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連合艦隊の総力をあげたハワイ攻略作戦。
こちらも総力をあげて迎え撃つ米国海軍。
ハワイ周辺に15隻に及ぶ空母、20隻を超える戦艦、数えるのも馬鹿らしい巡洋艦以下の艦艇。
戦艦の数から言えば、巡洋戦艦も合わせて63隻参加したユトランド沖海戦(スカゲラック海戦)に遠く及ばないものの、
補助艦艇まで合わせた総排水量で言えば優に勝る量の艦艇がハワイ周辺に終結している。
そんな一触触発、というには既に一触しているのだが、の状態ではあるが、「夜」という最大最強の幕がいまだハワイ周
辺に静けさをもたらしていた。
「愉快な大和君、戦場を逝く
第20話 賽は投げられる」
お互いの空母が参加する日米決戦も珊瑚海、ミッドウェイについで三度目。
珊瑚海では日本の戦術的辛勝、米国の戦略的勝利。
大和の参加したミッドウェイでは日本の圧勝。
「2度あることは3度ある」の諺通り、三度米艦隊の撃破を目指す連合艦隊。
「3度目の正直」の諺通り、起死回生の勝利を目論む米艦隊。
世界で3指に入る両海軍の総力を上げた戦いである。
いつまでも何も起きないで済まされるはずはなかった。
最強の幕であった「夜」も、「太陽」という開幕のベルに少しずつその幕を開けていく。
そしてそれを待ちかねていたかのように、まだ幕も開けきらないうちから
ババババババ・・・
ハワイ周辺に保たれていた静けさを航空機のエンジン音が切り裂いた。
それが同時に本格的な戦いへの合図ともなることは、エンジン音を聞いていた者全てが認識していることである。
発艦!
多くの者の心の内での叫けびを受けながら、エンジンを温めていた航空機が次々と飛び立って行った。
この日、先に行動を起こしたのは連合艦隊の側であった。
前日の戦いを戦訓に、いまだ見ぬ敵空母部隊を求めてハワイ方面以外を重点的に偵察機が索敵へと飛び立たせる。
「さて、後は彼らが上手く敵艦隊を見つけてくれることを祈るばかりだな」
世界最強の機動部隊を率いる提督は、そう言いながらこちらの空母、あちらの空母で数機ずつ発艦して行く偵察機を
見送くっていた。
念のため言っておくと、この先どう考えても彼と大和が接触することはないであろうから、名前は気にしないことにする。
「とりあえず、ハワイ方面にいないであろうことはわかりましたからね。きっと見つかります」
お互いに矛を研ぎ合っている段階で悲観的な意見など出せるはずもなく、参謀の一人も軽い口調で少しでも場の空気
を和らげようと試みる。
「そう願いたいものだ。それにしても・・・」
この先も名も無き提督であり続けることが決定されたこの提督は、そこで一旦言葉を切った。
「大和とは一体何なのだ?」
一見すれば、意図の掴みにくい質問ではあるが、その疑問はその場にいた多くの参謀も同じく抱いていたことであっ
た。
「最初は、世界最大とはいえ、ただの戦艦に過ぎなかったはずだ。いや、少なくともミッドウェイの前まではそう思われて
いた」
そこから参謀の一人が言葉を継ぐ。
「しかし、ミッドウェイではあり得ない速度で本艦隊に追いつき、謎に満ちた行動を取りつつも危機を救った」
続いて別の参謀が言葉を継ぐ。
「その後の突然の帰国、そして改装。当時に人員の大幅削減」
その後は次々と参謀達が言葉を継いでいく、あたかも連想ゲームのような様相を呈した。
「人員削減されたにも関わらず、膨大な数の対空兵器を統一的に扱い、訓練で見せたあの対空能力」
「どう考えても戦艦の仕事ではない輸送作戦」
「そして、今回の作戦での単独突入。米軍相手に実戦でも証明した対空能力」
そこまで話が進んだところで、名も無き提督へとお鉢が戻ってきた。
「山本長官の話では、巡航速度は30ノットを超え、対空砲火は最新の仕組みを使って人員削減を為しえたらしい
が・・・」
