(・・・で、真っ向勝負しに来たのはいいんだけど)





セイロン島沖30キロ。


雲1つなく、太陽の陽光が周囲を照らす。


その太陽の陽光を乱反射する海面は、存在する2隻の巨大戦艦に似合わず僅かに波立つのみ。



そう、「大和」と「武蔵」には未だに何も起こっていないのである。








「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第30話 嵐の中の静けさ」





軍港トリンコマリー。


最も長い部分で20キロ程度の広さを持つ、楕円形の湾に存在している港である。


最大射程42キロを誇る「大和」「武蔵」からすれば、最深部までこそ届かないものの、沿岸部は既に射程圏内である。


にも関わらず、英東洋艦隊はいまだに姿形を見せていない。





(私達を引き付けておいて集中攻撃してくると思ったのですが・・・ここまで攻撃がないというのは、とういうことなのでしょ
うか?)


(ですよね〜。もう攻撃出来ちゃうのに、飛行機すら飛んでこないなんて・・・)





ここまで一気に突っ込んできた「大和」「武蔵」であったが、あまりに姿を見せない敵に警戒心を強め、自然脚が止ま
る。



「敵艦発見の報はまだ入らんのか?」


「今の所はまだ。ただ先ほど2番機が連絡を絶ったという報告が入っています」


戦闘指揮所でもセイロン島が近付いてからは、盛んに偵察機を出すなどして情報収集に努めていたが、いまだ有力な
情報は得られていなかった。



「何?・・・ということは、その辺りに敵機が入るということか」


「事故の可能性もありますが・・・」


さらに偵察機を出すべきか。


いや仮に敵機が居たとしても、それが陸上機なのか空母のものかは不明だ。


とすると、これ以上ここでウロウロしていても時間の無駄か。



どうする。


・・・英空母と陸上機を合わせても300機には届かない、か。


ならば



「仕方ない、敵の動きは不明だが攻撃を開始するしよう」


考えた末の、高柳艦長の幾分控えめな攻撃命令を機に、取り立てて異論のない「大和」「武蔵」が行動を開始した。



少しでも無駄弾を減らすために、正確な砲撃が出来るように弾着観測機が飛び立つ。


そして、対地攻撃用にと連合艦隊用意した必殺の3式弾が初お目見えとばかりに派手に火を噴いた。





(たまや〜!!)





1つの砲弾に組み込まれた千にも及ぼうかという小さな火球が地上付近で飛び散り、直径300メートルを越す炎の網
を地上に被せる。


地上を走った18の炎の網に捕らわれた地上の建造物がたちまちのうちに火に包まれた。



2射、3射。


「大和」「武蔵」から砲弾がは放たれる度に、英国のインド洋での制海権を支えてきた軍港が、次々と単なる瓦礫の山
へと姿を変える。



4射、5射。


着実にトリンコマリーから軍港としての機能を奪っているにも関わらず、「大和」艦内での緊迫感が高まっていく。



6射、7射。


弾着観測機が伝えてくる情報によれば、今しがたの砲撃で廃墟と化した飛行場には一切の機体が見当たらない。



8射、9射。


事前に機体を退避させているということは、英東洋艦隊の手にはこちらを攻撃してくるだけの戦力が残っていることにな
る。



いつ来るのか。


艦砲射撃を続けながらも、「大和」「武蔵」そして乗組員一同周囲への警戒をさらに厳重なものへとしていた。





それから40分。



「大和」「武蔵」からは既に合わせて500発以上の3式弾、徹甲弾がトリンコマリー周辺が打ち込まれた。


今回の作戦で用意された両艦の主砲弾は、増設された弾薬庫含めて、詰めに詰めて3600発。


うちトリンコマリー軍港破壊用に割り当てられたのはおよそ1000発であるから、半分強を使ったことにある。


もっとも、それに見合うだけの戦果は上がっており、海岸近くの軍事施設の大半は瓦礫と化している。





(で・・・残ってる施設も壊したいんだけど・・・)



(さすがに少し躊躇いますね・・・)





砲撃を続けながら徐々に海岸へと近付き、現在両艦は海岸から約10キロの距離にある。


湾の奥地への攻撃を行なおうとすればさらなる接近を必要とし、最終的には湾内への突入が要求されるだろう。



しかし、こちらを攻撃してくる戦力を有している英国側の動向が掴めない状況で、行動の制限される湾内への突入はさ
すがに躊躇われる。





(でも、なんで攻撃してこないかな〜?ひょっとして本気でセイロンを見捨てるつもり・・・とか?)





