序章 今に至るまで



プロローグ1

神奈川県 横須賀

ここに、二隻の戦艦が記念艦として係留されている。

一隻は連合艦隊の旗艦として、日本を下手をすれば植民地となりかねなかった日本を救い。

もう一隻は、連合艦隊の旗艦として人類史上最大の大戦において、幾度となく勝利を収めた。

一見、どちらも栄光に包まれた艦に見える。

だが、後者は最後の大海戦の勝利と引き換えに、その存在意義を失った。

敵艦の装甲を撃ち破る、その主砲も

敵の攻撃をはじき返す、その装甲も

この大戦の勝利と引き換えにその無用の長物と化した。

その名は『三笠』。

それは、栄光の艦名を受け継いだ戦艦。

国の勝利のために己の存在を否定した、哀しき戦艦。








プロローグ2

1922年のワシントン軍縮会議において、日本は米英、特にダニエルズ・プラン艦16隻を保有する米国に対して八八艦
隊の建造を強く望んだ。

同じく建艦競争に遅れを取っていた英国の支援もあり以下の条約を締結するに至った。

日本は扶桑、伊勢級、加賀級をを廃艦する。

日英は排水量40000トン以下で10隻の戦艦の建造を許可する。

日本への未完成の天城級の空母への改装を認める。

条約の期間を1940年までとする。

(これを除く条件は史実どおり)

アメリカ側は、当初、天城級戦艦の廃艦も要求していたものの、何隻かの戦艦を廃艦させた上で戦艦を新たに10隻作
らせることで、日本経済に打撃を与えることが目的だったため、廃艦よりも金のかかる改装を許可したのだった。

また、扶桑、伊勢級の廃艦に関しては、日本側もとある奇策を有していたため、これを認めた。




建造数が4隻減少したものの、アメリカに対し約7割の戦力の保持が認められた日本は早急に建艦計画の練り直しを
開始した。

が、しかし、ここで行き詰まった。

当初は、対46センチ砲防御の装甲を施した船体に40センチ砲を搭載した艦を建造し、条約の期限切れを待って46セン
チ砲に換装する予定であった。

しかし、対46センチ防御の船体を作るのに排水量40000は少なすぎたのである。

対40センチ防御の巡洋戦艦である赤城級でさえ、40000トンを超えるというのに……

これにより、46センチ砲戦艦の建造は不可能と判断した連合艦隊内は真っ二つに分かれた。

もっとも、ごくごく少数派ではあったが、空母への改造を支持したものもいる。

40センチ砲八門、速力30ノットの高速戦艦か、

それとも、40センチ砲十門、速力25ノットの低速戦艦か。

議論は紛糾し、どちらも一歩も譲らなかった。

そんな中、ある男が持ち出した提案で事態は一変する。

『アメリカ軍はパナマ運河を渡るために、40センチ以上の砲は積めない。ならば、装甲は対40センチ砲防御で十分では
ないのか?』

後に『対40センチ以上装甲不要論』と呼ばれる、新たな日本軍の戦術理論が誕生した瞬間であった。

開発コンセプトは即座に決まった。

長門級よりも若干厚い装甲、25ノット以上の速力、二連装四基より軽量ですむ三連装三基の主砲塔。

この後、海軍内は下らない事でもめた。

この艦の艦種についてであった。

戦艦と呼ぶには攻防のバランスが取れていない。

巡洋戦艦と呼ぶには速度が遅い。

悩んだ挙句に、重巡洋戦艦という謎めいた艦種名が付けられたのである。

何はともあれ、この艦は連合艦隊栄光の戦艦『三笠』の名を受け継ぎ、三笠級と名づけられることになる。





この決定は他の艦の運命をも変えた。

条約の期限切れと共に行われる主砲の換装。

これが実施されれば、日本国内には大量の40センチ三連装砲塔が余る事になる。

お世辞にも物資が有り余っているとはいえない日本において、30基の主砲塔は貴重なものである。

長門、陸奥を改装しても、24基まだ余る

そこで、矢面に立ったのが、天城級4隻だった。

完全な空母として改造されるはずだった天城級は前部の二基の主砲塔はそのまま、そこから後ろを空母に改造したの
だ。

無論、条約の期限切れまでは、ダミーの20センチ砲を搭載するが、改装が終了すれば長門、陸奥の改造に使用した
物も含め14基を使用することが出来る。

こうして、赤城級は世界初の航空戦艦(日本側は、打撃空母と呼称)として、誕生することになる。

ただ、当然のことながら、搭載機数は100機から66機に激減した。

搭載機数の減少に伴い、航空母艦の再設計も行われた。

ワシントン条約の制限内で建造される中型空母、飛龍級は速力の5ノット落とし、搭載機数を84機に増やし、また、1941
年6月までに建造する、日本初の大型正規空母、翔鶴級も速力を5ノット落とし、搭載機数を100機に増やした。