名も無き長官はそこで1つ、軽い溜息をついて続けた。
「どう考えても出来るはずがない。そんなものが出来るのであれば、ハワイなど攻めずに全艦そのように改装したほう
が余程この後の戦いで優位にたてるはずだ」
参謀一同、その意見に賛成であった。
さすがに日本海軍で出世してきた者達。
山本長官の言葉を鵜呑みするようなことはしていなかった。
「とはいえ、山本長官に聞いても軍機の一言。元大和の乗組員に問いただしてみても、知らぬ存ぜぬの一点張り」
元大和の乗組員は本当に知らないだけである。
「これでも連合艦隊の重要人物だと自負していたつもりだが・・・」
名も無き提督のついた溜息は、今度は大きなものとなった。
「聞いたところでは、大和に関しては大和首脳部しか全容を知らないという話です。決して提督が・・・」
名も無き提督が臍を曲げていると思ったのだろう。
参謀が懸命にフォローに入るが、
「あ、いや、それはわかっている。山口や小沢さんも知らないらしいからな」
誤解を与えたことに気が付いた名も無き提督は、慌てて首を振ってそれを否定した。
山口や小沢が誰かというと・・・詳しい説明は面倒くさいので、結構な重要人物とだけ言っておこう。
「ただ大和の戦果をこうも見せられると・・・」
「何を仰います。提督があげてこられた戦果は大和如きとは比べ物になりません!」
羨ましそうな顔を見せた名も無き提督を、参謀の一人が遮る。
「その証拠に、今作戦において大和はあくまで囮。主力は本艦隊ではないですか」
「そうか・・・いや、そうだな。変なことを言って済まなかった」
その場は名も無き提督が軽く頭を下げた終ったが、どの参謀の心にも大和のことは強く印象付いていた。
人は得体の知れぬ物を、必要以上に評価し、また印象を抱くものなのだ。
機動部隊首脳陣がそのような会話をしている間にも、偵察機は与えられた使命を果たすべく孤独な旅を続けていた。
ようやく太陽の光が照らし始めた海面に目を凝らしながら、指示された航路をただひたすらに飛んで行く。
敵機を落とす事も、敵艦を攻撃することも出来ないが、彼らが敵を発見しない限り何も始まらないのだ。
「・・・あれはっ!」
搭乗員一同、誇りと使命感を胸に任務につくこと40分。
10を超える数の偵察機のうちの1機が「敵」を発見していた。
しかし、その「敵」は彼らが求めていた物とは少し異なっていた。
その「敵」は搭乗員一同が目を凝らす海上にではなく、空中に存在していたのだ。
空飛ぶ戦艦や空母が開発されたという話を聞かない以上、それは
「ちっ、奴らもう攻撃隊を出してやがったのか!」
戦場で唯一空を飛ぶ事を許された存在である「航空機」でしかありえなかった。
偵察機の搭乗員達が見つけたのは、自分達に正対している50を超える航空機。
味方艦隊から発艦した自分達と正対している以上味方ではありえない。
方角からいって、ハワイからやって来た連中とも思えない。
つまり彼らは探し求める「敵空母」から連合艦隊へと向けて放たれた矢なのだ。
空中で1度編隊を組んでから敵へと向かう連合艦隊とは違い、米海軍はそれぞれ五月雨式にと敵へ向かう。
そのため今は50機程度しか見えなくても、総数は必然もっと多くなる。
「電文は打ったかのか!?」
敵編隊をやり過ごすため、一気に高度を下げながら操縦士は後ろへ声を掛けた。
「大丈夫です!今発信し終わりました!」
「よ〜し!敵さんはこの先にいるはずだ、いくぞ!」
敵編隊発見の報を艦隊へ発信したことを確認すると、操縦士は海面ぎりぎりまで高度を下げたところで機体を立て直
す。
急いで高度を下げたのが功を奏したか、はたまた大事の前の小事と相手にしていないだけなのか。
どちらなのか彼らにしる術はないが、敵機が向かってこないとだけ分かれば充分である。
その偵察機は、敵編隊の先にいるはずの敵空母目指して、危険度が増した旅を続けることになった。
敵機接近中!