「いや、さすがにそれはないだろう。セイロンを失えば英国はセーシェル諸島まで引かざるを得ない。そうすれば西イン
ド洋はともかく、東インド洋の制海権を維持出来まい」


「大和」艦内を含め幾度となく出された疑問は、その度に出される同じ結論へと達し、現状を打開することはなかった。





(ん〜・・・僕もそうは思うんだけど・・・な〜んか忘れているような気がするんだよね〜・・・)





それも何か重要なことを。



実はシンガポールを過ぎた辺りから、大和はインド洋を攻略するに当たり何か重要なことを忘れている気がしていた。


一応大和も日本のためを思っているので、何とか思い出そうと幾度も試みたのだが、ある時は





(そういえば、大和さんは趣味とかあるんですか?)



(もちろんです!実は僕は・・・)





武蔵に話し掛けられたためにあっさりと中断され、またある時は





(にょを〜!あれは鯨ではないか〜!!)





たまたま鯨を見かけたためこれまたあっさりと放棄され、さらにまたある時は





(・・・ま、いっか。何か忘れてたとしても、本職である高柳艦長が悪いんだし)





何か間違った結論へと達していた。



基本的に、どころか身体の隅から隅まで「戦艦」である船魂に、一体どんな趣味があるのか激しく気にはなるところであ
るが、作中では触れないでおく。







(ん〜・・・何か嫌な予感もするし、今日のところはこの辺で・・・・というわけにはいかないよね?)





「当たり前だ。ここまで来て、以前のように画竜点睛を欠くをわけにはいかん」


何時も通り大和の言葉を高柳艦長が一喝したところで、覚悟を決めた「大和」「武蔵」が再び動き出す。


が、直ぐに両艦とも動きを止めた。



「貴様等!止まってどうする!!」


そして怒られた。





(おおっと、そうだった)





再び動き出した「大和」、そしてそれを見た「武蔵」も慌てて行動を再開する。





(私としたことが、ついボーっとしてしまいました・・・)



(・・・よく考えたら、武蔵さんには高柳艦長の声が聞こえないじゃないか。ということは怒鳴られるのは僕だけ?)





どことなく納得のいかない気がした大和であったが





(でも、考えて見れば怒鳴られるような真似をするのも僕だけか・・・)



(・・・どうかしましたか?)



(あっ、いえ、何でもありません)





結局自業自得かと、額に汗をかく羽目となった。


しつこいようだが、額がどこかは気にしてはいけない。





(でも考えて見れば、僕達もたった2隻でこんなところまで・・・よくやりますよね)



(どうしたんですか、突然?)



(いや、だって前回行なわれたインド洋作戦って空母5隻を筆頭に来てたじゃないですか。それが今回は僕達2隻だけ
なんて山本長官も何を考えているのやら・・・)



(それだけ私達が期待されているわけですから、仕方ありませんね)





「おい」





(それはそうでしょうけど・・・ひょっとしたらいつか大西洋にまで送られたりしちゃったりなんたり)



(独逸に私達を整備出来る港湾設備があればそれもあるかもしれませんね)



((冗談で言ったんだけど・・・武蔵さんもたまにわかんないよな〜))





「おい!」





(僕としては、どうせ行くなら北極海にでも行ってオーロラでも見たいですね〜)



(私は寒いのはちょっと苦手です・・・)



(ええ!?そうだったんですか!?)





