「Shit!本国の連中は一体何を考えているんだ!!」


たった今受け取った報告書が机に勢い良く叩きつけられ、部屋に大きな音を響かせる。



大英帝国領セイロン島トリンコマリー。


とある建物の一室に、英東洋艦隊の首脳陣が集まっていた。



昨年の9月から10月にかけて行なわれた日本によるハワイ攻略戦。


その戦いで一線級水上戦力を壊滅させられた米国は、新造艦により戦力が回復するまでの時間を稼ぐため、英国にイ
ンド洋方面から日本に圧力をかけることを要請。


要請を受けた英国は、大西洋での米艦隊の不足を補うために、補助艦艇の多くを船団護衛に割く必要性があったが、
欧州での敵対国家であるドイツ、イタリア両海軍がここまでにかなり弱体化していたため、大型艦にはある程度の余裕
がある。


そして、米国からの支援がなければ既に戦争が成り立たないことから、渋々ながらもこれを承知した。



そのために、英国は1度東アフリカまで下げていた4隻の旧式戦艦((「レゾリューション」「ラミリーズ」「ロイヤル・サブリ
ン」「リベンジ」)を再びインド洋に展開させると共に、本国艦隊から「レナウン」を派遣。


さらに修理の完了したばかりの空母「インドミタブル」や竣工を急いだ工作空母「ユニコーン」、そして旧式化し練習艦寸
前であった「アーガス」までも派遣して航空戦力を整えた。


これに、元々インド洋にあった戦艦「ウォースパイト」空母「イラストリアス」を加えれば戦艦6隻、空母4隻の大艦隊が出
来上がる。



英国にはこの他にも、KGV級戦艦4隻や唯一の16インチ砲艦「ネルソン」、イラストリアス級空母2隻など有力艦だけ
でも充分な数の戦力を有していたが、それは英国周辺や地中海、さらに米国の分も奮闘が必要な大西洋方面などに
戦線を抱えていたため、インド洋に派遣出来る艦隊はこれが限界であった。



