(・・・被弾6、魚雷1、高角砲破損7門、機銃破損15基)





自分の損害を確認し終わった大和は息を呑んで武蔵の言葉を待つ。





(・・・被弾4、魚雷1、高角砲破損5門、機銃破損8基です)


(ぐはっ!!)





大和は、その姿が目に見えなくても充分に感じられるほどに、がっくりとうな垂れた。





(くっそ〜、武蔵さん避けるの上手過ぎだよ・・・)





愚痴った。





(そもそも僕は船魂じゃないし・・・)





言い訳した。





(でもほら、負けるが勝ちって言うし・・・)





ちょっぴり現実から逃げてみた。





(とにかく、賭けは私の勝ちですね)


(・・・はい)





しかし、結局武蔵から逃げ切る術は大和にはないのである。





(おっかしいな〜、対空砲の数からしても勝てるはずだったのに)


(大和さんの方が集中して狙われましたからね。私としては助かりました)





そう言って笑みを浮かべる武蔵を見ては、大和にはこれ以上言うことはなくなる。





(まあ今回は負けちゃったけど、次は負けませんよ!)


(あら?そんなこと言ってしまっていいのですか?)





そう意気込む大和を、武蔵はからかうような口調で挑発してくる。





(くぅ〜!次は撃墜数で勝負です!そうすれば対空砲火の数で僕が勝つはず!)





武蔵の言葉にさらに熱くなっている割には、自分の有利な勝負を仕掛けようとしている。


底の浅い男である。





(じゃあ私は賭けの御褒美として、大和さんよりも優先的に対空砲火を付けてもらうことにします)


(・・・え?)





はたして大和が武蔵に勝利出来る日はやって来るのだろうか?












「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第22話 饗宴・前哨戦」





昼間に機動部隊に負けず劣らずの激闘を在ハワイ航空隊と繰り広げていた「大和」と「武蔵」。


激闘からそれほど時間が経っていない今現在、2隻は山本長官の指示を受け、ハワイへ向け撤退中の敵艦隊の前に
立ち塞がろうとしていた。



「貴様のことだ、どうせ作戦を理解していないだろうから、もう1度説明するぞ」





(・・・お願いします)





高柳艦長の言葉に、大和が素直に頭を下げる。



「最後に確認された情報によると、敵艦隊は現在艦隊を2つに分けている」


高柳艦長の話を纏めると、次のようになる。



大きな被害を蒙った米艦隊は、ハワイに撤退するに辺り艦隊を2つに分けた。


3隻の新型戦艦を中心とする部隊が1つ。


構成は戦艦3、重巡1、軽巡5、駆逐艦14。



もう1つは重巡「ペンサコラ」など既に大きなダメージを受け充分に速力を発揮出来ない艦+その護衛艦の部隊であ
る。


構成は重巡3、軽巡2、駆逐艦8。



このうち、損傷艦の1群は一刻も早くハワイへ帰還するため、一直線にハワイへと向かっている。


一方戦艦を中心とした部隊は、「大和」「武蔵」両艦の方へ進路を取っている。



「恐らく損傷艦をハワイへ逃がす時間を稼ぐつもりだろう」





(・・・って、ちょっと待って)





そこまで黙って高柳艦長の説明を聞いていた大和であったが、そこで少し違和感を覚えた。



「なんだ?」





(いや、何かおかしな感じが・・・)





え〜と、損傷艦を逃がす、この考えは何もおかしくないよね。


重巡3隻は結構貴重な戦力だしね。



で、敵の残りの部隊が僕達の足止めに来るのも自然だね。


僕らの速力なら今夜中に損傷艦の部隊に追いつけるし。



損傷艦が朝までにハワイに着けるかはわからないけど、空母からの攻撃は在ハワイ航空隊からの援護で凌ぐつもりな
んだろうね。


あ、空母が攻撃するなら死に損ないよりも新型戦艦か。



となると、敵の考えは筋が通っているね。



こっちの考えも、僕らが敵艦隊を足止めしている間に戦艦部隊で挟み撃ちするってことだから普通だ。





(でもな〜んか、引っ掛かるんだよな〜)





大和は大して優秀ではない頭を必死で捻って考え込んでいた。





(あの、大和さん)





そんな大和に武蔵が話し掛ける。





(どうしました?武蔵さん)


(私思うんですけど・・・足止めにしては敵の戦力が多過ぎませんか?)


