(・・・・・)





大和は1人遠くを眺めていた。


まるでその背後で交わされる会話から逃れるかのように。





(決まってないみたいですね)


(決まってないようです)


(決まってないのですね)


(ダメダメですね〜)





大和の立場は予想通り悪化していた。








「愉快な大和君、戦場を逝く(異伝)」



「第13話 作戦会議」








(さっき「金剛」が来たら話すって言ったのに決まってないっちゅ〜のは、どういう領分で?)





期待通りの返事が得られず、立場を悪化させてしまった大和が高柳艦長に絡む。



さすがはアルコールが無くても酔える男である。



「いや、言葉が足りなかったな。正確に言えばまだ最終決定していないんだ。直に連絡が入るはず・・・」


高柳艦長がそこまで言った時、1人の伝令がタイミング良く艦橋へと入って来た。



「艦長「赤城」より連絡です」


その一言、艦橋にいた全員の顔に緊張が走る。



「読め」


「はっ、『事態乙、作戦を開始せよ』です」


「そうか、乙か・・・」


通信内容を聞いた高柳艦長が残念そうに呟いた。


艦橋に詰めていた人達からも溜息が漏れる。



「とりあえず最低限の結果は残せたと、というとこですね」


「そうだな、もっともこちらの被害にもよるが・・・」





(お〜い、何の事かさっぱりわからんぞ〜)





深刻な表情で話をする高柳艦長と副長に、蚊帳の外に置かれていた大和が割って入った。



「ん、ああ、すまん。とりあえず作戦は決まったぞ」





(いや、作戦も聞きたいんだけど・・・事態乙って何?)





自分の欲望に素直な大和は、こういうときあっさりと興味を引く方に話題を持っていく。



「気になるか?」





(そりゃそうだよ。事態を正確に知っておかないと適切な判断を下せないからね)





「・・・・・」





(???)




大和の言葉を聞いた高柳艦長がなぜか黙りこくる。



「・・・貴様もまともな事が言えるんだな。驚いたぞ」





(あのね・・・そういうこと言うとグレルよ?)





高柳艦長の心底驚いたような口調に、大和が機嫌を損ねる。



しかし、グレた船魂というのも見てみたい。



「事態乙というのは事前に山本長官と決めておいた符号、合言葉みたいなものだ」





(ほうほう・・・)





高柳艦長の説明に、大和が聞き入る。



「符号は全部で甲、乙、丙の三つを決めておいたんだが・・・」





(ということは・・・ハワイ攻略成功、戦略的失敗、戦術的失敗の三つかな。さしずめ乙は戦略的失敗ってとこか・・・)





「なっ・・・」



自分の考えを披露する大和に、高柳艦長が驚きの声を上げた。





(まあ敵艦隊や真珠湾の基地を破壊出来ただけOKでしょ。下手に占領しちゃうと維持も大変だしね)





「・・・・・」





(・・・あれ?違った?)





1人考えを語っていた大和であったが、再び黙り込んでしまった高柳艦長を見て、不安を覚える。



「いや、ずばりだ。よくわかったな・・・」


高柳艦長は心底驚いていた。





(いや〜、これくらいは簡単だよ。わざわざ符号を作るなんて、山本長官が出向いていたハワイ沖海戦しかないしね。
真ん中に当たる乙で残念がるということは成功、小失敗、大失敗の三つに分けたってことでしょ)





正解したことに気を良くした大和が自慢気に語る。





(戦争屋が失敗を区別するなら、それは戦術的敗北、戦略的敗北だろうと予想はつくよ)





確かに、大して難しい推理ではない。


しかし・・・



「普段からそれぐらい頭の回転を早くしてくれ・・・」


普段大和で苦労している艦長からすれば、それは驚き以外何者でもなかった。



そんな高柳艦長の心の底から嘆願に





(それは無理)





大和は冷たかった。


そんな大和の言いように、最近慣れてきたとはいえ、高柳艦長も思わず頭を抱える。





(だいたい、8割ぐらい勘なんだもん)





なぜか大和は偉そうだった。


どうやらちゃんとわかって語っていたわけではないようだ。



「・・・もういい。とりあえず事態乙ということで、貴様には2つの選択肢が与えられた」


これ以上の会話は胃薬に活躍の場を与えるだけだと悟った高柳艦長は、話を元に戻す。





(2つ?なんでっしゃろ)





「これはわからんのか?」


大和を試すような聞き方であったが、





(ふっ、さっぱり)





やはり大和は大和であった。



「・・・1つ目はフィジー、サモア方面の制圧だ」


高柳艦長もさして期待していなかったようで、何事もなかったかのように話を続ける。





(南方ですか)





「理由を言う必要はないな」





(米豪遮断だね)





太平洋戦争において、オーストラリア大陸は南方戦線における連合国の一大反抗拠点となっていた。


そこで日本は、直接的にオーストラリア大陸を占領するのは極めて困難なため、主にフィジー、サモアなどの島々を占
領することによって、米本土からハワイを経由してオーストラリア大陸に流れる物資を阻止しようとしたのだ。


