ドン!


ガン!





(・・・・・)





ガキン!



ガガコン!





(・・・・・)





バン!


ガツン!





(・・・・・)











(くそ〜〜!痛くはないけどムカツクゥゥ〜〜!!)











「愉快な大和君、戦場を逝く」



「第17話 据え物斬り」








「いや〜、やりましたね隊長」


「へっ、当たり前よ。今時戦艦如きが航空機に勝てるわけないっちゅうもんよ!」





「大和」と「武蔵」に思う存分多数の命中弾を与え、憂さを十二分に晴らした航空隊の面々が晴々とした面持ちで帰還し
て行く。



それに引き換え、「大和」、「武蔵」両艦の乗組員は総じて無言であった。



「な、何も出来ないことがこれほどに辛いとは・・・」


机に伏した状態で、高柳艦長が搾り出すようにして声に出す。





(あ、あいつら今度は実弾で落としてやる・・・)





なにやら怖いことを言いながらも、大和もうな垂れていた。


思えばこれは「大和」が完成して以来、初めて味わった敗北感である。



確かに海戦の主力は既に航空機へと移り変わった。


それでも「大和」が航空機如きに負けるとは思っていなかった。



前代未聞の船魂という存在は、その思いをさらに確固たるものにしていた。


実際、ミッドウェイの時にも一発被弾したものの、特に被害も無く数機の航空機を落としている。


往路での訓練でも快勝だった。



航空機万世の時代は終わり、再び戦艦が海の覇者となる時代がやって来た。


乗組員一同そう信じていた。



それが今回の一戦である。


所詮訓練と言えばその通りであるし、そうでないにしても今回は「大和」に取って不利な状況過ぎた。



対空砲も無く、急すぎる機動も禁止。


一方的に命中させられるのも、当然と言える。



が、それでも悔しい。


特に、軍人としての訓練を積んでいるわけではないため、感情面が強い大和にとっては歯軋りせんばかりの屈辱であ
る。


「夜な夜な「大和」艦内で歯軋りする音が聞こえる」などという噂が広まらないことを祈ろう。



「ま、まあ過ぎたことを言っても仕方ない。今度のことは教訓として受け止めよう」


高柳艦長は自分に言い聞かせるようにしながら、何とか身体を起こす。


その言葉を切っ掛けに、艦橋の他の面々も活動を再開し始めた。



が、当然そんな言葉では納得出来ないものが





(どんな教訓だよ、どんな)





いたりするのである。



「いつまでも過ぎたことをぐだぐだ言うな」


いまだ大和とやり合うほどの気力は取り戻せていない高柳艦長は、軽くあしらおうとするが





(対空砲火も満足な機動も出来ない状態では航空機には勝てませ〜ん。そんなことやらなくてもわかってま〜す)





大和はねちっこかった。



「・・・何とでも言え。こっちだってやりたくてやったわけじゃないんだ」


そんなこと言っておきながら、既に皆様御存知の通り、元凶は高柳艦長である。





(大体戦争中だってのに、あんな規模の航空隊を動かしたりして。そんな暇なら中国を何とかしろってんだ)





高柳艦長というストッパーが外れたため、大和の愚痴は止まらない。


聞きたくなくても、大和の声が聞こえてしまう高柳艦長には頭の痛い話であるが、自分にも非があるため強くは出られ
ない。



こんな状態の大和を止められるのはただ一人、





(私は有意義だったと思いますよ)





(武蔵さん・・・)





武蔵に話し掛けられた大和は武蔵の方へと向き直る。





(でも武蔵さんは平気なんですか?万全の時ならまだしも、こんな時に攻撃してくるなんて)


(確かに訓練としては無意味だと思います)





武蔵はにこやかな表情を変えないまま、大和の言葉に頷く。


姿も見えない状態で、微笑んでいるとわかる雰囲気を漂わせるとは中々強者である。





(でも航空隊の皆さんの気持ちはあれで晴れたのではないでしょうか?)


(じゃあ僕達は航空隊の連中の気晴らしなんかのために、こんな目に?)





大和は武蔵の言葉に不満気であった。


そんな理由で「はい、そうですか」と割り切れる者も多くあるまい。





(大和さんはこの戦い、私達の力だけで勝てると思いますか?)





そんな大和を見て、武蔵が話題を変える。





(なんです突然?)


(答えてください)





武蔵の真剣な物言いに、少し時間を置いた後、大和は口を開いた。





(・・・無理だと思います)


(なぜですか?)


