陸軍航空隊との戦いの直後、時機を窺っていたらしい敵潜水艦から雷撃を受けた「大和」。


何とか無事に回避し切った大和は、それで浮かれてしまい、大事なことを忘れてしまったことに気付いていなかった。







(一体どういうことか説明してくりゃ!)







「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第16話 真実」






そんなわけで大和は高柳艦長を問い詰めているのだ。



「な、なんだ突然!?」


今後の航路を副長達と話し合っていた高柳艦長は、突然の大声に驚いて上を見上げる。



今度は、その高柳艦長の声に驚いて副長達が高柳艦長の方を見るが、すぐにどうせいつものことだと机上の海図へと
視線を戻した。





(だ〜か〜ら〜!ちゃんと説明してってば!)





「相変わらずいきなりな奴だな・・・それで?何を聞きたいんだ?」


一向に要領を得ない大和の言葉に、高柳艦長は呆れたように溜息を突く。





(だから〜、陸軍航空隊と戦う羽目になった理由だよ!)





「・・・何だそのことか(くっ、余計なことを思い出すんじゃない!)」



本音を隠しつつ受け答えするものの、動揺は抑えきれず高柳艦長のこめかみを汗が伝う。





(こっちはかなり苦労したんだからね!ちゃ〜んと、納得の行く理由を聞かせてもらおうじゃないの)





「陸軍航空隊との戦い自体は楽だっただろ・・・」


腕まくりをしてそうな勢いで詰め寄る大和に、高柳艦長は一言突っ込もうとしたが思い止まった。



(考えて見れば、あの時簡単に勝ち過ぎたせいで現在の状況にあるわけか)


高柳艦長の脳裏に、ボルネオ出航直前に送られて来た一通の電文が過ぎる。





(さあ!さあ!さあさあさあ!!)





その後の自分に大きな影響を与えるその電文の存在など露知らない大和は、一気に高柳艦長を追い立てた。



「ふぅ、わかったわかった。教えてやるから静かにしろ」


とりあえず、目の前の大和を何とかする必要性に迫られた高柳艦長は、大和にそう告げ



(さて、どう言うべきか・・・)


同時に、頭の中では高速で言葉の吟味を行なう。



(さすがに全部正直に言っては私の立場が・・・というか下手すりゃ軍を辞めなきゃならんからな)



原因となった自分の行動を思い出しながら、高柳艦長は頭を悩ませるのであった。








〜〜〜およそ1ヶ月前〜〜〜



「おや、これは高柳少将」


「あ、これはどうも」


高柳艦長は東京のとある場所で、偶然陸軍高官と遭遇していた。


とはいえ、海軍と陸軍という違いか、それほど親しくない相手ではない。



しかし、一礼して脇を通り抜けようとした高柳艦長に対し、意外なことに相手の方から話し掛けて来た。



「そう言えば・・・聞きましたよ」


「・・・は?何の事でしょうか?」


話し掛けられると思っていなかった高柳艦長は少し驚きを見せるが、相手に失礼が無いように姿勢を正す。



何しろ相手は陸軍でもかなりの高官。


南方方面の陸軍航空隊に大きな影響力を持っている人物である。


怒らせて得は無い。



「いやほら、高柳少将の乗艦の「大和」のことですよ」


「・・・「大和」がどうかしましたか?」


見るもの全てに不快感を催させるようなその高官の笑みに、高柳艦長は何やら怪しい雲行きを感じていた。



「何でもミッドウェイ攻略の途中で、逃げ出してきたそうじゃないですか」



間違っている、それは違う!


そう怒鳴りつけたいところではあるが、事情を知らない者から見ればそう見えても仕方ない。



連合艦隊の旗艦が、一大作戦の途中で単艦帰還するなどあってはならないことなのだ。



「いえ、あれには事情がありまして・・・」


万が一にも最高機密である船魂の存在がばれてはならない。


言いたいことを色々抑えながら、高柳艦長はそれだけ言うに留めた。



「おお、そうでしたか。私はてっきり「大和」の役立たずさに海軍が気付いたのかと思いましたよ」


ピクッ!


高柳艦長のこめかみにはっきりと血管が浮かび上がる。



「それはどういう意味でしょうか?」


「おっと!これは少し言葉が過ぎたようですな。連戦連勝の連合艦隊の旗艦が役立たずなはずありませんもんな」


ますます嫌な笑みを浮かべる高官に、高柳艦長の血圧はどんどん上がっていく。


それでも、ここで取り乱すほど子供ではない。



(落ち着け!落ち着くんだ私!所詮は大して活躍出来ない陸軍の僻みに過ぎん!!)


