(おらおら〜!どけどけ〜!!)





周囲がいまだ闇に閉ざされ、ぼんやりと他の艦が見えるだけの状況の中、大和は連合艦隊を一直線に引き裂いてい
た。


周囲の小型艦艇が慌てて「大和」の進路を空けていく。



連日24時間35ノットで飛ばし続けていた大和は少しハイになっているようであった。








「愉快な大和君、戦場を逝く」



「第18話 勝率10割!」








太平洋上の要衝、米太平洋艦隊の根拠地であるハワイを目指して突き進む連合艦隊。


ここでその編制を簡単に紹介しておこう。



まず先頭を突き進むのは連合艦隊の誇る機動部隊とその護衛役としての金剛型戦艦4隻を始めとする護衛艦隊であ
る。


機動部隊には「赤城」以下6隻の正規空母と、準正規空母とも言える「飛鷹」「隼鷹」の8隻が所属している。


それら8隻はさらに4隻ずつに分けられ、少し距離を置いて配置されている。



ハワイ攻撃から敵艦隊への攻撃など、全てに活用される今作戦における主力中の主力である。


当然敵の激しい攻撃が予想され、護衛艦隊も充実したものとなっている。




それに続くのは「長門」を始めとする戦艦6隻とその周囲を固める水雷戦隊である。


主力部隊である戦艦部隊と、空母部隊が離れていたために危機を招いたミッドウェイを反省し、今回は50キロ程度の
距離で後を追っている。


期待される役割としては、機動部隊が攻撃した後の敵残存艦隊の撃滅や上陸時の支援であり、最悪敵航空機による
攻撃を吸収する囮にも使われることになる。


当然戦艦派の軍人からは不満の残る役割であるが、日本の命運を賭けた戦いの前に黙殺されている。



なお、戦艦部隊には「鳳翔」「龍驤」「瑞鳳」の3隻が直援用として付けられている。


これら空母には、役割から考えて戦闘機を多めに搭載し、艦隊防衛の色が強く出ている。




そして最後方には、ハワイ上陸部隊を運ぶ攻略部隊や、輸送船団、そして主に潜水艦を警戒する護衛船団が控えて
いる。


彼らが攻撃されては、例え敵艦隊を倒し、ハワイを攻撃出来たとしても占領が出来なくなる。


また当然上陸部隊は陸軍であるため、海軍と陸軍の仲を考えるならば、やられるわけにはいかない部隊である。




先頭から最後尾まで300キロを越す大艦隊である。




ちなみに、われらが「大和」、「武蔵」の両艦はと言えば、ようやく輸送船団に追いついた所であった。


よく考えれば、何も輸送船団と同じ航路を取る必要はないため、わざわざ船団の中を突破しているのは純粋に趣味と
思われる。


・・・誰のかはわからない。







(に、人間やれば出来るものなのね・・・)





全身に疲労感を感じながらも、大和は35ノットでここまで来られた自分に驚いていた。


人間であるのかどうかは、ここでは突っ込まないことにする。



とりあえずここまで来れば、先頭まであと僅かである。



「予想以上に上手く行ったな。これなら作戦開始には充分に間に合う」


ハワイ攻撃を控え興奮して眠れないのか、高柳艦長がこんな時間であるにも関わらず艦橋へ顔を見せた。


見れば艦橋員の少なからぬ数が、いまだ艦橋に詰めている。


やはり、一同興奮を隠せないのだろう。



真珠湾攻撃以降、機動部隊に主役を取られてきたが、今度は戦艦を含む総力をあげての決戦である。


根っからの軍人である彼らの興奮も、無理からぬことであった。





(ところで僕らは何処まで行けばいいの?)





気合を入れて走ることで精一杯だった大和は、今更ながらに高柳艦長に尋ねた。



「それはもう説明したじゃないか。まさか聞いてなかったのか?」


それを聞いた高柳艦長は、ジト目で大和を睨みつける。





(んなこと言ったって・・・走るだけで精一杯だったんだし・・・)





「まあいい。もう1度説明してやろう」


ここまで順調に来たことで少し機嫌が良いのか、高柳艦長はそれ以上の追求はしなかった。





(んじゃよろしく!)