(僕らがどう頑張っても、この戦いの主役は航空戦力です。彼らは僕らの代わりが出来ますが、僕らには出来ません)





そう語る大和は真剣であった。



「大和」がいかに強大な攻撃力を持っているとしても、航空機でも敵戦艦は沈められる。


基地も潰す事が出来る。


それも大和よりも素早い行動で、である。



「大和」がいかに堅固な防御力を持っているとしても、水に浮かんでいる以上不沈ではない。


米国の圧倒的な航空戦力に晒されれば、いずれは沈められるだろう。



「大和」は強力な戦力ではあるが、唯一無二ではない。


「大和」型が10隻も20隻もいれば話は変わるが、2隻しかいない現状ではそれが真実。





(じゃあ航空隊の皆さんの機嫌を取っておくのもいいじゃありませんか)


(下手にしこりを残すといざと言う時の連携に関わる、ということですか?)


(ええ)





武蔵の言葉に、大和も徐々に落ち着きを取り戻す。


要は、お得意様の接待をしたとでも思えということらしい。


とはいえ、完全に納得行くわけではない。





(でも、それじゃあ僕達の気晴らしはどうやって・・・)


(あら?そんな物は必要ないと思いますが)





武蔵はさも心外そうである。





(私は別に気にしませんし、大和さんだって心の広い方ですからそんなこと気にしませんよね?)


(い、いや僕は・・・)


(それとも、大和さんは心がそんなに狭いのですか?)





悲しそうな表情を受けべながら、大和に詰め寄る武蔵。



勝負はあった。





(や、やだな〜。僕がそんなこと気にするはずないじゃないですか!)





今の武蔵に抗う術は大和は持ち合わせていない。


しょせん、男は女に勝てないのである。





(さすがは大和さんですね)





一転笑顔満面になる武蔵。


それにしても、天然なのかそれとも狙ってやっているのか。


どちらにしても中々恐ろしい人物である。












そんなこんなで、復路は潜水艦に狙われることもなく無事に日本まで辿り着いた「大和」と「武蔵」。



積んできた貨物の陸揚げ作業も恙無く終了し、次なる行動を起こそうとしていた。



「さて、大和。準備運動はこれで終わりだ」





(次はいよいよハワイだね!)





大和のボルテージもかなり上がっていた。


それだけ連合艦隊に、日本にとって重要な作戦なのである。



「そうだ!連合艦隊の総力を上げた一戦、今度はミッドウェイの時のように逃げるわけにはいかないぞ」





(失礼な話だな〜。必要なことからは逃げたりしないぞ〜)





高柳艦長の言葉に、口を尖らせる大和。


案外気にしていたようだ。





(ところで、連合艦隊は今何処にいるの?)





連合艦隊の母港であり、戦艦などが常に居座っているはずの呉に、外洋航行に耐えられそうな艦は一隻も見当たらな
い。


恐らく既にハワイに向けて動き出しているのだろう。



「無線封鎖をしているから詳しい事はわからんが・・・順調に行っていればハワイまであと6日といった所だな」





(へ〜、あと6日か〜・・・っておい!)





思わず高柳艦長に突っ込みを入れる大和。


普段ボケ役の大和にしては珍しい。



「なんだ?今から作戦を説明するから大人しく聞け」


そんな大和を高柳艦長は受け流そうとするが、そう簡単に大和も引かない。





(そんなこと言ったって、あと6日ってどういうことよ!?)





「なんだ?6日の数え方も知らないのか?」





(違〜〜う!!)





高柳艦長のとぼけた答えに、再び突っ込みを入れる大和。


これなら戦争が終っても、二人でやっていけそうである。



「何を?」などと聞いてはいけない。





(僕らが30ノットで飛ばしたってハワイまで5日だよ!?5日後じゃあ作戦が始まっちゃうじゃない!)





航空戦の場合、特に航続距離の長い日本機の場合、戦いは400キロ近い距離を置いて行なわれる。


時間から逆算すれば、辛うじて「大和」達も間に合うが、戦艦である「大和」達が戦闘に参加するには、さらなる前進が
必要となるのである。



「ああ、それなら大丈夫だ」


そんな大和の不安など何処吹く風、高柳艦長は余裕綽綽であった。





(え?何で?)





高柳艦長の余裕が不思議でならない大和に、厳しい現実が突きつけられる。



「貴様たちは35ノットでハワイに向かう予定になっているからな」





(な〜んだ!それならハワイまでたったの4日だね〜・・・ってこら!)





