、エセ船魂の大和はそんなこと知らない。





(ちょっとやってみよう…)





大和は意識を舷先のみに集中させ、自分の姿を思い浮かべる。





(集中、集中・・・)





暫くすると、「大和」の弦先に徐々に人影が現れ始めた。



















<次回予告>


2隻目の大和型戦艦にも船魂が宿った。


強力無比な2隻を揃えて挑む大作戦。


2隻に襲い掛かる無数の航空機。



遥かに見える島はハワイか、それとも・・・





次回!

「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第11話 遥かなる島」





太平洋の歴史がまた1ページ。





「その作戦はどうかと思うよ?」















〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


というわけで、さんからのリクエスト「愉快な大和君、戦場へ逝く 第11話」をお送りしました。



と誰かのリクエスト用に書いたのですが、他に更新する小説がないので載せちゃいました(笑)




武蔵の容姿や言葉遣いに関しては突込み無用です。



筆者も書いてて恥ずかしがっていますから(爆)



さてこれで大和型も2隻揃い、今後の活躍が期待されます。


次回をお楽しみに〜。











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