そう自分に言い聞かせながら、抑揚を抑えた声で高官の相手を続ける。



「もちろんです。今後を睨み、一刻も早く「大和」の改装に掛かるために一足早く帰還しただけですから」


「ほう、航空機が主役の今の戦いで戦艦如きが役に立つとも思えませんが・・・まあ頑張って下さいよ」


パキンッ!


高柳艦長の心の一部が折れる音がした。


何とも脆い堪忍袋である。



(役立たずだと!?我々砲術屋が今までどれだけ厳しい訓練を積んで来たと思っているんだ!!)


どうやら、長年砲術畑を歩いて来た高柳艦長には「航空機が主役」というのは禁句だったようだ。


高柳艦長はほんの数瞬考え込むと、陸軍高官に劣らぬ笑みを浮かべ言葉を返した。



「ええ、任せてください。支那で忙しい陸軍の手を煩わせるわけにはいきませんから」


ピクッ!


今度は陸軍高官のこめかみに血管が浮かび上がる。



言外に「対米戦で陸軍は役立たず」と言われているようなものである。



「た、高柳少将も大陸に行かれたらどうですか?航空機の攻撃ですぐに沈むような戦艦に乗っているより安全だと思い
ますよ」


ピクッピクッ!!


高柳艦長の口が引き攣る。



「お、お心遣い感謝します。しかし、陸軍に守ってもらうよりも「大和」艦内の方が安全ですから」


ピクッピクッ!!


陸軍高官の口も引き攣る。



「そ、そうですか。それでは我が航空隊に誤って「大和」を攻撃しないように厳重に言っておきことにしますよ。沈めちゃ
悪いですからな」


(けっ、「大和」何てその気になればいつでも沈めてやるのに!)




〜〜(注)これより、副音声付でお楽しみください〜〜




「そんなに心配して頂かなくても大丈夫だと思います。「大和」はそれほど柔じゃありませんから」


(陸軍如きに「大和」を沈められるものか!改装さえ終れば指1本触れられまい!!)




「それはそれは、味方として頼もしい限りですな」


(おのれ図に乗りおって!誤爆ってことで本当に沈めちゃろか!!・・・ん?そうだ!)




「どうです、高柳少将。1度「大和」と我が航空隊で模擬訓練をしてみようじゃありませんか」


(くっくっく・・・模擬爆弾に「馬鹿」、「アホ」と書いて落としてやる!)




「模擬訓練ですか?いい考えですねぇ、丁度「大和」は改装後南方に行く予定ですから、その時にでも是非」


(面白い!戦艦の強さを思い知らせてやる!)




「おや、今更「大和」が南方に行ってどうするんでしょうかねぇ?」


(ふっ、役立たずは左遷でもされるんだろ)




「そ、それは・・・」


(しまった!つい調子に乗って喋ってしまった!何とか誤魔化さないと・・・おっ、そうだ!)




「そうですね、陸軍が隠している南方の石油でも奪いに行きますか」


(陸軍の航空隊如きに石油を独占させるなんて、無駄しやがって!)




「なっ・・・それは・・・」


(馬鹿言ってんじゃねぇ!海軍如きに渡せるか!)




「まあ、無理にとは申しませんが・・・どうせ「大和」に一発も当てられない陸軍航空隊に使うよりはいいと思いまして」


(海の上も飛べないような連中にあの石油は勿体無い!寄越せ!)




「ほ、ほほ〜ぅ。これは大きく出ましたな。よろしい、我が航空隊が「大和」に一発も当てられなかったら石油を分けて差
し上げよう」


(わ、私の航空隊を無能呼ばわりするとは!許せん!!)




「よろしいんですか?簡単にそんな約束をされても」


(これは棚ぼた!根こそぎ石油を奪ってやる!)




「その代わり・・・我が航空隊が命中弾を出したときは・・・そうだ、「大和」を陸軍に頂きましょうかね」


(まあ、何の役にも立たないが・・・輸送船ぐらいには使ってやるよ!)




「や、「大和」を!?そ、それは・・・」


(アホか、この耄碌じじい!そんな真似出来るわけないじゃないか!!)




「おっと、これは失礼。結果の分かっている賭けに「大和」は賭けられませんよね」


(さあ、認めろ!「大和」如きが我が航空隊の敵でないことを!!)




「そ、そんなことは言ってません!いいでしょう、命中弾が出た場合は「大和」を差し上げましょう」


(けっ、どうせ当たるわけがないからな!)