気軽そうに言う大和であったが、その実内心ドキドキものである。



何処まで行くか、それはハワイ決戦で「大和」がどんな役割を果たすのかに直結する。



正規空母群と合流するのであれば、「馬鹿げている」としか表現出来ない数の対空砲火と射撃能力を生かした空母護
衛となる。


ミッドウェイの時のように、少しでも敵の攻撃を吸収する役割も果たすだろう。



戦艦部隊を合流するのであれば、その役割は上陸作戦の支援に加え、敵水上部隊との決戦にも赴くことになるかもし
れない。


ミッドウェイの時には行なわなかった艦砲射撃もハワイに対してすることになるだろう。



どちらも重要な役ではあるが





(やっぱり戦艦部隊と合流したいよな〜)





前者は戦艦の使い道としては大和の好みではないようだ。


この期に及んで、まだ自分の好みに拘るらしい。



「とりあえず、貴様には先頭に踊り出てもらう」





(ということは、空母の援護か〜。まあ仕方ないか)





望んだ結果とは異なるが、大和にしてみれば予想していた通りである。


大和はすんなり納得していた。



・・・が



「勘違いするな」





(・・・え?)





高柳艦長の言葉はそれで終らなかった。



「貴様には文字通り先頭まで出てもらう」





(これだけの部隊の先頭に立てるのか〜!くっ〜〜!男冥利に尽きるね〜!)





何か勘違いしている。





(私一応女なんですが・・・)





その陰で、そんな呟きがあったかどうかは定かではない。





(それで?どのくらい前まで行けばいいの?)





「出来るだけだ」


大和の質問に対する、高柳艦長の言葉は実に簡潔であった。





(・・・え?)





「だから出来るだけだ」


想像していなかった答えに、大和は狼狽を隠せない。





(え〜と・・・それはつまり・・・)





「囮だな。囮の中の囮だ」


高柳艦長の言葉は、これまた誤解しようもないぐらい簡潔であった。





(・・・ひょっとして僕ら2隻だけで?)





「そうだ」


大和の問いかけは、状況を打破することなく、深刻な現状を再認識させるに留まった。





(い、いや、ちょっと待ってよ!)





「何だ?怖いのか?」





(いや、怖いと言うか、いくら僕らでもたった2隻じゃ敵も狙ってくれない気が・・・)





先頭にいるから敵が狙ってくれる、というものでもない。


放置しておくと脅威になる、そう判断されなくては敵も狙ってくれないだろう。



「狙わすさ」


高柳艦長は怖いセリフをあっさりと言い放った。





(ぼ、僕はあえて狙ってもらわなくてもいいんだけどな〜)





たった2隻でハワイにいる米軍全てから狙われるのは、いかに大和でもごめんである。



いかにミッドウェイで米空母を叩いたとは言え、米空母はまだ残っている。


大和の記憶に拠れば、サラトガ、ワスプ、ホーネット、レンジャーの4隻である。(実際は他にもいる)


これにハワイにいる航空部隊が加われば、ひょっとすれば航空機の数では連合艦隊を上回るかもしれない。



もっとも、米国の陸軍航空部隊も、帝国陸軍と同じく対艦攻撃能力では疑問が残り、単純な戦力比較は出来ない。



戦艦を考えてみても、大西洋から廻されて来るのもいるだろうし、真珠湾攻撃で撃破した米戦艦群も修復が完了してい
るはずである。


そうなると10隻を下らない数が出てくるような気がする。


気がする、としか言えないのは兎にも角にも大和の知識の少なさが原因であろう。



巡洋艦や駆逐艦なんて数える気にすらならない。




要は、今回の連合艦隊に引けを取らない規模の艦隊が待ち構えているわけである。


今まで連合艦隊が勝ち続けているにも関わらず、である。


それが米軍の底力。


正直やってられない。



が、大和の意見など気にせず作戦は既に決められている。



その後高柳艦長が語った作戦は次のようなものであった。




1.敵からの航空攻撃を1度だけ受ける時間を見計って「大和」、「武蔵」が突入を開始する。

  その攻撃を完璧に防ぐ事により、両艦が脅威となることを相手に知らしめる。



2.「大和」と「武蔵」の速力を生かし、敵艦隊へ一気に接近。航空攻撃を吸収する。

  このとき、航空機が向かって来なくても、突撃を続ける。



3.突撃を続けることで、敵艦隊から戦艦を誘き出す。



4.敵空母部隊との決着がつくまで、時間を稼ぐ







(・・・なるほど。何となくわかった)