「貴様等いい加減にしろ!!」


武蔵の新たな事実を知った大和が上げた驚きの声は、直後響き渡った高柳艦長の怒声に一瞬にしてかき消された。





(と、突然大きな声出さなくても聞こえるのに・・・)





にょわん、にょわん、にょわん。


突然の大声に大和の脳が激しく揺さぶられたる。


自分の体内で大声を出されるというのも、中々出来ない体験である。


したい人もいないであろうが。



高柳艦長の声は隣りを走る武蔵にも聞こえたらしく、武蔵も身を縮こまらせていた。



「貴様が俺の話を聞かんからだろ」





(い、いや、聞かなかったというよりは、聞こえていたけど無視していただけで)





「なお悪い!」


高柳艦長の頭からは、怒りのあまり煙が噴出しそうな勢いである。





(だってさ〜・・・)





「だって、なんだ?」





(むさいおじさんより武蔵さんと話していた方が楽し・・・グハッ!)





パン!パパン!!パンッ!!!


ついうっかり本音が零れた大和の艦内で、高柳艦長の手によって各地に仕掛けられていた爆竹が一斉に爆発し、大和
の悲鳴が上がる。



「・・・フッ、ニヤリ」


それを見た高柳艦長の口元に、悪人顔負けの笑みが浮かぶ。



ちなみにこの一品、八つ当たりはよくないと反省した高柳艦長が用意した直接復讐用小道具・・・の1つである。


高柳艦長が反省した最大の理由が、副長への八つ当たりによる減給であることは言うまでもない。


さらに言えば八つ当たりグッズは当然の如く高柳艦長の自腹であったため、比較的安価な爆竹を利用しただけの事で
ある。



戦時中なのに、少量とはいえ、火薬を使う爆竹が本当に安価なのかは気にしてはいけない。


一斉に爆発させる装置なんて簡単に作れるのか、などということも勿論気にしてはいけない。



突然艦内各所で爆竹を爆発させたことで乗員が数名怪我を負い、結局高柳艦長にはハワイ沖海戦の時を上回る減給
が課せられたことに関しては、彼の不幸を望む人だけが気にすればいい事である。





(な、な、な、何すんだよ〜!!)





「・・・何の事だ?」


高柳艦長とぼける。





(惚けるな〜!!今艦内で滅茶苦茶爆竹爆発したじゃん!)





「そんなことがあったのか。それはいかんな。後で犯人を探しておこう」


高柳艦長さらにとぼける。





(犯人はあんたでしょうがっ!!)





「それは聞き捨てならんな。何か証拠でもあるのか?」


高柳艦長もういっちょとぼける。





(証拠って・・・こんなことするのは高柳艦長だけだよ!!)





「言い掛かりはやめてもらおう。俺は知らん」


高柳艦長とことんとぼける。





(くっ!!)



(あの〜・・・)





高柳艦長のとぼけっぷりに歯軋りする大和であったが、その時ピン!と閃いた。





(ふっ、高柳艦長も知ってるでしょ?「大和」艦内のことは僕には全てお見通しなんだよ)





「見える事と、見ていた事は全く別物だな」





(ぐっ・・・)



(あの〜・・・)





「全てを見れる。だが見ていなかった。証拠はないな」





(く・・・くっそう!!)





「ふっ、諦めがついたか」





(あの〜・・・)



(そんなことばっかりやってると、いつか地獄に落ちるぞ〜!)





「貴様にだけは言われたくな(ドムッ!!)・・・い・・・な?」



勝ち誇った顔で大和をあしらい続けていた高柳艦長の面前で、何処からともなく飛んできた銃弾が艦橋のガラスを叩
き、顔から血の気が一気に引く。


それはつまり、「大和」の船体を銃弾が直撃したということであり、大和も顔面を蒼白にしていた。



その「大和」から僅かに離れた所にいた「武蔵」の25ミリ機銃の1つが、何故か銃弾が命中した箇所に狙いを付けてお
り、まるで今しがた発砲したかのような煙を上げていた。





(あ、あ、あ、あ、あの〜・・・武蔵さん?)