壮絶且つ悲惨な戦いで知られるガダルカナル島はフィジー諸島よりも手前に存在している。



ちなみに米豪遮断作戦はミッドウェイ海戦の前に1度行なわれていたが、そのときは戦力をあまり注ぎ込まなかったた
めに失敗に終っていた。



「もう1つはセイロン島の占領だ」


インド亜大陸の南方、現代では紅茶などで知られる島セイロン。


この頃セイロン島はイギリスの支配下にあり、商業港コロンボ、軍港トリンコマリーの2つの港を中心として英国東洋艦
隊の根拠地としてインド洋の制海権を睨んでいた。


なお、セイロン島方面へも1度攻撃が行なわれたのだが徹底さを欠いたものであり、インド洋におけるイギリスの制海
権を危うくするまでには行っていなかった。





(ふむふむ・・・)





大和は高柳艦長の話を一応真剣に聞いていたようだ。


そしてしばらく考え込んだ後、再び口を開いた。





(質問が3つあるんだけど・・・)





「なんだ?」





(攻略するだけの兵力はあるの?)





戦時体制に入り、日本の陸上兵力は100万を超える規模となっていた。


しかしその大半は中国大陸での戦いに注ぎ込まれ、陸上戦は島礁の奪い合い程度に限定されている太平洋地域に回
された兵力は思いのほか少ないのだ。


また陸軍と海軍の仲の悪さもあり、攻略における兵力を確保するだけでも大変であった。



「それは大丈夫だ。ハワイ攻略用に準備した兵力を使っていいとのことだからな」


高柳艦長の答えに、大和は大きく頷くと質問を続ける。


そこに普段のふざけた感じは見られなかった。



時折、本当に時折見せる真面目モードである。


いつも真面目モードでいられれば、高柳艦長の苦しみも解決するというのに。





(2つ目、占領したとして維持するだけの補給が出来るの?)





作戦案として上がっている両地とも、補給路の長さは補給が続くかず「餓島」と呼ばれたガダルカナルよりも長い。


大和はガダルカナル島への補給さえ満足の行なえなかった日本海軍の補給能力を心配しているのだ。



「それに関しては努力する、としか言えないな」


案の定、高柳艦長の返答も心もとないものであった。





(頼りないね)





「わかっている」


高柳艦長は言い訳する事無く、その事実を認めた。





(まあいいや)





高柳艦長の所為でも、また高柳艦長1人の力ではどうにもならないことは大和にも充分わかっている。


そのため、それ以上深く追求する事はなかった。





(んで3つめ。仮にセイロンに行くとして太平洋を空にしていいの?機動部隊は大きな被害を受けたんでしょ?)





わざわざ山本長官直々に出向いたハワイ攻略戦。


にも関わらずハワイ攻略を断念せざるを得なかったということは、連合艦隊の主力である空母戦力に大きな打撃を受
けたに他ならないだろう。


最悪、空母全滅と言う所まで考えられる。



「それは大丈夫だろう」


だが高柳艦長はそんな大和の不安を否定した。


「事態乙ということは少なくとも敵空母の全てを撃沈破しているはずだからな」





(でも戦艦は残ってるよ?)





「既に戦艦だけで攻める時代ではない、米国もそんな無謀な作戦は取らんさ」


高柳艦長の言葉は正しい。


確かにいまや戦いの帰趨を決めるのは航空機となっている。




しかし、その言葉を聞いた大和はどうしても言ってやりたくなった。





(僕らは空母無しで攻めさせられるんだけどな〜・・・)





「・・・・・」





(・・・・・)





「・・・質問は終わりだな」


残念ながら、大和の言葉に返事は返って来なかった。





(のわ!流された!?)





「そんなことより早く作戦を決めろ」


高柳艦長は冷たかった。





(本当に僕達で決めちゃっていいの?)





「不安は残るが・・・貴様らにヘソを曲げられんようにな」


高柳艦長の顔にも、ありありと不安が現れていた。



しかし、このことは山本長官直々の指示なのだ。


高柳艦長の通訳を通してしか、大和の言葉を聞けない山本長官には、大和のいい加減さが伝わっていない。


そのため、大和のいい面のみを見てしまい、現状に至るのだ。





(なるほど、んじゃみんなの意見を聞いてくるね〜)





(どうかまともな判断をしてくれ。頼むぞ「金剛」、「陸奥」、「利根」、「神通」・・・)


高柳艦長はポケットから取り出した胃薬を握り締めながら、切にそう願った。







(・・・というわけらしいのですが、どう思います?)