(え?そうですか?)





大和は武蔵の言うことがよくわからない様子だ。





(昼間の航空機との戦いを見れば、全力で来るのは普通だと思うんだけど・・・)


(しかし、私達は対空砲の数は多くても、主砲は普通の戦艦と変わらないんですよ?)


(あ、そっか!)





大和はようやく武蔵の言いたい事を理解出来たようだ。



確かに「大和」「武蔵」は対空砲の数が桁違いであり、その実力は昼間の戦闘で十二分に発揮して見せた。


しかし、主砲はあくまで3連装3基に過ぎないのだ。


副砲に至っては3連装2基でしかない。



つまり、米軍から見た「大和」は「対空戦闘を重視した新型戦艦」ということになる。



そうであるならば、通常レベルである水上戦闘において先の戦力は、足止めというには多少多過ぎる。


重巡3隻+αを逃がすために、戦艦の主砲一撃でやられかねない軽巡を6隻を危険にさらすのはおかしくも感じる。


仮に、米新型戦艦よりも速力で勝る「大和」対策だとしても、軽巡6隻では2隻の大型戦艦は止まらない。





(敵艦隊の目的が足止めにないとすると・・・どう考えても)


(私達を沈めることですね)





それは2隻にとっては危険な結論であった。


武蔵は最初から気付いていたらしく、落ち着き払っていたが、たった今気が付いた大和は違う。



感情を高ぶらせ、高柳艦長に喰って掛かった。





(ひょっとして、米艦隊の狙いって僕達を沈める事じゃないの!?)





「ちっ、気付かれたか」


いい人、であったはずの高柳艦長は大和の言葉に思わず舌打ちをしていた。


こう見ても海軍中将、海千山千の強者であったようだ。





(気付かれたか!って、気付いてたの?)





「当たり前だ。貴様が気付けるようなことを職業軍人である我々が気付けないとでも思ったか?」





(ぬ・・・)





武蔵にヒントをもらって、ようやく気付けたとはとても言えない。





(って、大体なんでそんな嘘を教えるんだよ〜!そう言えば僕達が逃げると思ったの!?)





「思った」


ガクッ!


大和は高柳艦長の言葉にズッコケタ。


それはもう見事にズッコケタ。



おかげで艦が傾き、たまたま甲板に出ていた人が海に落ちそうになったのは戦史に残らない些細なことである。





(あのね〜!戦艦3隻を相手にするぐらいで逃げるなら、ハワイに突撃したりしないっつ〜の!)





心外な!


思わず声を荒げた大和であったが、高柳艦長は大和の言葉を不思議そうに聞いているだけだった。



「・・・3隻?」





(・・・え?違うの?)





「・・・ああ、そういうことか。いや、うん、確かに3隻だな」


しばし思索していた高柳艦長であったが、何かに合点したらしく慌てて首を縦に振る。


が、どう考えても怪しかった。





(・・・まだ何か隠してやがる)





大和は再び知恵を絞ってみることにした。




え〜と、高柳艦長を見る限りどうやら3隻以外にも何か脅威があるみたいだな。


でもなんだろう?



戦艦以外には重巡が1隻に軽巡が6隻、駆逐艦が・・・13、いや14隻だったっけ?


少ないとは言わないけど、それぐらいなら大した戦力じゃないし・・・




常識で判断するならば、結構大した戦力である。


が、判断しているのが常識人ではないので仕方ない。




となると、やっぱりハワイ航空隊?


