「この大戦でここまで戦艦が出揃う事になるとは思わなかったが・・・」


さすがに壮観。


山本長官は長門の艦橋から周囲を見回しながら、心からそう感じていた。


大鑑巨砲主義の人々が戦艦を信奉する気持ちもわからなくもない。



現にハワイ決戦の行く末は、戦艦同士の戦いに委ねらようとしているのだ。






「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第24話 饗宴」




夜の帳が下り始めているハワイ沖。


本来であれば周囲は寝静まり、波と時折跳ねる魚のみが音を立てるはずのその海域は、今雑多な騒音を巻き起こし
ていた。


集まりに集まった艦艇は両軍合わせて戦艦21隻、重巡12隻、他軽艦艇を含めれば三桁に届かんとしている。



「長官、全艦準備が整いました」


「そうか」


戦闘準備が完了したとの報告を受けた山本長官は、直に見えてくるであろう敵艦隊の方向へと目をやると「大和」のこ
とに考えをえぐらせ始めた。



(米海軍の最新鋭艦相手3隻相手に2隻撃沈、1隻撃破。大して自分の被害自体は軽微・・・か)



「最初から「大和」にそこまでの力があると知っていれば、真珠湾奇襲をやらずに済んだかもな」


「?何か仰いましたか?」


自然声が出ていたのだろう。


参謀から声をかけられるが、山本長官は軽くそれを受け流しながら



(なんにせよ、「大和」が残っているのであればここで戦艦を全て失っても言い。何としても敵艦隊に止めを刺さなくて
は)


国力に劣る日本からあえて望む、短期的消耗戦への決意を固めていた。









「撃ち方始め!!」


「発射!!」


少し前に太陽がその姿を水平線の下へと隠し、周囲を覆う闇が徐々に勢力を増している時間。


連合艦隊と米海軍の戦艦同士の激突が始まった。



第一次大戦以降、お互いがお互いを仮想敵国として整備して来た戦艦群。


何度も何度も両海軍の軍人達の頭の中で行なわれたであろう戦いが、ついに始まったのである。



戦いは比較的優速な連合艦隊陣形の主導権を握り、連合艦隊が相手の殲滅を狙ったため同航戦の形が取られた。



連合艦隊は速度の違いを考慮し、金剛型4隻を本隊から切り離し別働隊として分離行動。



対して米艦隊側はどの艦も速度に大した違いがないことから、全艦一列縦隊の形を選択していた。




既に活発な戦いを始めている水雷戦隊を尻目に、悠然とお互いの距離を詰めた両者は距離3万からの砲撃を開始。


戦いは一気に壮絶さを増した。



何と言っても、21隻の戦艦から繰り出される砲弾は一分間に優に100tを超える。


それだけの砲弾が、ただひたすらに相手へと撃ち込まれるのである。



そして、見る者全てを圧倒する戦いは米艦隊に有利に展開した。



元々戦艦の数で1隻勝る上、16インチ砲搭載艦の数も連合艦隊の2隻に比べて3隻と優位性を持っている。


また、米艦隊を挟むようにして戦いに参加するはずであった金剛型4隻が米艦隊の水雷戦隊に邪魔され、戦闘位置へ
到達出来なかったのである。



連合艦隊本隊の先頭を走っていた「長門」は、「コロラド」を始めとする米16インチ砲艦から集中攻撃を受け戦闘開始
後暫くして激しく炎を上げ始めた。





ズーン!


どうやらさらなる被弾をしたらしく、「長門」の船体は激しく揺さぶられる。



「くぅっ!!怯むな、撃ち返せ!!」


戦闘指揮所で叫ぶ山本長官の声を待つ事無く、「長門」からもいまだ無事な6門の主砲を打ち返すが艦が火災に襲わ
れている状態では命中率は低くならざるを得ない。


結果、折角打ち返した主砲弾は虚しく海面を叩いたに終った。



「他の艦はどうなっている?」


「正確な所はわかりませんが、敵1番艦、5番艦に損害を与えた模様です。しかし、こちらも「日向」と「山城」がかなり損
害を受けているようです」


戦闘中に敵味方の損害を正確に把握することは極めて困難である。


旗艦の司令部であっても、曖昧な情報から判断するしかないのだ。



「金剛型はどうなってる?」


「まだ敵戦艦との戦いには突入で来ていないようです」


報告を聞く山本長官の顔が険しくなる。



(現段階では6対11・・・もつか?)



