「結果が出ました」


「大和」艦橋では真剣な表情で司令部の人間が机を囲っていた。


皆、今入って来たばかりの報告に注意を向ける。



「先ほど襲来したのは一航戦、二航戦、及び五航戦の爆撃機54機、雷撃機54機の計108機」


大和の戦闘能力が明確に数字となって現されようとしていた。







「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第13話 確執」






既にお分かりの通り、先ほどの戦いは訓練である。


今後の戦いに於いて対空戦闘が重要になるのを見越し、ちょうど航空隊を編成し直したばかりで対艦訓練が必要であ
った機動部隊との模擬戦が行われていたのだ。


もちろん大和と武蔵も放った対空砲火は模擬弾であり、航空機の放った魚雷、爆弾も偽者である。




ちなみに、一航戦には空母赤城と加賀が、二航戦には飛龍、蒼龍が、五航戦には瑞鶴、翔鶴が在籍している。


正規空母6隻。


この当時、技量、規模ともに世界最強を誇る、日本海軍の主力であった。




「観測員、及び機動部隊から送られて来た報告によりますと、投弾前撃墜判定27、投弾後撃墜判定19、大破、中破
機39、再出撃可能と見られる機体は30機前後とのことです」

「むぅ…」


報告を聞いた高柳艦長が感嘆とも取れる唸り声を上げる。



「一度の攻撃で敵航空戦力の7割を削ったというのか…」


この時代、対空砲火という物は「上手な対空砲数撃ちゃ当たる、下手な対空砲火数撃っても当たらない」と言われるほ
ど水上艦と航空機の戦いは航空機側が有利であった。


それが7割の損害を与えるとは、誤差に1割程度を考えたとしても、あまりに常識外れな結果であった。



「それで被弾は魚雷1に爆弾1か…想像以上の結果だな」


「それも全機に投弾させて、ですからね」


高柳艦長の言葉を副長が補う。


今回の訓練では、大和と武蔵の回避能力を見るために、被弾したと認定された機体にも投弾させている。


つまり、本来であれば全ての攻撃を回避しきった可能性もあるのだ。



「先ほどの結果とも合わせて考えますと、「大和」及び「武蔵」の撃沈には最低でも航空機が2500機は欲しいと思われ
ます」


大和型戦艦は左右同数ならば計10本の魚雷を受けても沈まないとされる。


つまり2隻合わせて30本は命中させなければならないのだ。



108機が襲来して魚雷1なのであるから単純に計算すれば30倍、およそ3000機となるのだが、被弾するごとに戦闘
能力は落ち、回避もし辛くなる。


その分と投弾前撃墜の分とを相殺するなどして出された結論が2500という数字である。


もっとも、これはあくまで2隻を「沈める」のに必要な数であり、単に戦闘能力を奪うだけならより少ない数でも事足りる。



「その結果1000機近くを失い、700機余りが修理を要すると言うのか…」


それは物量に関しては想像を絶する国、アメリカを持ってしても軽視しうる数ではなかった。



「想像以上の能力ですね」


艦橋にいたうちの一人が半ば無意識にこぼす。



「ああ、まさに今次大戦の切り札となりうるな」


「大和」と「武蔵」の余りに強力な能力に畏怖すら感じていた人々の表情も、高柳艦長のその言葉を契機に明るさを取り
戻す。


味方でいる限り、これほど頼もしい戦力はないだろう。





(だったら輸送なんてやらせないでよ…)





艦橋での会話に、大和がタイミングよく割り込んで来た。



「なんだ、聞いていたのか」





(半分ぐらいね)





「ご苦労だったな。貴様の能力はよくわかった」


訓練結果に満足したのか、珍しく高柳艦長から素直に誉め言葉が大和に向かって投げ掛けられた。





(そうそう、そのことで武蔵さんから疑問があるんだけど)





「疑問?どんなことだ?」





(魚雷や爆弾ってあんなもんなの?)