とはいえ、戦艦6隻空母4隻という艦隊は独、伊、仏、蘇などの他の欧州列強海軍と比較すれば遜色のない規模の艦
隊である。


海洋国家たる日米英の3国の海軍力があまりに巨大過ぎるだけのことなのだ。




「なぜ「ネルソン」やKGV級を送ってこないんだ!こんな戦力で日本に立ち向かえると、本国の連中は本気で思ってい
るのか!!」


「大西洋に思うように米国の船が出てきませんからね。本国も大変なのでしょう」


「そんなことはわかっている!」


司令官は苛立ちをぶつけるかのように、荒々しく椅子へと腰を下ろす。


戦艦が6隻あるとはいえ、それらは全て第一次大戦型の旧式。


ある程度改装されているとはいえ、やはり時代遅れの感は否めない。



「しかし、船団護衛に必要だと補助艦艇が次々と本国へ戻され、今ここに残っているのは2隻の軽巡と6隻の駆逐艦に
過ぎん。これで主力艦がこれではな・・・」


「それに関しましては、一応オーストラリア海軍から「オーストラリア」と「キャンベラ」が回されることになっていますが・・」


「足りん!大体艦隊が余りにも歪ではないか!」


日本が米国に仕掛けている通商破壊は、ここにも影響を及ぼしていた。


米国が、一部英国へ供与している護衛空母を除けば、艦艇の多くを太平洋での使用を余儀なくされ、大西洋での船団
護衛はほとんどが英国の役割とされている。


その結果、英国は苦しいやりくりの中から主に軽巡以下の補助艦艇を船団護衛に継ぎ込まなければならず、各部隊は
補助艦艇の不足に悩まされていた。



日本へ圧力をかけるべく行動を開始している東洋艦隊でもこの有様なのだ。


ちなみに、重巡は「オーストラリア」「キャンベラ」「デヴォンシャー」「サセックス」。



旧式戦艦6、空母4、重巡4、軽巡2、駆逐艦6、艦載機151機。


これが現在の東洋艦隊の全戦力であった。



「日本海軍もハワイでかなり消耗しています。我々もこの戦力でやるしかないでしょう」


「あれからもう半年だ。いつまでも消耗したままとも思えんがな。それに諸君も「Y情報」は聞いているのだろ?」


Y情報。


何の事はないが、「大和」「武蔵」に関する情報である。


ハワイ戦後、徹底的に分析された「大和」「武蔵」の情報は英国にも齎されていた。



英国がインド洋で圧力をかけ始めても、連合艦隊の機動部隊が相変わらずハワイを拠点に通商破壊に精を出してい
たことから、米英は日本がインド洋を無視しない限り「大和」「武蔵」が出てくると読んでいたのだ。


もちろん2隻だけでなく、その後ろには他の艦艇も来ると思われていたが。



ちなみにY情報と言っても、あくまで常識の範囲で推測されているため、それほど多くのことが明らかになっているわけ
ではない。


米軍に判断しえた事は、



1.最大速力35ノット程度と見られ、少なくとも30ノット程度の速力で1日半動き続けることが出来る航続力を持つこ
と。


2.主砲は恐らく18インチ程度であり、新型の16インチ砲でも致命傷にはならないだけの装甲を有する。


3.レーダーを利用しているかは不明だが、一般的な艦の5倍以上の命中率を誇る。


4.対航空機に特化しており、戦闘前にこちらの航空戦力を消耗させる囮としての役割を持っている。



程度のことであった。


もっとも米軍の頭を悩ませた事は、電波技術に優れていない日本が高い命中率を誇っている事ではなく、その圧倒的
な対空砲火であったようだ。


撮影された「大和」の写真を見せられ、また上記の能力を聞かされた米国のとある造船官は



「同じ艦を造れる自信はあるか?」


と聞かれ、即座に



「私に「どんな船でも造れる魔法」を教えてください。それが出来ない場合には、私には無理と答えるしかありません」


と答えたという。



これを聞いた米軍首脳は、



「あの国の造船技術は、魔法と見間違うほどに進んでいるのか」


と嘆いたという。



確かに軍艦に関する限り日本の造船技術は世界トップレベルにあったが、そこまで言われては逆に日本が困ってしま
う。


連合艦隊こそが、船魂のいる艦の造り方を1番知りたがっているのだ。



反対に、日本も米国に言ってやりたいところであろう。



「貴様等船作りすぎ!魔法でも使っているのか!」


と。




閑話休題。





「情報によれば大和級の戦艦が2隻シンガポールを回ったらしい。我々はいよいよ米軍を苦しめた敵と戦わねばならぬ
というわけだ」


この時、大和型戦艦の名前は既に世界中に知れ渡っていた。


理由は実に簡単。



ハワイ沖で勝利を収めたとは言え少なからぬ被害を出した軍部が、損害から国民の目を逸らすために、それまで秘密
にされていた「大和」「武蔵」を大々的に宣伝したのだ。


大本営らしく誇張されたその報道では、「連合艦隊の新型戦艦が2隻で戦艦10隻含む艦船47隻、航空機400機を撃
破」したことになっている。


現実がかなり現実離れしているため、誇張するにも困ったというよくわからない逸話も残るほどである。



もちろん、ここまで日本国内で大々的に報道されれば、他の国の耳にも入る。


しかし、あまりの現実離れさに、日米英以外の国では、まともに取り扱われなかった。




「当然その後からは他の艦艇も付いて来ているだろうが、我々はまずこの2隻を何とかしなければならん。そこで何か
いい案がある者はいないか?」


「検討通り、コイツらで挑むべきだと思いますが?」


司令官の言葉に、1人が机の上に置かれた幾つかの書類のうちの1つに目をやりながら発言した。



「確かに、コイツらならこの2隻の弱点を突けるだろうが・・・問題は・・・」


「それはやはり・・・を・・・するしか・・・」


「しかし・・・ことになれば・・・」


「最優先事項はインド洋の制海権です。そのためには・・・を・・・・する程度の・・・は・・・」


「それでは・・・を・・・すれば・・・・」


「ここで・・・するわけか?・・・・だな」



英東洋艦隊は手薬煉を引いて、「大和」「武蔵」を待ち構えていた。





「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第29話 奇策VS奇策」






(海〜海〜。やっぱりジッとしているより動いていた方がいいよね〜)