ダーン!!



しかし、厳しい戦況は思考の渦に沈むことを許さない。


この日何度目かの衝撃が「長門」を襲い、山本長官の身体が大きく揺さぶられた。





実質的には2対1。


この状況下において、連合艦隊の戦艦は次々と被弾、損害を増していった。



最も優速な金剛型の速力を活かし、米艦隊を挟み撃ちしようとした連合艦隊は、米水雷戦隊の勇敢な戦いによってま
んまと各個撃破のチャンスを与えてしまったのである。



改装を経て重防御となっていた「長門」と「陸奥」こそよく耐えたものの、「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」はそこまでの防御
力を発揮出来ず、次々と戦力を削られて行った。



最初に戦列を離脱することになったのは、20発以上の砲弾を受けて全ての主砲が沈黙した「日向」であった。


続いて「山城」も離脱。


辛うじて砲撃を続けている「長門」や「伊勢」の被害もかなり大きくなりつつあった。




一方数的優位を活かし2対1での砲撃を続けている米艦隊の損害は比較的少なく済んでいた。



とはいえ、月月火水木金金と言われる厳しい訓練を行い、また夜戦の訓練もこなしている連合艦隊が相手である。


全くの無傷、というわけにはいかない。



特に「長門」に16インチ砲の砲撃が集中したため、比較的余裕を持って砲撃を行なえた「陸奥」の命中率は高く、狙わ
れた「メリーランド」は激しい火災に見舞われ、戦闘力は維持しているものの一時的に戦線を離脱する事を余儀なくされ
ていた。


またこの海戦に参加している戦艦の中で最も古く、第一次大戦前に建造された「ニューヨーク」「テキサス」の2隻が「山
城」を離脱させる代償として戦闘力を失っていた。




この段階で無傷で戦っている戦艦は双方合わせても「ウェストヴァージニア」「ペンシルヴァニア」「ミシシッピ」「ニューメ
キシコ」の4隻のみ。


連合艦隊側からは「日向」「山城」、米艦隊側からは「ニューヨーク」と「テキサス」とそれぞれ2隻が離脱。


「長門」「伊勢」「アイダホ」「アーカンソー」が既に中破判定を受ける程の被害を蒙っていた。



数字だけを見れば数的劣勢にある連合艦隊側が善戦しているようにも見えるが、米艦隊側の離脱戦艦は最も老朽艦
の2隻であり、また時間を置けば16インチ艦が再び3隻揃う点を考えれば、米艦隊が圧倒的優勢にあると言って間違
いではない。