「何が言いたい?」





(なんか魚雷が遅かったり、爆弾が風の影響をかなり受けてた気がするんだけど…)





先ほどの戦いを思い出しながら、大和は言った。


当たると思った魚雷が突如速度を落としたり、折角避けたと思った爆弾が風に流され、あわやと場面があったのだ。



「あくまで模擬弾だからな。それは仕方ない」





(それじゃあ意味ないじゃん)





さも当然とばかりに言う高柳艦長に大和は呆れる。



しかし、実際問題本物の爆弾と同じ質量の物体を使えば、火薬が無いとしても、艦にそれなりの被害が出る。


ハワイでの決戦を前にして、味方同士でわざわざそんな危険を冒す必要はない、と言うよりも出来ない。



「しかし、本物を使うわけにはいかんからな。その辺は後で考えに入れて結論を出す」





(ふ〜ん、まあ難しいことは僕にはわからないからいいや)





それだけ言うと、大和は再び武蔵とのどかな会話を交わしながらの航行へと戻っていった。


武蔵は気になったとはいえ、大和からすればさして興味を惹くものではなかったのだろう。



言葉通り、難しい話が苦手なだけかもしれないが。









(大和さん、また航空機が来ました)



(あれ?ほんとだ。懲りない人達だね〜)






それからしばらくして、両艦からおよそ50キロの地点に武蔵が三度航空機の編隊を見つけた。


大和も意識をそちらに向けるが、過去2度の実績からか態度に随分と余裕が溢れている。





「これが本番だ」


そんな大和の態度に釘を刺すような鋭い声が艦橋から響いた。


見ると高柳艦長が先ほどまで以上に真剣な目で見えてきた航空機を見つめている。





(え〜、そうなの〜?)





大和はそんな高柳艦長の態度を気にする事無く、気の向くままに不満を漏らした。



今までの2回は一体何だったんだ。


口に出さずとも態度がそう語っている。



ところで、大和の口はどこなのだろうか?



「今回の訓練に限っては一発の被弾を出す事も許されん」


高柳艦長はそんな大和をあっさりと突き放し、変わらず厳しい口調で言い放つ。


大和の油断を感じ取っているのだろう。





(なんか突然厳しいね。何か僕らに隠していることがあったりして)





そんな高柳艦長を見て、茶化すつもりで言った大和の言葉に



「・・・細かいことは気にするな」


高柳艦長は諸に反応していた。



嘘のつけない人物である。





(って本当に裏があるのね・・・)





本当にあると思っていなかった裏事情の発覚に大和は大きくうな垂れる。


利用される側というのは辛いものなのだ。


世の中世知辛い。



「と、とにかく今度の攻撃を全て避けることが出来なければ・・・」


あっさりと秘密事を看破されてしまった高柳艦長が慌てて取り繕おうと試みる。






(れば?)





「今次大戦に我が国は敗れるかもしれない」


慌てている割には、発言内容は極めて重大な事態だった。





(え〜〜!!そんな重要なことなの!?)





戦争の趨勢に関わるとまで言われれば、さすがに大和の態度からもふざけた感じはなくなっていく。



「それに私の人生が・・・」


高柳艦長は誰にも聞かれないように小声で呟くが





(・・・は?高柳艦長の人生?)





大和は地獄耳であった。



「ん、いや何でもない」


高柳艦長はわざとらしく、咳払いなどをして見せるが





(怪しいな〜)





興味を持ってしまった大和のには、全く無駄であった。



「と、とにかく、一発の被弾も許されないのだ!」


疑惑を解こうと強い口調で話を戻そうとするが、その態度は余りにも怪しかった。



嘘の付けない人物である。





(でもさ〜、そんな大事な事なら理由を教えてよ)





「今回の攻撃を全て避けたらな」


高柳艦長はそう大和の追求をかわすと、



「というわえで、頼んだぞ」


そういうとあっさり大和に後を任せ、観戦に回ってしまった。


無責任にも見えるが、結局大和がやるしかない以上、当然のようにも思える。





(う〜む、物凄く気になるけど・・・重要なことらしいから頑張らないとね〜)





大和は自分に1つ気合を入れると、





(行くよ、武蔵さん!)