高柳艦長の言葉を最後までじっくりと聞いていた大和は、じっと考えを纏めていた。





(つまり、僕達は対空砲火の強力な敵戦艦を引き付けるのが主目的なわけね)





「そうだ。今回の作戦は航空戦力を何処まで残しておけるかが、最大の懸念事項だからな」


大和の言葉に、高柳艦長が頷く。



敵戦艦も航空機で沈める。


確かにその案もあり、また実現も決して不可能ではないと思われた。


しかし、空母より遥かに頑強な戦艦を沈めるにはそれなりの手間がかかり、航空隊の損害も軽視し得ない。



そこで決められた作戦は、圧倒的な速度と航続距離を持つ「大和」、「武蔵」を使い遊兵化させることである。


敵空母との決着をつけ、ハワイの航空戦力さえ潰してしまえば、敵に戦艦が残っていても何とでもなると考えられたの
だ。





(・・・誘い出した敵の戦艦はどうするの?)





「時間を稼ぐのが最優先だから。空母の方へやらないように誘導しながら逃げる」





(逃げるの?)





「もしも戦艦部隊や貴様らが戦闘能力を維持出来ていたらな、合流した後叩くことも考える」


意外そうに聞き返す大和に、高柳艦長はそう語った。





(第一段階で僕らが大きな損害を受けた場合は?)





「空母部隊に合流。以降空母の護衛を務める。だが、そうなれば消耗戦だ。恐らくハワイは取れまい」


敵が自分達に劣らぬ数の航空機を有している以上、空母や戦艦などの敵艦隊を殲滅し、ハワイまで攻撃する余裕は
航空隊にはなくなるだろう。





(戦艦部隊を誘き出す前に、損害を受けた場合は?)





「限界まで突撃を続ける。27ノット出なくなったら後退して、やはり空母部隊に合流だ」


27ノット。


米戦艦部隊のうち、新鋭艦であるノースカロライナ級、サウスダコタ級のみが出せる速度だ。


要するに、いざと言う時逃げるだけの速力は保つ、ということである。





(僕らより先に空母部隊が損害を受けた場合は?)





「何としても敵空母だけは沈める。その場合は、向かって来る敵艦隊をかわしながらの突撃になるな」


米空母さえ殲滅出来れば、太平洋に暫く静寂が戻る。


講和を狙うにしろ、戦力の充実を図るにしろ、必須である。





(この作戦の目的は?)





「1に敵空母の殲滅、2に敵艦隊の殲滅、3にハワイの破壊もしくは占領だ」


高柳艦長は、迷う事無くそう答えた。



ミッドウェイの時、敵艦隊の殲滅を目指すのか、それともミッドウェイの占領を目指すのかが明確でなかったために余
計な危機を招いた。


連合艦隊も、過去の戦いから色々学んでいるのである。



高柳艦長の言葉に満足そうに頷いた大和は、最後に1つだけ訊ねた。





(・・・勝算は?)





「・・・図上演習の結果、艦隊決戦だけなら3割。ハワイ占領までは1割以下だ」


敵艦隊だけならまだしも、ハワイにいる敵航空隊まで考えればやはり厳しい。


もちろん勝算が3割だからといって、残りの7割が敗北ということではない。


双方とも尋常ならざる戦力を持ち込んでいる以上、両者痛み分け、という可能性が最も高いであろう。



ちなみに図上演習とは、連合艦隊の将官がお互いの軍を操作しボート上で模擬戦を演じることである。


一見ゲームのようであるが、使われるデータからやり方まで細かく決められており、終了まで数日掛かることもざらだ。



これまたミッドウェイの時は、いい結果を出すためにあえて連合艦隊有利に操作された過去を持つ。


そのため、今回の戦いでは非常に厳しい条件のもとで行なわれた。





(・・・・・)





かなり厳しい数字を突きつけられ、大和は黙り込む。





(大和さん・・・)





そんな大和を心配して、武蔵が近くへと寄って来た。





(聞きましたか、武蔵さん?)