プロローグ3

1941年3月2日 広島県 呉 海軍ドック

その日、連合艦隊司令長官嶋田繁太郎大将は、改装中の戦艦『笠置』の視察に訪れていた。

『笠置』は第一及び第二主砲塔の改装を終え、第三主砲塔の換装を行っていた。

連合艦隊司令長官の視察を前日に伝えられ、徹夜で周囲を片付けた工員達には疲労がたまっており、あくびを噛み殺
しながら作業をする工員の姿もちらほら見られた。

そして、嶋田繁太郎大将が視察を終え帰ろうとした、午後三時過ぎ、悲劇は起きた。

温かい日差しにもと、うつらうつらとしながら操作を行っていたクレーン要員が、操作をミス。

外したばかりの40センチ砲塔が嶋田繁太郎大将に直撃したのだった。

無論即死。

就任から僅か10日、もっとも任期の短い連合艦隊司令長官であった。





1941年4月18日 広島県 呉

連合艦隊旗艦 重巡洋戦艦『三笠』艦長室

――連合艦隊司令長官になったはいいが、主力が戦艦とはな

一番最後まで工事の長引いた三笠級八番艦『笠置』の主砲換装が終了したのに合わせ、今日、新たな連合艦隊司令
長官が任命された。

その名は、大森啓二大将。

翔鳳艦長、天城艦長、第三航空戦隊司令長官を歴任した、航空畑の人間である。

彼が、連合艦隊司令長官に選ばれたのは、実力もさることながら、その派閥にあった。

当時、連合艦隊内は、航空優先主義者と大艦巨砲主義者の二つの派閥に分かれていた。

大森は、航空機は戦艦より強いという航空優先主義者ではあったが、対米戦においては、大艦巨砲を貫くべきだと主
張していた。

航空優先主義、大艦巨砲主義、どちらの側にも属すため、一番波風がたたなくて済むだろうというのが、任命の理由だ
った。

この人事は将官には概ね好評だったが、佐官や尉官の中には大森の事を、イソップ童話から『コウモリ長官』と影でさ
さやく者もいた。

そんな、大森は式典を終えた後、長官室に一人篭り、昨晩、海軍軍令部総長、山本五十六大将がが打ち明けた作戦
について考えていた。




しかし、山本さんも困った人だ、現有の航空戦力でハワイを奇襲しようなどとは……

確かに、アメリカの戦艦部隊は壊滅するだろう。

そのかわり、アメリカは航空機が戦艦に勝る事を知るだろう。

そうなれば、一年、多く見積もっても一年半もあれば、アメリカ軍は新鋭の空母群を建造して反撃に出てくる。

そうなれば、建造しやすい空母だ。あっという間に、戦力は追いつき追い越されるだろう。

いや、その前に、機体、操縦士共に消耗を埋める事が出来るかどうか怪しいものだ。

その点において、戦艦は優秀だ。

いかにアメリカといっても、建造に時間がかかる上に、砲弾には操縦士はいらない。

「もっとも、はなから10隻の空母を作り、赤城級をあんな色モノには改造しなければ出来たかもしれないが」

長官室の窓から、眼下に居並ぶ9隻の三笠級を見ながら呟く。

……年内の開戦は避けられんな

いすに座ったまま天井を仰ぎ見た。

二国合わせれば、日本の何十倍もの工業力を持つ米英との開戦は、正気の沙汰とは思えない。



この戦力差でアメリカに勝つ方法

一つは短期決戦で、ハワイまでを一気に占領する

「簡単にはさせてくれないだろうな」

もう一つは、米国の戦意を殺ぐ

たとえば、連戦連敗で、死者や負傷者数が多くなれば、世論は講和へと流れるだろう

国民の意思で、国が動くそれが合衆国

「それも、アメリカの工業力を考えると、厳しいな」

如何に連戦連勝であっても、我が方にも被害は出る。

それに対して敵は、失った数よりも多くの数を補充して攻めてくる。

それを繰り返していれば、我が国はいずれ負ける。

戦意を殺ぐ方法は、もう一つある。

米本土を攻撃する。

「これは、もっと難しい」

本土を攻撃するには、アメリカ海軍の大西洋艦隊までも撃滅する必要が出てくる

何よりも補給が続かない

アメリカとの戦争、それを考えた時点で、戦略的には敗北しているのだ。

「ならば、戦術的にだけでも勝たねばな」







重巡洋戦艦『三笠』
48000トン
全長240m
全幅35m
水平装甲210mm 舷側装甲320mm
速力25ノット
46センチ3連装3基
12.5センチ高角砲2連装10基
25ミリ機銃40門
搭載機数 水偵3機

同型艦 妙高 浅間 早池峰 那須 筑波 伊吹 笠置 岩木 穂高



打撃空母『天城』
排水量38000トン
全長250m
全幅30m
速力29ノット
40センチ3連装2基
12,5センチ単装砲16基
25mm機銃40門
搭載機数 66機

同型艦 赤城 愛宕 高雄







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