1通り事態を説明し終わった後、大和は4隻に問い掛けた。





(私は米豪遮断を押しますね)





4隻の中で金剛が真っ先に意見を述べ始めた。





(この時期豪州を脱落させられれば、この先かなり戦線を整理できますから)



(ふむふむ、なるほど)





もっともな考えに大和は頷く。





(私はセイロン方面へ行きたいです)





続いて意見を述べたのは陸奥であった。





(何故ですか?)



(インド洋を押えられればアジア地域から流れる英国への補給をかなり制限出来ます。それに、今の時期ならまだドイ
ツのアフリカ軍団を助けられるんじゃないかと思います)



(にゃるほど。利根さんはどう思います?)





2つの意見が出されたため、大和は別の意見も聞いてみようと思い、話を利根に振る。


案外司会が得意なのかもしれない。





(ここは思い切ってハワイに向かい真珠湾を無力化するのはどうでしょう?)



(ハワイですか!?)





利根から出された大胆な意見に、さすがの大和も驚きを隔せない。


もっとも、この男が感情を隠すということもまずないのだが。





(ええ、稼動できる米空母はゼロ。陸上機も叩けているのなら敵は水上艦のみ。エセックス級空母がワンサと出てくる
前に真珠湾を叩く…)





高柳艦長の言葉が事実としても、そこは大国アメリカ。


新型空母の大量生産は既に始まっている。





(占領は無理でも、真珠湾を封鎖出来れば後の戦いが楽になると思うんです。それに南方へ行ってもインド洋へ行って
も、その間に太平洋艦隊の残存兵力にうろちょろされてはたまらないでしょう)



(しかし、いくら航空機を撃破したとは言っても敵の回復も早いですよ。ここからじゃ僕らの足でもハワイまで・・・)





危険が多そうな作戦案に、さすがに大和も慎重論を持ち出す。





(ハワイまで・・・ハワイまで・・・)





知らないらしい。





(約5日ですね)





見かねた陸奥が救いの手を差し延ばす。


参謀役が板に付いてきた。





(5日あれば、空港は直されますね。それに、ハワイにはまだ戦艦が多数残っているみたいですが・・・)



(だからこそですよ。敵の主力は旧式戦艦群…我々の速力なら敵の攻撃をかわしつつ損害を与える事も可能でしょう。
ヒット・アンド・アウェイを繰り返して太平洋艦隊の戦艦群も壊滅させる…不可能ではないと思うんですが)



(う〜ん、なるほど。そう考えると、結構面白そうな作戦ですね)





派手な戦いが行なわれそうだと知ると、途端大和は考えを変える。


高柳艦長の不安がわからないでもない。





(神通さんはどう思います?)





利根の意見が一息ついた間を見計って、大和はそれまで沈黙を守っていた神通に問い掛けた。





(そうですね・・・私も米豪遮断を押します)



(なぜ?)



(豪州を叩ければ敵潜水艦の前線基地をかなり叩けるはずです。南方からしっかりと物資が入ってくれば帝国はまだ
闘える!!)





幸いな事に、大和とともに和を乱しそうな存在である神通も、ここでは真面目モードであった。





(ふ〜む・・・結構割れましたね。どうしようっかな〜)





1通り全員の意見を聞き終わった大和は少し考え込む。





(やまとさんご自身はどうお考えですかな?)



(僕?僕は・・・)





大日本帝国の、戦争の趨勢を決しかねない作戦の選択を前に、大和はさらに深く考え込んだ。





(よし、決めた☆)





と思ったらすぐ答えを出した。





(どうしたいんですか?)



(米豪遮断を目指しましょう)



((((何故?))))





声を揃えて聞き返した一同に大和は胸を張って答える。





(多数決です!!)



((((・・・は?))))





4隻の目は点になった。



やはり目が何処にあるのか気になる。





(いや〜、やっぱこの時期の日本も民主国家なわけだし、多数決じゃないとマズイよね〜)



((((そ、そんな簡単に決めていいんですか?))))



(いいじゃないですか)





何とか気を取り直した4隻に対して、大和はあっさりと答えた。


真面目モードは終了したようだ。





(それに・・・)



((((それに?))))





何かまともな意見が追加されると期待する4隻であったが





(南の海はきっと綺麗ですよ〜♪)





当然の如く、無駄な機体であった。





((((・・・こ、この人に付いて行っていいのだろうか・・・))))





そして4隻は早くも自分達の決断を後悔し始めるのであった。





















<次回予告>


こうして、次の作戦は決定された。


海が綺麗という理由だけで・・・



目指すは米豪遮断!



「菊水艦隊」の矛先がいよいよ米軍へと向けられる。







次回!

「愉快な大和君、戦場を逝く(異伝)」


「第14話 初陣」





皇国の歴史がまた1ページ。







(なんか鬱陶しい〜)
 

















〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


わ〜い☆今回は早かったぞ〜。


いつもこのぐらい早ければ・・・



作戦も決まり、ようやく戦いです。


仮想「戦記」ですから、戦いです。



次の更新がいつになるかわかりませんが(笑)




それでは次回お会いしましょう〜。








 
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