大和がどこか乾いた口調で武蔵へと話し掛ける。


そんな大和の言葉を、高柳艦長は何も言わずに目を閉じて真剣に聞き入っていた。





(最終的な勝率1割以下ですって。馬鹿げた話です)


(大和さん・・・)





呆れるように言う大和に、武蔵の表情が曇る。



「・・・・・」


それは高柳艦長も同じであったが、こちらは何も言わない。


ただ、高柳艦長の目が開かれ、いまだ暗い海をじっと見つめる。



(大和に強制する術は無い。それでも我々は大和に頼るしかないのだ)





(他の軍人ならともかく、そんな作戦に参加するほど、僕は死にたがりじゃないんです)





大和の独白が続く。





(・・・・・)





武蔵ももう何も言えなくなっていた。


ただ俯くのみである。





(だから武蔵さん、抗議しましょう!)


(いえ、私は・・・)





帝国の艦ですから、どんな作戦にも従います。


俯いたまま、そう続けようとした武蔵の言葉を、大和が遮る。





(僕達が全力で挑む以上、どんな作戦だって勝率10割になるんだ!ってね)


(・・・!?)





大和の言葉に、武蔵の顔が上がる。


そして、その視線の先には何時の間にか姿を現していた大和の姿があった。





(大和さん・・・)


(米艦隊と言えども、僕らの前では赤子も同然です!)





そう言いながら、大和は腕を武蔵の方に伸ばし、親指を立てる。





(僕らの力を、思う存分見せ付けてやりましょう!)


(・・・はいっ!もちろんです!)





そんな大和に、武蔵も姿を見せると満面の笑みで応えた。


武蔵を満足げに眺めた大和は、入れ替わるように姿を消すと、再び艦の制御に取り掛かる。





(さて、高柳艦長!いっちょ行きますか!)





「・・・当たり前だ」


抑えながら言う高柳艦長の口元にも、隠しきれない笑みが浮かぶ。



「何をしたか知らんが、今重油を喰ったからな。その分はしっかり働いてもらうぞ」





(おうおう、さすが日本海軍。随分とケチ臭いことを言うね〜)





「いいから行け!勝率10割の作戦だ、失敗は許されんぞ!」


高柳艦長の気合の入った声が艦橋に響き渡る。





(おっしゃ〜!任しとけ〜!!)





その言葉と共に、「大和」の速力が徐々に上がる。


何時の間にか戦艦部隊まで到達していた「大和」、「武蔵」の両艦が一気に機動部隊へと迫ろうとしていた。





(武蔵さん、遅れないでくださいよ〜)


(大和さんの方こそちゃんと着いて来て下さいね)





連合艦隊を割いていく2隻の戦艦。


尋常でない能力を持った2隻は、その能力ゆえにもっとも危険な場所へと向っていた。


しかし2隻、そして両艦の乗組員に怯えは見られない。


当然だ。


なぜなら、彼らは勝率10割の戦いしかしないのだから。





ユトランド沖海戦をも上回る史上最大の海戦の火蓋は、間も無く切って落とされようとしていた。



















<次回予告>


突撃を開始する「大和」、「武蔵」。


迎え撃つ米航空隊。


飛び散る火花。



「大和」の能力が今全世界に明かされようとしていた。





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第19話 死闘開幕!」





太平洋の歴史がまた1ページ。





(当たってやらないよ〜!!)











〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうもやまとで御座います。



戦いが始まりそうで、始まらないのがこの作品の特徴(笑)


とりあえず百話までに終るのだろうか・・・


細かい事は気にしないようにしましょう(汗)



それでは次回またお会いしましょう〜。






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