「おや?無理にとは言いませんから、今からでも撤回されたほうがいいのでは?」


(とち狂いおって!この若造が!!)




「いや結構!正々堂々勝負しましょう」


(こっちとら九州男児よ!1度口に出したことを引っ込められっか!!)




「それでは・・・」


(ぶちのめす!)




「南方で・・・」


(ぶちのめす!)




「「勝負!!」」


((ぶちのめす!!))





そこで2人が分かれてから暫しの時の流れ。


路地裏に1人の男の絶叫が木霊した。





「やっちまったぁ〜〜!!!」












(い、言えない・・・)



記憶の海から戻ってきた高柳艦長は、こめかみ、背筋と言わず身体中から冷や汗が流れ出るのを隠すことが出来な
かった。



もしも、「大和」が陸軍航空隊の攻撃で被弾していたら・・・


さすがに「大和」を陸軍に取られる事はないだろうが、自分が無事で済むとは思えない。



(まあ過ぎたことはさておき、今はどうやってこの場を誤魔化すか、だ)


過去のことは忘れることにしたようだ。


案外いい性格をしている。



ひょっとしたら、そんな所が大和の声を聞ける理由かもしれない。



「いや、あれはだな・・・」





(あれは?)





「陸軍が「大和」のことを無能呼ばわりするので、身をもって「大和」の強さを教えてやることにしたんだ」


高柳艦長は慎重に言葉を選ぶと、迫る大和に言った。



(よし、これなら嘘は言っていないはずだ)


セコイ。





(う〜ん・・・)





しかし、大和はどこか腑に落ちないでいた。



「どうした?」





(いや、それなら理由は通るんだけど・・・)





「ではいいじゃないか」


少しでも早くこの話題から離れたい高柳艦長は、強引に話を打ち切ろうとするが





(でもさ〜、それじゃあ別に被弾した所でこの戦争の趨勢に影響を与えるとは思わないんだけど・・・)





「む・・・いや、それは・・・」


大和の指摘に、堪らず口篭った。



(ちっ、こんなときばかり鋭くならなくてもいいのに!!)


何だか、悪役街道まっしぐらである。





(・・・まだ何か隠してない?)





そんな高柳艦長に対し、大和の追及は止まない。


「いや、だからだな・・え〜と・・・それはその・・・」



(頑張れ私!何としてもこの場を切り抜けるんだ!)


しかし、持ち主の必死な願いにも関わらず、高柳艦長の頭脳は満足な解決策を示せなかった。





(とっとと、吐かんか〜〜!!)





大和の追求が厳しさを増す。



「くっ・・・」


(何とか!何とか誤魔化さなくては!!)


高柳艦長の額に、汗がびっしりと浮かぶ。



そんな崖っぷち状態であった高柳艦長に、意外なところから救いの神が現れた。



「あの、艦長・・・」


「んっ?ど、どうした副長?」



高柳艦長は物凄い勢いで、副長の方へと向き直る。


この話題から離れたかった高柳艦長にとっては、まさに救いの神である。





(こら〜!逃げるな〜!!)





という大和の追求も、自分にしか聞こえない事をいいことに、完全に無視である。



「お話中でしたか?」


自分には聞こえない声と話中というのも妙なもんだな、そんなことを思いながらも副長は一応気を使う。



「いや、ちょうど終ったところだ。それよりどうした?」





(勝手に終らすな〜!!)





無視である。



「そろそろ例のものが始まると思われます。準備の方を・・・」


「ん?ああ、もうそんな時間か。わかった」


副長の言葉に、高柳艦長が頷く。





(例のもの?なんじゃそりゃ)





しかし、大和には何の話だかさっぱりついていけなかった。


こうなると大和は先ほどまでの件はさっぱり忘れ、こっちの方に興味を奪われていく。



単純な男・・・船魂である。



「ああ、そうか。貴様にはまだ伝えていなかったな」


高柳艦長がようやくそのことに気がついた。



「え?まだ大和に伝えていなかったんですか?」


傍で高柳艦長の言葉を聞いていた副長が、驚きの声をあげる。



「ま、まあな。大和の奴が下らない話で時間を潰すものだから・・・」


決まり悪そうに言う高柳艦長に





(下らない話じゃな〜い!!)





と、大和が猛烈な抗議をするのだから、当然無視である。



「まあ、どうせ準備に時間がかかるわけでもない。今から伝えておけば大丈夫だろ」



そんな高柳艦長に副長が、そして





(絶対後で聞き出してやる!・・・でも例のものってなんだろう?)





