いまだ残暑厳しい9月。


そして、それに劣らぬ激しさを見せる太平洋戦争。


そんな状況で新たに大小5隻の艦が、白くはっきりとした航行線を残しながら一路南下、戦場へと向かっていた。


言わずと知れた独立遊撃艦隊、通称「菊水艦隊」の面々である。



先の作戦会議のすえようやく決定した「米豪遮断作戦」。


いよいよ、待ちに待った「菊水艦隊」の初陣である。



前衛に「利根」と「神通」を配し、中央に「陸奥」、後衛に「大和」、「陸奥」を置いた、たった5隻であるもののその威風た
るや極めて堂々としたものであった。


・・・もっとも、それは彼らの話し声が聞こえないおかげなのかもしれない。





「愉快な大和君、戦場を逝く(異伝)」


「第14話 初陣」







(・・・なんか鬱陶しくありません?)





大和が何処と無く不快そうな表情で、傍らの陸奥へと話し掛けた。





(まあ、私達に合わせてくださっているのですから文句は言えません)





陸奥がそんな大和をやんわりと宥めるが、大和の機嫌はいまいち直らない。



そんな会話を交わす二人の視線の先には、激しく蛇行を繰り返す2隻の艦、「利根」と「神通」の姿があった。





(船になってまでダンスする趣味はないんですけど・・・)



(ま〜・・・魚雷回避の練習に成れば良いかな?と思えば気が楽ですよ〜利根さん)





一体なぜこんな状態になっているのかには、少し説明を要するだろう。



既にわかっている通り、船魂艦は船魂の力を加えて走ると燃料を消費しなくて済む。


普通に歩いている程度の速度で移動している時に、疲労が最も少なくなると考えればそれは各艦独自の最大速度+3
ノットといったところになる。


それを「菊水艦隊」所属艦ごとに示すと、


「大和」・・・30ノット


「陸奥」・・・28ノット


「金剛」・・・33ノット


「利根」・・・38ノット


「神通」・・・38ノット



最大差10ノット(18.25キロ)。


「陸奥」から見れば、「利根」と「神通」が自転車程度の速度で遠ざかっていく感覚である。


そんな5隻が一緒に行動しようというのであるから、速度の速い艦は当然蛇行を余儀なくされるのだ。



大和にもその辺の理屈はわかっている。


わかっているのだが・・・





(や、やっぱり鬱陶しい・・・ブツブツ・・・)





いかに理由があろうとも、直進している自分の目の前を蛇行されては、進路妨害されているようにしか思えない。


2艦が速度を「大和」に、正確には「陸奥」に合わせているため、なおの事である。





(なんか暴走族みたいだよね・・・どうせなら「菊水艦隊」じゃなくて「愚連隊」にでも変えようか・・・ブツブツ・・・)





思わずそんな下らない考えも頭を過ぎる。


大和の考えで、下らなくないことはあったのか?などと思ってはいけない。





(あの〜、その中に私も入っているんでしょうか?)



(・・・え?)





1人自分の世界で愚痴っていた大和が、金剛の呼びかけで現実に引き戻された。





(え?え?え?)



(いえ、ですから暴走族の中に私も入っているのかと・・・)





「利根」「神通」に比べればその蛇行は緩やかであるが、金剛には少し気になるらしい。





(え〜と・・・)





口に出していたつもりはない大和は、金剛の言葉に困惑するが





(あの大和さん・・・我々って思ったことがそのまま声に出てしまうんですけど・・・)



(・・・おお!そう言えば!)





陸奥の解説で、ようやく合点が行った。



軍艦に宿っている彼ら船魂に口というものは存在しない。


ではどうやって会話しているのかと言えば、ただ「思え」ばいいのである。


言葉による会話というよりも、テレパシーの一種と考えた方が良いかもしれない。



そんなわけで・・・





(ということは・・・僕達は隠し事が出来ないってことですか?)



((はいっ))





今更ながらにそのことを理解した大和に向かって、陸奥と金剛の2人がなぜか元気良く答えた。





(シクシク・・・僕のプライバシーって一体・・・)



(それは・・・)



(私達が聞きたいです・・・)





(((はぁ〜〜)))





大和の詰まらない一言がきっかけで、後衛3人の間には思い空気が流れた。



船魂になるのはよくても、プライバシーは欲しいらしい。


いまいちよくわからない連中である。







(なんか後ろの三人、暗くないですか?)





先頭を蛇行しながら進んでいるため、大和達の話には加われずにいた利根が後ろの雰囲気が変わったのを敏感に察
する。





(2時方向にノースカロライナ級発見!!面舵いっぱい突撃ぃ〜9時方向に敵水雷戦隊ぃ〜急速回頭全速ぅ〜)





・・・が、神通に掛かってはどうなるものでもなかった。



利根もそれっきり黙り込む。





(・・・・・)


(なんて早く戦いたいなぁ〜 あ〜魚雷、魚雷撃ちたいぃ〜)





全くもって会話が成立していない。



何しろ「菊水艦隊」でも随一の思慮深さを誇る利根と、大和と共に変人部門1、2を争う神通である。


少なくとも会話があまり成立しないことは確かであった。





(ねぇ神通さん、少々提案したい事が…)


(やっぱ魚雷は一度に全部発射すべきかな?でもそれだとあとで足りなくなりかねないし、次発装填もあるし…う〜ん悩
むなぁ…えっ?何です利根さん提案って?)