(はい?なんでしょう?)





恐る恐る武蔵に呼びかける大和で、武蔵はニッコリと微笑む。


わざわざ姿を現して、での笑顔である。



本来であれば大和の心の奥までガッシリと掴み、大和にしか見えないのが残念でならない程の笑顔であったが、この
時の大和は何故か全身から冷や汗が止まらなかった。


見れば「武蔵」の突然の振る舞いに文句を言おうとしていた、武蔵が見えないはずの、高柳艦長も直立不動状態で冷
や汗をダラダラ流していた。



出元は不明であるが、その場を何か得体の知れないオーラが包み込んでいることは事実のようである。





(え、え、え、え〜と・・・今・・・いえ、何でもないです)





それでも果敢に真相究明に乗り出そうとした大和であったが、謎のオーラが物質化しそうなまでに強くなったのを察して
諦めた。


某「身体は子供頭脳は大人な名探偵」や某「有名な祖父を持つ名探偵」とは違い、大和には真相よりも自分の命が大
切なのである。



この状況においては、賢明な判断と言わざるを得ないであろう。





(それよりも大和さん、どうやら彼らが動き始めようですよ?)



(え?)





真相究明を諦めたことで、何故か一気にオーラが去り、動けるようになった大和が武蔵に言われた視線を向けた先で
は・・・



ババババババ・・・


ブウォーン・・・



200機を超えるユニオンジャックをつけた航空機が「大和」「武蔵」の周りを飛び交っていた。


とはいえ、この世界が物理法則によって支配されている以上、彼らが突然魔法のように現れたわけではない。



彼らが大和や武蔵の視界に捉えられたのは、両艦が湾内への突入を決断した直後。


そう、「大和」「武蔵」が突然動きを止めたあの時である。



あれからそれなりの時が流れ・・・



大和や武蔵、挙句の果てに高柳艦長にまで完全に無視される形となっていた彼らは、なぜか両艦から一定の距離をお
いて飛び交うのみであった。


折角満を持して襲来したにも関わらず、無視されたことで拗ねていた・・・わけではないだろうが。



そんな彼らが、ついに動きを見せたのである。


ということで、先ほどと大和、武蔵、高柳艦長の動きをまとめるとこうなるのである。



大和、武蔵が敵機に気付き、足を止める。

      ↓

それを高柳艦長が注意

      ↓

大和、武蔵が流れで雑談を交わす

      ↓

それを注意しようとした高柳艦長が、これまた流れで大和と言い争いになる

      ↓

敵機が動きを見せたことを武蔵が大和と高柳艦長へ「穏便」に報せる

      ↓

そして今・・・





(わっ!何時の間にかこんな近くにまで!!)





「私が何度も注意しようとしたのに、貴様らが下らん雑談をしているせいだろうが!!」





(結局注意してないじゃん!それどころか、下らないことまでして!!)





「何だと!!」





バンッッ!!!





(・・・・・(汗))





「・・・・・(滝汗)」





(攻撃をここまで遅らせたということは、敵が何か企んでいるかもしれません。気をつけていきましょう)





大和、高柳艦長揃って勢い良くコクコクと頷いきながら、「敵」との戦いに備えるのであった。








(ひょ、ひょっとして真の敵はむ・・・いやいや、考えるだけでも恐ろしい・・・)
















<次回予告>


「大和」の巨砲が大地を揺らす。


「武蔵」の巨砲が全てを壊す。


繰り出される英国の刺客。



乾坤一擲の一撃が「大和」へと振り下ろされる。





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く」


「第31話 海狼たちの牙」






インド洋の歴史がまた1ページ。






(いい加減当てにならない次回予告はやめない?)










〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうも「やまと」で御座います。


本当なこの話で戦いに突入するはずだったんですが・・・なぜこんなことに(汗)


ま、まあ完結まで1話延びただけだと思えば・・・



ということで、次回こそ戦いの始まりです!



それではまた次回お会いしましょう〜。




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