(はい!)





武蔵にも一声掛け、戦意を高める。



もっとも、武蔵は最初から真面目なので、あまりその必要性は感じない。





そのような会話が交わされている間にも航空機の編隊が近付いてきており、機影もはっきり見えるようになっていた。


今までも大差無い、100機余りの編制である。





(・・・ん?)





全ての攻撃を避け切ろうと集中して編隊の動きを見つめていた大和がふと声を挙げる。





(なんかさっきまでと違う機体ばっかりだよね)





近付いてくる編隊の最前列には数機の零戦が位置していたが、その後方には大和が見たことの無い機体が飛んでい
た。





(あれは・・・97式重爆に99式襲撃機・・・99式双発軽爆までありますね)





当然の如く、見ただけでは機種を見分けられない大和に変わって、武蔵が解説を入れる。





(ということは、あれって陸軍航空隊?なんで陸軍がこんな所にまで出張って来るの?)





大和の記憶では、この時期陸軍航空隊は中国戦線を除けばあまり活発な行動を見せていなかったはずである。


失われた搭乗員や機体補充が中々追いついていなかったのだ。



それが、専門外の海に出張ってきているのである。





(さあ?私もそこまでは・・・)





大和のみならず、武蔵もこの事態には困惑していた。





(でも「呑龍」までいますから本気みたいですね)



(100式重爆「呑龍」!完成していたの?)





驚いているように見せて、実のところ大和得意のパクリである。


というよりも、大和には「呑龍」がいることの意味もよくわかっていなかった。



陸軍航空隊の最新鋭機「呑龍」。


完成後も様々な不具合が見つかり、この時期はようやく最初の機体が前線に送られ始めた頃である。


それをこの場所に投入してくるということは、陸軍航空隊がかなり本気である事を示している。





(まいっか。敵が陸軍なら楽勝だよ)





しかし、相手が陸軍航空隊と知った大和は、楽天的な考えに戻っていた。




何と言っても戦争は専門職と言うものがものを言ってくる。


船乗りは船に乗り、戦闘機は敵戦闘機と戦い、雷撃機は敵艦船を雷撃する。



そして、陸軍航空隊は陸上の敵を攻撃するのだ。


その陸軍航空隊が海上の艦船を攻撃するのは確かにかなり無理と言える。


動かない陸上基地と動き回る艦船。


いかに大和が「巨大」と言えど陸上基地であれば優に数キロの規模を持つ。



陸軍航空隊が純粋な技量では海軍航空隊に劣るわけではないとは言え、やはり立つ舞台を間違えているとしか言えな
い。





(大和さん、あまり舐めて掛かるのは・・・)



(さあ来い陸軍め!僕の身体に指1本触れられると思うなよ〜!!)





あまりに陸軍航空隊を舐めきっている大和を武蔵が窘めようとするが、大和は案の定聞いちゃいなかった。




海軍の主力艦を攻撃する陸軍。


普段仲が悪いとされる両者の確執か。



戦う理由がわからないまま、大和は戦いに挑もうとしていた。





もっとも、当の大和はそんなこと気にしてはいないのだが。



















<次回予告>


襲い掛かる陸軍機。


立ち向かうは海軍の至宝「大和型」戦艦。


暗躍する高柳艦長。



一体この事態にはどんな裏が隠されているのだろうか?





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第14話 VS陸軍航空隊」





太平洋の歴史がまた1ページ。





(そんな理由かよ!)











〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうもやまとで御座います。


え〜と、う〜んと、何か書いても書いても話が進まないな(汗)



とりあえず、陸軍航空隊の編制とかへの突っ込みは勘弁してください。


私自身、何で出しちゃったのかもよくわかっていない(滝汗)






と、とにかくまた次回お会いする事にしましょう〜。







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