輸送船狩りから帰還してきた「武蔵」と合流した大和は、何故か御機嫌な気分で初めて訪れるインド洋を満喫してい
た。



日本を出てからおよそ1週間。


ここまでの「大和」「武蔵」の航海は当然ながら順調そのものであった。


既に東はハワイから西はシンガポールまでの範囲は、日本が制海権を握っている。


唯一それを崩すものがあるとすれば潜水艦であったが、常時30ノット以上で航海している2艦を捕らえられる潜水艦
は、よほどの幸運が齎されない限り無理なことであった。



「東洋艦隊の情報は入ったのか?」


「現在確認出来ているところは、新たにレナウン型巡戦と新型と思われる空母がそれぞれ1隻新たに加わっているよう
です」


そうは言っても、「大和」「武蔵」はこれから戦いに赴くのである。


高柳艦長以下乗員は英東洋艦隊の情報収集や作戦立案に追われていた。



今回の戦いは「大和」「武蔵」の2隻だけで戦いに挑まなくてはいけない。


いかに両艦が強力であろうとも、ハワイの時と違い他に頼れる味方はいない。


その快速を活かし、いつでも撤退出来ることに変わりはないが、「大和」「武蔵」の撤退は作戦の失敗を意味する。


責任の重さは一気に重大さを増していた。





(それにしても、東はハワイから西はセイロン。僕達も随分あちこち移動するな〜)





責任を感じていない奴もいるが。





(そうですね。ハワイの後にインド洋ですから、まるで1年前の機動部隊を再現しているみたいですね)



(1年前の機動部隊・・・そう言えばそうですね〜)





1941年12月真珠湾奇襲攻撃。


1942年4月セイロン島沖海戦。



確かに、日本が誇る機動部隊が辿った道筋と良く似た展開であった。


その時のインド洋の戦いでは、連合艦隊は損失艦無く空母1隻、重巡2隻を葬る戦果を上げたが、旧式戦艦5隻、空
母2隻を始めとする主力を取り逃すというミスを犯した。


そのため、結果としてインド洋の制海権は英国が保持し続けることになったのだ。



日本としては、今後米国との戦いに専念するためにも、今回は何としても英東洋艦隊を撃滅しなければならない。





(ということは、流れからして次の僕達の戦場は珊瑚海?)





1人外れたことに思いを馳せる大和はさておき、武蔵や高柳艦長以下乗組員達は改めて決心を固めていた。






しかし・・・






「おかしい・・・」





(おかしいですね・・・)



(いくら僕でもわかるぐらいおかしい・・・)





マラッカ海峡を抜け、アンダマン海を通り、ニコバル諸島を抜けても英東洋艦隊が姿どころか影すら見せない。


既に「大和」「武蔵」の両艦はセイロン島まで500キロの地点までやって来ており、その気になれば半日でセイロン島を
砲撃距離に納めるところまでやって来ていた。



両艦はあわせて12機積んでいる偵察機をセイロン島方面を重点的に飛ばし、英東洋艦隊の発見に全力を尽くして来
た。


にも関わらず、確かに全部で12機というのは充分な数とは言えないが、相手からの偵察機すら接触を確認出来ていな
い。





(既に私達の能力はある程度知られている筈。それなのに、ここまで何事も無く接近を許すというのはどういうことなの
でしょうか?)



(ですよね。セイロン島の向こう側にいるとすれば、見つけられないのもわかるけど、それじゃあ僕達を攻撃する前にセ
イロン島が攻撃されるし・・・)





さすがの武蔵も首を傾げ、大和も頭を捻り



「我々がトリンコマリーを攻撃している隙に全力で仕掛けてくるつもりでしょうか?」


「確かにトリンコマリーは湾状になっているが・・・軍港を1つ犠牲にするだけの価値があるとは思えん」


「大和」艦内でも議論が交わされていた。



なお今回の戦いでは「大和」「武蔵」の主砲弾に限りがあるため、セイロン島での目標は主要港である軍港トリンコマリ
ー、商港コロンボに限定されている。


そして、東から向かっている都合上、最初の目的地はセイロン島東側にあるトリンコマリーである。





(トリンコマリーに何かあるのでしょうか?)