怒っているのかどうか、よくわからない大和に対して武蔵がほぼ同時に声を掛けた。


「・・・いえ・・・遅いと思います」





(あの大和さん、あの航空機は何なのでしょうか?)





そして、それに対する反応も高柳艦長と大和でほぼ同時であった。



「(・・・えっ!?)」



そう叫び、慌てて外を見やる高柳艦長と、武蔵と同じ方向に視線をやる大和の両者の視界には



「も、もう来たのか・・・」





(な、なんでまた〜!?)





大量の航空機がバッチリと入り込んできていた。





(な、な、何でこんなところに航空機が・・・)





「お、落ち着け!これも訓練の一環だ!」


パニくるやまとを、これまた慌てた様子が隠せないままの高柳艦長が懸命に落ち着ける。





(く、訓練?)





そう言われ、少しだけ落ち着いた大和が航空機をよく見てみると、確かに見覚えのある機体ばかりであった。





(あれ?でも海軍機と陸軍機が混じってるような・・・)





「そうだ」


大和の疑問に、高柳艦長が頷く。



「往路で行われた訓練で完敗した海軍航空隊と陸軍航空隊が合同で「大和」に趣返しをしようということらしい」





(・・・はっ?)





高柳艦長の実に簡潔な説明に、大和は一瞬理解する事が出来なかった。





(お、趣返しって・・・ハワイ沖攻略戦を控えたこの大事な時に一体何を・・・)





常識知らずで鳴らす大和も、さすがにこの事態には呆れたようだ。



ちなみに、そんな大和の言葉を傍らで聞いていた武蔵は





(なるほど。陸海合同のあの編制はそういう訳だったのですね)





と、一人合点すると共に





(これも軍人としてのプライドというものなのでしょうか・・・)





やはり航空隊の面々の思考を完全に理解することは出来ないでいた。



人の意地は時として理性を超越するものである。




「俺も驚いた。まったく、下らない話だよ」


高柳艦長も、大和の意見に珍しく心から同意していた。



「だから遠慮はいらん。連中の下らない考えを完膚なきまでに叩き潰してやれ!」


力強く言い切った高柳艦長の言葉を聞いていた副長が怪訝そうな表情を浮かべるが





(おっしゃ〜!任せとけ!ギタンギタンにしてやるっす!)





大和は全く気付く事無く、気勢を上げた。



が、高柳艦長の言葉を聞いた副長と同様に、大和の言葉を聞いた武蔵もまた困惑したような表情を浮かべる。


そしてその両者は再び、ほぼ同時に高柳艦長と大和それぞれに対して言葉を掛けた。



「あの・・・艦長?」





(・・・今の私達では戦えませんよ?)





「(・・・えっ?)」


そして、言葉を掛けられた両者は再び同じような反応をするのだった。



「現在の「大和」、「武蔵」両艦は甲板の隅々から砲塔の上に至るまで、隙間無く貨物を搭載しております」





(それに、艦内にも高々と積まれているので、あまり急激な動きも避けないといけませんし・・・)





「・・・・・」





(・・・・・)





ハッとしたように、お互いに顔(?)を見合わせる大和と高柳艦長。


どうやらそのことに全く考えが及んでいなかったようだ。



「な、なんで・・・」





(こんな時に!?)





そんな両者を見て、副長と武蔵は揃って軽く溜息をつくと



「こんな時だからこそ・・・」





(・・・趣返しをしようとするんだと思います)





冷酷とも言える現実を突きつけた。



「・・・・・」





(・・・・・)





「・・・・・」





(・・・・・)





「(ど・・・)」








「ドチキショ〜!!)」←大きく








大和はさておき、高柳艦長が本当に優秀なのか、疑われ始めたのは言うまでもなかった。



















<次回予告>


満身創痍な状況で航空隊を迎え撃つ「大和」。


元々の原因を作った高柳艦長。


両者のお目付け役と貸している「武蔵」と副長。



高柳艦長の大和化が進む中、大和は最大の挫折を味わおうとしていた!





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第17話 据え物斬り」





太平洋の歴史がまた1ページ。





(こんなのやってられるか〜!!)











〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうもやまとで御座います。


どうせいつも3話ずつ公開するのなら、いっそのこと1話に統一すればいい気もする今日この頃です(笑)



む〜、何かどんどん高柳艦長が大和に馴染んでいくな〜。


大和のお守り役だったはずなのに・・・



ま、まあ気にしないでおきましょう(汗)



それではまた次回お会いしましょう〜。









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