三度炸裂する大和の突っ込み。


が、高柳艦長は大和の突っ込みなど完全に無視である。



「ちなみに拒否は認められんぞ。今回の作戦は貴様一人の我侭でどうにかなるものではないからな」





(んなこと言ったって、24時間休み無しで35ノットは無理だって!?何でそんな余裕がない予定立てるんだよ!)





捲くし立てる大和に1つ溜息をつくと、高柳艦長はめんどくさそうに説明を始めた。



「貴様今回の作戦の規模を知っているのか?」





(え?)





「空母は赤城、加賀、飛竜、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、飛鷹、隼鷹、龍驤、瑞鳳、それに鳳翔まで担ぎ出して11隻」


正規空母6隻、中型空母2隻、軽空母3隻、合わせて搭載機常用570機、補用機129機。


この当時、世界の何処を見回しても他には存在しない最大最強の航空戦力である。



「戦艦が長門、陸奥、伊勢、日向、山城、扶桑、金剛、比叡、霧島、榛名、それにお前たちを合わせて12隻」


世界最大最強の大和型2隻にビッグ・セブンと称された長門型2隻を含めた12隻。


英国、米国に匹敵しうる世界三大海軍の象徴とも言える堂々たる戦艦部隊であった。



「他にも重巡や軽巡、駆逐艦に輸送船、油槽船、など合わせて優に200を超える艦艇が参加しているんだ」


正しく連合艦隊の総力を結集した空前絶後の大艦隊である。


内地や南方の警備に残る大型艦は、「大鷹」などの改装空母2隻と重巡1隻のみとなる。



仮に敗北するようなことがあれば、いや勝ったとしても大損害を受ければ連合艦隊はその戦力を失う。


真珠湾奇襲攻撃に続く、山本五十六長官一世一代の大博打である。



もっとも、その博打をやらなければ勝機が見えてこない日本という国の悲しさも垣間見える。



「正直どこの部隊も無理をしている。悪いとは思うが貴様にも無理してもらわないといかんのだ」





(・・・・・)





高柳艦長の言葉を聞いた大和は何も言えなくなっていた。



余りにも真摯且つ心からの言葉に心を震わせて・・・





(でも無理な物は無理だし・・・)





震わせ・・・





(あ、でもハワイでなら敵の戦艦と戦えるよね)





震わ・・・





(そうすれば武蔵さんにもいい所が見せられる!)





震・・・





(そう言えば、ハワイで活躍すれば聖上にもいらして頂けるって話しだし・・・)





ふ・・・





(うっしゃ!任せとけっ!!)





・・・とにかくやる気は出たようだ。


今更細かい事に拘るのはよそう。



「今度こそ貴様の力を発揮してもらう。よろしく頼むぞ!」


最後の言葉だけ聞いていた高柳艦長は、大和が理解してくれたと勘違いをして本当に心震わせている。


大和を完全に理解するにはもう少し時間が必要なようだ。





(武蔵さん!)





勘違い艦長を一人捨て置き、大和は武蔵に話し掛ける。





(この戦争の、日本の未来が掛かった大事な一戦です!頑張りましょう!)


(もちろんです。私はそのために存在しているのですから)





よくも抜けぬけと言い放つ大和に対し、武蔵は今までに無いはっきりとした声でそう言い切った。




片や生粋の船魂。


片やどこか間違った船魂。


そして高柳艦長を始めとする軍人達。



立場を異にし、思想も別にする彼らであるが、究極的な目的はただ1つ。



ある者は己の欲望に素直に。



ある者は己の存在意義に誓って。



ある者は国を、愛する者を守るため。




最強国アメリカを倒すために、全ての想いは今ハワイへ集おうとしていた。



















<次回予告>


ついに、ついに始まるハワイ決戦!


知らされる「大和」の役割。


空から海から襲い掛かる獰猛達。



太平洋の戦いは大きな分岐点を迎えようとしていた。





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第18話 勝率10割!」





太平洋の歴史がまた1ページ。





(結局そんな役かよ〜!!)











〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうもやまとで御座います。


18話目にしてようやく始まりそうなハワイ決戦。



普通の仮想戦記ならミッドウェイ後に雪崩れ込むのに、大和のせいで改装やら輸送やら・・・


ようやく仮想戦記らしくなってほっとしている状態です。



それではまた次回お会いしましょう〜。





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