でもハワイの航空隊は昼間かなりやっつけたはずだよな。


僕と武蔵さんで合わせて200機は落としたぞ。


となると、いくら米軍でも脅威になるほど戦力が残っているとは思えないな〜。



残るは・・・





(11隻の戦艦っすか〜〜!!)





1つの答えに辿り着いた大和は思わず絶叫を上げていた。



「ちっ、気付かれたか!?」


高柳艦長の舌打ち音が、またもや響く。


「いい人」像を脱皮して、なかなか喰えない人物へと変貌を遂げようとしていた。




さて、大和がようやく現実に気がついた所で少し状況を整理しておこう。


次なる戦い、すなわち水上艦艇同士による砲撃戦に参加しようとしている部隊は全部で4つ。



連合艦隊から分離して、ハワイへの進軍を行なっている連合艦隊主力部隊。


部隊と呼ぶには2隻しか存在しないが、「大和」「武蔵」。


現在「大和」の方へと向かってきている米機動部隊の残存部隊。


そして最後はハワイにて防衛任務に就いており、今まで「大和」「武蔵」に翻弄され、あまつさえ大和に忘れられていた
米戦艦部隊である。



艦隊決戦の主力たる戦艦の数を部隊ごとに見てみると、10:2:3:11。


連合艦隊と米軍で比較するならば12:14となる。



そしてこの4部隊の位置関係を見てみると、ハワイから見て



米戦艦部隊──(120キロ)──「大和」「武蔵」──(120キロ)──残存部隊──(200キロ)──連合艦隊主力部




といった具合となる。


もっとも、米戦艦部隊、「大和」「武蔵」、残存部隊はほぼ同一直線上にあるものの、連合艦隊主力部隊はその直線上
から外れるため、予測決戦海域までの距離で現している。



そして、各部隊の速力から予測決戦海域までの所要時間を示してみると、次のようになる。


連合艦隊主力部隊・・・5時間半


「大和」「武蔵」・・・1時間


残存部隊    ・・・1時間


米戦艦部隊   ・・・5時間



「・・・まあ、現状ではそんなところだな」


これ以上事情を隠して、決戦を前に大和に臍を曲げられてもたまらない。


大和に迫られた高柳艦長は、仕方なく現在の状況の全容を話して聞かせていた。





(え〜と・・・つまりあれですか?)





「そうだ、あれだ」





(・・・・・)





「・・・・・」





(・・・・・)





「・・・・・」


高柳艦長の一言で、久し振りに、お互い無言状態に陥った。





(・・・まだ何も言ってないんだけど?)





大和は精一杯の皮肉を込めて、噛んで吐き出す様な言い方をするものの



「どうせ貴様のことだ。「戦いまであと1時間しかないじゃ〜ん」とでも言うつもりだったのだろ?」





(ぎくぅっっっ!!)





見事なカウンターを受けてマットに沈んだ。



「今更細かい事を貴様に言うつもりはないが、気持ちの準備ぐらいはしておけ」





(・・・は〜〜い)





ようやく現在自分が置かれている状態を掴んだ大和。


高柳艦長に言われるままに「一時間後に敵新型戦艦と戦う」心構えをしてはみるものの・・・



話している間に、既に30分後にまで近付いていたことに気がつくのは、戦いが始まってからであった。



















<次回予告>


迎え撃つは米海軍最強の新型戦艦。


挑むは連合艦隊最強の大型戦艦。


世界を代表する海軍同士の沽券を賭けた戦い。



連合艦隊の命運は再びこの2隻に委ねられようとしていた。





次回!



「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第23話 饗宴・幕開け」





太平洋の歴史がまた1ページ。





(いよいよ戦艦との戦いだ〜!!)











〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうもやまとで御座います。



いつも思うのですが、一遍に更新している以上一々後書きを書く必要はないですよね・・・


大したことを書いているわけでもないですし。



しかし、私が小説を書き始めた最初の切っ掛けが「後書きを書きたい!」というものだったので仕方ありません(笑)



意味のない後書きはこれからも続くのです(汗)



それではまた次回お会いしましょう〜。








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