そしてとうとう「長門」が離脱を余儀なくされ、海戦の決着が見えたと思われたその時、戦いは1度目の転機を迎えた。


連合艦隊が待ちに待った金剛型巡洋戦艦4隻が、ようやく米戦艦を射程に納めたのだ。




「やっと来たか!これで今までの劣勢を跳ね返せる!!」


「長門」の離脱により指揮を継いでいる「陸奥」は、そんな期待に沸いた。


金剛型は狙い通り、そして期待通り米艦隊を挟み撃ちする位置取りに成功していたのだ。




しかし、そんな連合艦隊の期待は虚しく撃ち砕かれた。



確かに金剛型の登場で、本隊の受ける砲撃の量は大幅に減少した。


また、数的劣勢が緩和したことで一方的な攻撃を受けることもなくなった。



だが、そこまでであった。



速力に勝るとは言え、直接的な戦闘力はそれほど高いとは言えない金剛型には戦況をひっくり返すまでの力はなかっ
たのである。


そして、圧倒的優勢にあったためか、それとも当然予想された事態であったためか、米艦隊の司令官の対処は冷静で
あった。



残る16インチ砲搭載艦である「コロラド」「ウェストヴァージニア」を「陸奥」へ。


そして無傷の「ペンシルヴァニア」「ミシシッピ」を始めとする4隻を金剛型の対処へと割いた。


「伊勢」「扶桑」は既にかなり傷付いているため、残る2隻でも充分対処可能であった。



つまり、金剛型は遅すぎたのだ。





「勝ったな」


「コロラド」の戦闘指揮所で、米海軍の司令官が薄く笑みを浮かべていた。


つい今しがた、残っていた敵の伊勢型が離脱を開始したとの報告が入っている。


また長門型、「陸奥」と思われる、から放たれる砲弾もその量を減らしている。


このまま行けば離脱するのも近いだろう。



そうすれば残るは金剛型4隻と扶桑型1隻。


離脱していた「メリーランド」も間も無く戦列に復帰出来る、との報告が来ている。


戦艦同士の戦いの決着は見えた。



(どうやら前衛部隊同士の戦いでは劣勢にあるようだが、なに、戦艦さえ片付けば何とでもなる。結局戦いを決めるの
は戦艦なのだ)



(空母では負けたようだが、ハワイは俺の戦艦部隊が守ってやる。そうすれば俺の出世も・・・)



戦いが続く中、1人笑みを深める司令官の下に新たな報告が舞い込む。



「報告します。残っていた長門型が撤退を開始しました!」


「よし!金剛型は「ペンシルヴァニア」共に任せておいて、我々は長門型に止めを刺すぞ!」



ここに至り戦い、少なくとも戦艦同士の戦いに関して、は掃討戦へと移り始めた。


誰もが米艦隊の勝利を感じ、そして連合艦隊の敗北が脳裏に浮かんでいた。



金剛型4隻を率いる司令官は退却のタイミングを見極めようとし、撃ち返すことが出来なくなった「陸奥」の乗組員達は
悔しさに歯を噛み締めながら、懸命に延命を図る。


そして、ようやく米海軍の水雷戦隊の壁を突破した連合艦隊の水雷戦隊は、せめて一矢報いようと決死の覚悟を決め
ていた。



戦闘力を保っている米戦艦は手柄を増やそうと追撃ムードに艦内が沸き、劣勢だった水雷戦隊は反撃へと転じる。




そんな終焉を向かえ始めた戦場全体を





ズダダーーーン!!!





一際大きな爆音が揺すぶった。



戦場にいた全ての人間に戦いを忘れさせ、そして目を奪ったその音の発生源では



「ば、馬鹿な・・・「メリーランド」が・・・」



戦列復帰を間近にしていた「メリーランド」の真っ二つに裂けた船体が、天を向きながらあっという間に沈んで行った。


文字通りの轟沈である。




「何故だ!あそこに敵艦隊は居ない筈!潜水艦にでもやられたというのか!!」


有頂天の極みにいた米艦隊の司令官は、思いも寄らぬ展開に思わず叫び声を上げる。




そんな司令官の考えが間違っていることは、その直後に皆の目に見える形で示された。





人々が見たものは18の巨大な発砲炎。




異様に静かに、そして長く感じた数十秒。




何かが命中して、一瞬船体が持ち上がったかと思うと、先ほどの再現のように真っ二つに裂けあっという間に波間に姿
を消す「テネシー」。




暗闇から徐々に見え始める巨大な影。




そう















(ハワイ沖海戦の幕を開けたのが僕達ならば、下ろすのもまた僕達の仕事)



(危ない所でしたが、何とか間に合いましたね)










「大和」「武蔵」が再び戦場に姿を現したのである。
















<次回予告>


連合艦隊はまだ終らない。


再び戦場に姿を見せた「大和」「武蔵」。


開始される反撃。



ハワイ沖海戦の幕はようやく下ろされようとしていた。





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第25話 饗宴・終幕」






太平洋の歴史がまた1ページ。






(全ては僕の予定通り)










〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうも、「やまと」で御座います。



ハワイ決戦もいよいよ終わりが近付いています。



次は・・・何処の戦いだろう(悩)



ミッドウェイ終了まで8話。


改装&輸送作戦で9話。


ハワイ決戦がこれで7話め。



・・・おや?


予定では後2話でハワイ終了ですから・・・


ハワイ決戦=輸送作戦なのか・・・



・・・そ、それではまた次回お会いしましょう〜。追伸ネヴァダが海戦に加わっていることへの細かい突込みはなしで(汗)








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