偵察機からもたらされた情報を受け、連合艦隊は俄然騒々しさを増した。
機動部隊の後ろを進んでいた戦艦部隊は、「長門」に乗艦している山本長官の指示の下、敵機と機動部隊の間に入る
ように位置取りを変え始める。
同時に、随伴している軽空母3隻から直援機が次々と上げられていく。
戦艦部隊の行動理念は実に単純、「この身を以って空母の盾とならん」。
空母を何より重視する山本長官らしい、そして彼自身が直接指揮を取っていなければ叶わなかった行動と言えよう。
一方、守られる立場の機動部隊では取るべき行動を巡って議論が紛糾していた。
敵編隊を発見したとは言え、敵空母はいまだ見つかっていない。
であれば、一旦迫り来る敵機の迎撃に専念すべきだ、というのが常識的な考えとして示されたが
「どうせ敵空母は発見された敵機の向こうにいるんだ!ここは索敵攻撃を実施しよう!」
という強攻策が一部の参謀から提案されたのである。
索敵攻撃というのは、攻撃隊が索敵を兼ねることを言う。
当然敵が見つからないこともあり、また爆弾や魚雷という重荷を背負ったまま行動し続けるのは危険が大きいため、実
行されることは少ない。
今回は敵機の飛行経路から、敵空母の予想位置を割り出せるために提案されたのである。
とはいえ、あくまで予想は予想。
「危険すぎる!そんな無理をしなくても、守りに専念すれば敵機を充分撃退出来るではないか!」
反対意見が強く出されるのも当然のことであった。
「確かに撃退は出来るだろう。しかし、空母は甲板に一発喰らえば使えなくなってしまう!」
それに対しては、空母の脆弱性を持ち出して再反論がなされる、といった具合に意見が次々にぶつけられた。
両論とも一長一短。
一分一秒を争う状況のため、決断は当然のように名も無き提督へと委ねられた。
そして、今までどちらかと言えば慎重な戦いが目立っていたこの司令は以外にも
「よし、攻撃隊を出そう」
強攻策を取る決断を下した。
「ただし、敵艦隊が本当に敵機の向こう側にいるなら、偵察機が直に報告を寄越すはずだ。そうしたら先導機を2、3機
出そう」
「その時既に敵機が来ていたらどうするのですか?」
「その時は完全に索敵攻撃だ」
先導機は恐らく日本艦載機の無線装備の脆弱さを危惧してのものだろう。
何はともあれ、名も無き提督の指示を受け、艦隊全体が動き始める。
発艦に必要な合成風力を生み出すために、空母は進路を風上へと取る。
それを待って、まだ夜が明けぬうちから既に準備されていた攻撃隊が勇躍発艦を開始した。
時間がないことを知っている攻撃隊は、連合艦隊の鍛え抜かれた錬度の甲斐あって、1機当たり1分を必要としない早
さで発艦して行く。
とはいえ敵機、報告は50機強だが予想される敵空母数から100機以上と思われる、に対する直援機も飛ばさないと
ならないため、用意された攻撃機全てを発艦させることは叶わなかった。
敵機が襲ってくるまでに発艦出来たのは8隻の空母合わせて戦闘機57、爆撃機63、攻撃機20の計140機。
直援機は予め上がっていた機と合わせて90機。
この他に、戦艦部隊に随伴している軽空母から飛び立った直援が18機。
攻撃隊に占める爆撃機の割合の高さは、敵空母の甲板を叩くことを最優先してのことである。
連合艦隊の総力を上げた艦隊は、短時間の間にこれだけの航空機を運用可能なのだ。
そしてこの時最も最後に上がったのは、敵空母の位置を教えられた3機の攻撃機であった。
敵機発見の報告より30分ほど後、先ほどと同じ偵察機よりついに待ち望んだ報告が機動部隊へと舞い込む。
「空母2隻発見ス」
これを受けた名も無き提督は、既に敵機が一部直援機と交戦を開始していたにも関わらず待機していた攻撃機へ発
艦を指示。
3隻の空母からそれぞれ1機の攻撃機が放たれたのは、まさにギリギリのタイミングであった。
名も無き提督のこの行動は、後に「攻撃隊を無事に敵艦隊まで送り届けた英断」とも「回避運動への移行が遅れた蛮
勇」とも言われる。
どう判断するかは、この後の戦いを見届けた後に、各人が判断すべきことであろう。
何はともあれ、ハワイ決戦の趨勢を決める第一の槍はお互いに突きあった。
それをどう捌くのか、そしてどう相手に突き刺すのか。
どちらが「蜻蛉斬り」に切り裂かれる蜻蛉と同じ運命を辿るのか。
それは今の段階では「勝利の女神」のみが知ることである。
ただ1つ確かなことは
(って、主役なのに名前しか出てないぞ〜〜!!)
こいつは関係ないということだけである。
<次回予告>
戦闘は過酷を極める。
お互いに攻撃力が防御力を上回る状態での戦い。
波間に消えるはどちらの艦か。
空母対決第2ラウンドのゴングは既に鳴らされている。
次回!
「愉快な大和君、戦場を逝く」
「第21話 屍山血河」
太平洋の歴史がまた1ページ。
(次回も出番無しか・・・)
〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜
・・・パソコンの中で半年ほど寝ておりました(汗)
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