(僕達を倒すための新兵器・・・ですか?)



(新兵器かどうかはわかりませんが、少なくとも私達をトリンコマリーまでやって来させる価値のあるもの。そう考えるし
かないと思います)



(ん〜・・・この時期の英国にそんな物あったかな〜?)





大和は何とか手掛かりと掴もうと記憶を辿るが、元々知識の少ない大和のこと、そんな都合よく出てはこなかった。





(トリンコマリーで何が待っているかわかりませんが・・・こうなると先にコロンボを叩くという手もあるかもしれませんね)



(なるほど)





すっかり聞き役になっている大和。


とはいえ、情報が少ない段階で武蔵からもそれ以上の考えは出てこない。


もちろん、大和もしかりである。



そこで、大和は武蔵の案を高柳艦長に伝えてみたが



「・・・いや、やめておこう」


高柳艦長は少し考えた後で、否定した。





(なして?)





「今回の作戦で有効な効果を得るには、トリンコマリー、コロンボ、そして英東洋艦隊全てを撃破しなければならん」


今回の作戦の究極的な目的が、インド洋における英国の制海権を揺るがすためのものであるから当然そうなる。


制海権を揺るがすだけであれば、英東洋艦隊の撃破だけでもいいように思われるかもしれないが、英国から見ればセ
イロン島が無事維持されている限り制海権の確保は比較的容易である。


艦隊を撃破して制海権を揺るがし、セイロン島の基地を破壊して制海権の復活を困難にしてこそ、長期的な戦略効果
が生まれるのである。



「どうせ行かねばならんのなら、こちらが全力を発揮出来るうちに行った方がいい」





(なるほどね)





「そういうわけで、こちらも少し作戦を変更するぞ」





(昼間に突っ込むことにするの?)





「・・・貴様相変わらず妙なところで鋭いな」


当初の予定では、トリンコマリーからの航空機の射程外から夜間に一気に突撃をするという、極当たり前の作戦が立て
られていた。


いかに「大和」「武蔵」の対空砲火がずば抜けて優れているとはいえ、戦わないで済むならそれにこしたことはないので
ある。



しかし、高柳艦長は参謀達との議論の結果、この作戦の変更を行なった。


何があるかわからない以上、こちらが全力を出せる状態で戦いに望んだ方がいい。


航空機からの攻撃をあえて受ける覚悟で、昼間に突撃することにしたのだ。


敵の策を堂々と正面から受け止め、力で跳ね返そうというのである。



力技。



簡単に言えばそういうことである。


もっとも、元々「大和」「武蔵」だけで作戦を遂行しようという時点で充分すぎるほど力技ではあるが。



ちなみに、鋭い指摘で高柳艦長を唸らせた大和であったが





(作戦に関しては夜突っ込むということしか覚えていなかった、とは言えないよね・・)





内心でちょっぴり汗を浮かべていた。


夜突っ込む、それだけの作戦を変更するとすれば夜が昼になる以外ない。


大和の脳内では、実に単純な考えがなされていたようだ。


そして



(どうせそんなことだろうとは思ったが・・・こいつ口に出していることに気付かんのか?)



高柳艦長が声に出さず飽きれていた。
















<次回予告>


「大和」の巨砲が大地を揺らす。


「武蔵」の巨砲が全てを壊す。


繰り出される英国の刺客。



乾坤一擲の一撃が「大和」へと振り下ろされる。





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第30話 嵐の中の静けさ」






インド洋の歴史がまた1ページ。






(最近僕と武蔵さんのラブラブ話がないぞ〜!)










〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうも「やまと」で御座います。


米艦隊に比べると、規模が小さいと言わざるを得ない英東洋艦隊。


その差を埋めるのは、「大和」を分析した情報。



・・・戦術がおかしいとかの批判を聞き流しつつ、次回に続きます(汗)



それではまた次回お会いしましょう〜。








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