2人が後ろとは一風変わった雰囲気を漂わせる中、利根が神通へと話し掛けた。





(どうせ後ろの三人とは速力が合わないんですから、速力差を活かして対潜哨戒でもしませんか?)


(対潜哨戒!!なるほど…)





利根の提案に神通が食いつき、少しだけ真面目モードに戻る。





(「菊水艦隊」で対潜活動を出来るのは私達だけです。我々の速力なら潜水艦に襲われる事もないかもしれませんがや
っておいて損はないでしょう。ただ蛇行しているよりいいと思うんですが…)





対潜哨戒。


その名の通り潜水艦に対する哨戒活動である。


第二次大戦当時では、主に駆逐艦や巡洋艦、そして海防艦の任務となっている。



逆に、軽快性に欠ける戦艦はあまり行なわない。


対艦攻撃力では群を抜く戦艦にも、苦手な分野というものがあるのだ。





(具体的にはどうしましょう?) 


(いくら我々でも2隻だけじゃ凝った事は出来ないですからね。周囲を警戒しながら大和さん達の周囲を旋回してはどう
でしょう?)





対潜哨戒と言っても、今の時代ならまだしも、この時代ではやることはそれほど多くない。


艦に装備されているソナーで敵潜水艦の音を感知しようと試みるか、少しでも早く潜水艦が放った魚雷を見つけるため
に周囲を警戒する、ぐらいである。





(了解ぃ〜じゃあ左回りに行きますね〜)





言うや否や、たまたま左側と走っていた神通が、舵をさらに左に切り、旋回を始める。


一見ただの変な船魂だが、やると決めたことに対する行動は早い。





(それでは私もいきますか…)





神通に僅かに遅れて、利根も旋回を開始した。



気の合わないとも思われた両者であったが、こと軍事的な事に関してはそうでもないようだ。


考えて見れば、しょせんは船魂になってしまうような人物である。


根本的な所では同類なのかもしれない。



何はともあれ、真面目にやる気を見せた2隻の艦は、衛星のように大和達の周囲を回り始めた。







(・・・あ、あれ・・・何だと思います?)





自分達の周囲を周回している「利根」と「神通」を見ながら、大和の口から自然と言葉が零れる。


その表情は、決して真面目な彼らに感心している、といったものではない。





(対潜哨戒だとは思いますが・・・)



(・・・ですよね)





大和の表情に引き摺られたわけでもあるまいが、陸奥と金剛の表情も決して芳しいものではなかった。





(そうですよね・・・対潜哨戒ですよね・・・)





僅かとは言え軍事知識を有している大和には、いくらなんでもそのぐらいわかる。



だが、それでも聞かずにはいられなかった。





(・・・で?どう思います?)





大和が続けて聞く。


その問い掛けを受けた陸奥が何故か慌てた感じで口篭る。





(え?い、いえ、それは・・・ねぇ・・・)





陸奥は自分で答えずに、金剛へと振った。


今度は金剛が慌てる番である。





(え、ぼ、僕ですか?ぼ、僕は真面目で偉いな〜と・・・)





語尾を濁しながらも、何とか取り繕う金剛。





(でもあれって・・・)





その金剛の答えを聞いているのか、いないか。


大和は視線で2隻の艦を追いながら呟きを続ける。





(どう考えても・・・)













(((鬱陶しいですよね・・・))))





3者の、心からハモりであった。



何せ「大和」、「陸奥」、「金剛」の三艦は会話するためにかなり接近している。


「大和」と「金剛」が僅かに蛇行しているとはいえ、この三艦を中心とした円の半径はかなり小さい。



必然、ある程度距離を置いて周回しているとはいえ、「利根」と「神通」の周回速度を思いのほか早いものとなっている。


対潜哨戒艦が2隻しかいない以上、その方がいいわけではあるが、大和達の目から見た2隻の艦は物凄く邪魔だっ
た。



鬱陶しかった。



たまに、「大和」らの主砲が「利根」と「神通」を追いかけるのも無理無いことかもしれない。









(なんとなく戦艦のみなさんに狙われてるような気がするのは気のせいですかね…ハハッ、ハハハッ)





明るく務めている利根であったが、どう見ても引き攣り笑いにしか見えない。





(陸奥さんの主砲がこっち向いてるぅ〜)





神通も悲鳴っぽい声を上げているが、神通だけにどこまで本気かは不明である。





真面目にやっているにも関わらず、思いっきり邪魔者扱いされる両艦。



縁の下の力持ちである小型艦というのも大変である。








悲喜交々・・・



様々な思いを孕みながら、「菊水艦隊」は決戦の地へと近付きつつあった。
















<次回予告>


迫る決戦の時。


揃う船魂の心。


打ち上げられる砲火。



菊水艦隊の長きに渡る戦いは今その幕を開けようとしていた。





次回!


「愉快な大和君、戦場を逝く(異伝)」


「第15話 初戦果」






皇国の歴史がまた1ページ。






(その作戦・・・僕はおいしくないぞ・・・)










〜〜〜〜〜後書き〜〜〜〜〜


どうも「やまと」でございます。



それにしても、一体何年ぶりの(異伝)更新でしょうか・・・


次は速やかに更新出来るといいですね☆


( ´−`).o○(同時更新だけど(笑))



それではまた次回お会いしましょう〜。






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